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特集/発達障害って?(2018/10)
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発達障害についての「よくある誤解」
Q.「発達障害」という言葉を、マスコミでも目にすることも多くなりました。
沢井 はい。その背景の一つは法整備が進んだことです。2005年に「発達障害者基本法」が、13年には「障害者差別解消法」がそれぞれ施行され、発達障害の人に対して支援し、合理的配慮をすることが法的にも必要になってきたのです。もう一つは、13年から精神障害の診断基準が「DSM―Ⅴ」というものに変わったことです。それ以前は自閉症、アスペルガー症候群などと細かく分けられていたのに対し、「DSM―Ⅴ」では「自閉症スペクトラム障害」(ASD)という概念に包括されました。そのことによって一般の人たちにもわかりやすくなり、私たちも「ASDですよ」などと告知しやすくなりました。
Q.「発達障害」という言葉が一般化するにつれ、誤解も多く見られるようになってきたと思います。さっきの話と合わせて、もう少し詳しく教えてもらえますか。
沢井 一つは発達障害とは「ある脳機能の特性を持った一群」の総称であって、個別の疾患名ではないということです。具体的には、知的には問題がないが、コミュニケーションや臨機応変が苦手な「ASD」、注意の維持や衝動性に課題のある「ADHD(注意欠如多動性障害)」、それに読み書きや算数だけが特異的に出来ない「LD(学習障害)」、この三つが発達障害に含まれます。そういったものが発達障害のなかにあって、あなたはASDですよ‥‥などと告知しています。
Q.最近、「大人の発達障害」という言葉もよく聞きますがこれも「大人になってから発症した発達障害」という誤解を招きやすいと思います。
沢井 そうですね。発達障害は生まれつきのものですから大人になってから発症することはありません。ただ、高機能の(=知能の遅滞がない)発達障害の場合、子どものころには障害が顕在化しなかったケースも多いのです。学校時代の勉強やスポーツは手順ややるべきことが明確で、いわゆる構造化がされておりますから、発達障害があっても成績はとれます。
ところが、社会人になると、仕事の全体像をとらえ、優先順位をつけて自分で仕事を組み立てていかなければならないので、発達障害の人には難しくなってきます。こういったときに障害の面が露呈し、「発達障害が発症した」かのように見えてしまうことがあるのです。
過剰診断の問題
Q. もう一つの誤解として、「コミュニケーションが苦手な人」のことをすぐに「発達障害ではないか?」と見なす風潮が、最近ありますね。それが、いま問題になっている「過剰診断」(=発達障害ではないのに、発達障害と診断されてしまう)の背景にもなっているわけですが…。
沢井 「コミュニケーションが苦手」な人がみんな発達障害であるわけではありません。例えばASDでいいますと、私どもの世界で俗に「三つ組み」と言いますが、「社会性の障害」と「コミュニケーションの障害」、そして「イマジネーションの障害」……その三つが揃っていないとASDではないのです。また、そうした傾向が幼少期から見られるという点も、診断には必要なります。ですので、幼少期からの生育歴の聞き取りは、確定診断に必須です。
Q.「イマジネーションの障害」とは、どういう意味でしょう?
沢井 私たちは、たとえば通勤するだけでもいろんな想像力――イマジネーションを働かせています。「電車が途中で事故を起こして止まった場合はどうしよう?」とかいうことを、実はオートマチックに考えているのです。ところが、発達障害の人はそういった想定をせずに電車に乗っています。だから、通勤電車が事故で止まったとか、いつもに無いことが起きるとビックリして、どうしたらいいかわからなくなってしまったりしてしまうのです。
Q.そのような日常レベルの予測・見通しの能力が乏しいことが「イマジネーションの障害」なのですね。だからこそ、発達障害のもう一つの特徴である「同一性へのこだわり」が生まれる、と……。
沢井 そうです。発達障害の人は「いつもと違う」と感じると不安になってしまいます。だからこそ、同一性に過剰にこだわる。たとえば、特定のモノに強く執着したり、特定の道順で行き帰りすることに執着したりするのです。
ASDという障害の本質
Q.ASDという障害の本質的なところを先生はどう考えておられますか?
沢井 ASDの脳の特性の説明原理はいくつかありますが、私は「シングルトラック」、つまり「同時に並行して複数の情報処理をすることが苦手」という脳機能の特性が、この障害の本質だと考えています。私たちは会話をするだけでも、無意識のうちにいくつかのことを同時並行でこなしています。相手の話の内容に注意を払い、声の調子にも注意を払い、表情の変化という視覚情報も処理し……という具合です。ところが、ASDの人はそういう同時並行作業が苦手です。言葉の意味に注意を向けたら、声や表情には注意が向かなくなってしまう。だからこそコミュニケーションが苦手で、「空気が読めない」と言われてしまったりするのです。
仕事においても、「ゆっくり、ていねいにやってください」と言われたら指示通りにできるけれど、「ていねいに、かつ急いでやってください」と言われると、途端に難しくなってしまったりします。
なるほど。そういう特性があるからこそ、「仕事ができない」と評価されてしまったりするわけですね。
発達障害の告知と治療について
沢井 告知の話に移ります。人間の性格の場合、短所は裏返せば長所であったりしますね。気の弱さという短所が優しさという長所でもあったり……。発達障害における「同時並行の情報処理が苦手」という特性も、裏返せば「一つのことに集中して取り組める」という長所でもあります。ですから私は、発達障害を告知する場合にも「障害」とは言わず、「脳機能の特性」であって、「良い悪いではない」といった伝え方をします。それと、病名を伝えるだけでなく、その特性について対処法があること、対処すればうまくやっていけるようになることなどを必ずセットでお伝えするべきだと思いますね。
Q.じっさい、偉大な芸術家やイノベーターには、発達障害だったと考えられている人も少なくないですね。発達障害の特性を周囲がよく知って、それを生かすことが大切なのだと思います。
沢井 ええ。発達障害の特性を生かすための対処の一つに、「構造化」と呼ばれるものがあります。かんたんにいえば、仕事の手順などを目で見てわかるようにして、見通しがつきやすくしてあげることです。図や時間割にして視覚化するとか、優先順位を明確にするとか……。周囲がそういう工夫をすることで、発達障害の人は能力を発揮しやすくなります。仕事の種類によっては、定型発達(発達障害ではない)の人以上の能力を発揮できます。
Q.発達障害の治療薬はあるのでしょうか?
沢井 ADHDについては、根治はできないものの、症状を大きく改善させる薬がすでにあります。それを服用することで、落ち着きが出てきたりする効果がある薬です。
ASDについてはそのような治療薬はまだありません。ただ、ASDから派生する二次障害(うつ状態・強迫症状・不安・不眠など)については、それぞれ改善させる薬がありますから、処方します。二次障害に対する処方薬については、定型発達の人よりもむしろ発達障害の人のほうが、意外とよく効く傾向があります。ASDのコミュニケーション障害などの一次障害に対しては、薬物療法より心理社会的治療ですね。昭和大学で開発された「発達障害専門プログラム」がエビデンスもあるとのことで、宇治おうばく病院では平成二十八年から導入しています。
「きらり」は、人間関係の練習をする場
Q.「きらり」には、その「発達障害専門プログラム」があるそうですね
市田 はい。「発達障害専門プログラム」を持っているデイケア施設は、「きらり」を含めて近畿地方に三つしかありませんが、その一つです。
Q. そのプログラムをおこなっているデイケア、リカバリーセンター「きらり」というのは、全体としては、社会復帰のためのリハビリを行っているとお聞きしました。
市田 そうですね。いまの参加者は平均すると30代くらいですが、みなさん就職や復職を目指しています。
志水 内容としては、コミュニケーション講座とか、認知能力の特徴、得意・不得意を把握したり、トレーニングするプログラムとか。あとは、ご自分の障害の特性を学ぶ講座もあります。たとえば、発達障害以外にも気分障害圏講座や統合失調症講座があり、症状に合わせて講座に参加していただけます。
市田 プログラムは集団で行うものが中心です。というのも、「対人関係能力を育み、社会にどう適応していくか?」のが眼目だからです。実社会に出る前のワンクッションといいますか、「他人とかかわる練習をする場」が「きらり」なのです。
志水 発達障害の人は、これまでの人生で「人の集団から弾き出されてつらい思いをした体験」を重ねてきています。そういうつらい体験だけでなく、「よい人間関係の体験」もあるということを、「きらり」で体験してほしいと思っています。
Q.「人間関係における成功体験」というか。
志水 そうですね。そういう成功体験を積むことによって「社会は怖い」「人間関係は苦手だ」という意識が変えられたらいいなと思います。
市田 プログラムを通して、「人に認めてもらう体験」とか「集団の中で、ある役割を果たす体験」をすることによって人間関係に対する自信がつくのです。
志水 それと、同じような苦しさを味わってきた仲間と「きらり」で出会うことによって、「自分の気持ちをわかってもらえる」という喜びも体験できますね。
市田 特に「発達障害専門プログラム」では、同じASDを持ったメンバーたちが集まるので、みんなで「発達障害あるある体験」を語り合って盛り上がったりしますね(笑)。
もちろん、実社会と同じように、「きらり」で人間関係の失敗を体験することも、時にはあります。でも、実社会で人間関係で失敗したら大変ですが、「きらり」では失敗しても大丈夫なんです。スタッフがちゃんとフォローしますし、失敗も「人との距離の保ち方」の貴重なトレーニングとなります。
発達障害の人にとって「きらり」は、得難い「仲間と出会い、さまざまな体験をできる場所」となっているのですね。ありがとうございました。
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