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特集/就労・復職支援3施設どこを選ぶ?(2020/02)
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まず、3施設の大まかな立て分けから
栄仁会には、就労支援を行う施設として「ワークネットきょうと」(以下、ワークネット)と「リカバリーセンター・きらり」(以下、きらり)、復職支援を行う部門として、「京都駅前メンタルクリニック」に付属する「バックアップセンター・きょうと」(以下、BUC)があります。
3つはそれぞれ特性が異なるわけですが、一般の利用者から見ると、その違いがわかりにくいと思うんです。そこで、3施設の違いを浮き彫りにして周知する記事を作ろうというのが、今回の企画です。
Q.まず、基本的なことですが、就労支援と復職支援は違うのでしょうか?
松田 復職支援も広い意味では就労支援に含まれます。ただし、復職支援という場合は、「一時的に休職中の方が元の会社に復職するのを支援する」という位置づけになります。
Q.3施設の中で、BUCは復職トレーニング専門の精神科デイケアを行っているのですね。
松田 はい。うつ病などの気分障害やストレス疾患で休職中の方が、BUCの対象になります。
Q.それに対して、ワークネットは就労経験がない方の就労を支援するのですか?
金森 いや、そうとは限らないですね。求職中で社会復帰を目指している利用者も多いです。むしろ、「一度も働いたことがない」という利用者は一割もいないと思います。
ただ、BUCの利用者は復職一歩手前の休職者が多いのに対して、ワークネットは再就労までにもう少し準備・訓練の必要な方が対象になります。あいさつ・身だしなみ・言葉遣いなどの基礎訓練から始めますから……。「働きたい」という意欲のある精神障害をお持ちの方に就労を目指した支援を提供するのが、ワークネットです。
なお、ワークネットでの就労というのは、「障害を開示しての、障害者雇用枠での就労」の支援がメインです。つまり、精神障害者手帳を所持している人が、その手帳を企業側に提示し、障害者雇用促進法の制度に基づいて職場からの配慮を受けながら就労するケースが大半になります。
Q.ワークネットときらりは、共に精神疾患を持つ方への就労支援を行っているわけですね。では、2つの施設の役割の違いは?
金森 まず、制度上の基本的な違いとして、きらりは医療サービスとしての精神科デイケアであるのに対して、ワークネットは医療サービスではなく、福祉サービスとしての就労移行支援事業所です。就労移行支援事業所は制度上、医療や福祉、リハビリに関するスタッフを置く必要はないのですが、当ワークネットは医療法人を母体としているので精神保健福祉士などの医療スタッフを置いており、このことも専門性を担保するひとつの特色となっています。
Q.なるほど。一方、きらりのウェブサイトを見ると、「社会復帰のためのリハビリ」の施設だという説明があります。そこから、きらりは3施設のうちで〈訓練的な色がいちばん薄い施設〉という印象を受けるのですが、どうでしょう?
森永 その理解で合っていると思います。精神疾患をお持ちの方は、生活のリズムが大きく崩れてしまったり、人とのコミュニケーションが極度に苦手になってしまったりしがちです。「誰かと一緒に決まった作業をする」とか、「毎日決まった時間に何かをする」といった体験から離れて久しい、という方も多いのです……。
そのような「生活していくうえで最もベーシックな能力」を、リハビリ・プログラムや他の利用者との交流の中で高めてもらうことが、きらりの大きな役割です。
Q.それに対して、ワークネットのプログラムはもっと「職業訓練」という色合いが濃いわけですね?
金森 そうですね。ワークネットでは職場での体験実習とか、実地のレベルで訓練していきますから。そこがきらりとのいちばんの違いです。
Q.では、「利用者が3施設のうちどこを選ぶべきか?」の大まかな基準をまとめるとしたら?
森永 ケースバイケースではありますが、大まかに言うと次のようになります。
◎精神疾患による休職中で、復職先企業による受け入れが決まっている場合は、「BUC」に。
◎精神障害があり、障害を開示したうえでの就職を目指している場合は、「ワークネット」に。
◎精神疾患を持っていて、「いずれは就労したいけれど、できるかどうかわからない」という葛藤がある方、基礎的な生活能力に不安がある方、またはこれまでに就労経験がない方は、「きらり」に。
就労・復職は「ゴール」ではない
Q.3つの施設はそれぞれ、精神疾患を持つ方の就労・復職に大きな実績を上げてきたと思います。たとえばBUCの場合、2006年からの利用終了者732名中、507名が復職を果たしたというデータがあります。
松田 精神科デイケアの「リワークプログラム」の平均復職率が7割程度と言われていまして、うちも約7割ですから、平均的だと思います。ただ、利用者がよく言われる言葉に、「私にとって、復職はゴールではなくスタートです」というものがあります。これはほんとうにそのとおりで、復職ができればいいというわけではない。働きつづけることができて、再発しないことが重要なわけです。そのためにも再発防止はとても重要で、リワークプログラムの大きな役割だと思っています。
業界全体としても、復職率よりもその後の定着率のほうが重視されるようになってきました。というのも、医師が「この患者は復職できます」という診断書を書き、会社側がそれを受け入れたら、本人の病状や能力がどうであれ「復職できてしまう」ものだからです。でも、無理に復職して再発したら、元も子もありません。
Q.ワークネットの場合、昨年度の利用者中19名が就職し今年も10月1日の段階で19名が就職しています。利用者のほぼ9割ですね。
金森 そうですね。ここ何年かずっと、利用者の約9割が就職を果たしています。ただ、BUCと同じで、就職それ自体が目的ではないんですね。就職後にやりがいを持って、安定して仕事をつづけていけることが何よりも大事です。だからこそ、ワークネットでは就職後の定着支援に力を入れています。
ただ、数字には表れない〝見えない成果〟はたくさんあります。たとえば、たった今お伝えしたように、就労に必要な能力と本人の能力のギャップを埋めて就労に一歩近づけること。あるいは、ご本人が幸せに生活していくための方向性を見出す端緒を提供すること……そういった面で、きらりは大きな役割を果たしていると自負しています。
Q.そういえば、学生生活につまずきそうな大学生が予防的にきらりを利用することもあるそうですね。
金森 ええ。たとえば、精神疾患で大学を休学中の学生が、「いずれは復学して、卒業後に就職したいので、そのときに備えたリハビリがしたい」ということで利用されたりします。きらりの「心理教育」プログラム(自らの精神疾患についての病識を深め、調子が悪くなったときの上手な対処法などを学ぶ)にだけ参加されるケースも多いです。
3施設それぞれの「強み」について
Q.栄仁会のように、方向性の異なる3つの就労・復職支援施設を持つ医療法人は、ほかにあまりないのでは?
松田 そうですね。そもそも、就労・復職支援施設を持っている医療法人自体が少ないですから……。リワークプログラムを行う施設も、大阪はやや多いですが、京都にはほんの数ヶ所しかありません
Q.同じ法人内だからこそ、他の施設への移行もスムースにできますね。
森永 はい。とくに多いのは、きらりでリハビリをある程度進めてから、「ベーシックな能力が高まってきたから次はもう少し就労に特化した訓練を行ったほうがいい」ということでワークネットに移行する例です。逆に、「BUCやワークネットを利用してみたけれど、自分には合わない」という方が、きらりに移行してくるケースなども多いです。
Q.最後に、3つの施設の「強み」を挙げてください。
松田 BUCの場合、仕事の取り組み方、コミュニケーションや考え方の癖などを振り返るためのグループワークを多く実施している点です。その他にも、リワークプログラム修了者を対象とした、復職後の「フォローアッププログラム」の充実が大きな強みです。うちの場合は月3回土曜日に実施していて、復職後の悩みを相談できる場があることで、再発予防に大きな役割を果たしています。
森永 きらりの場合、楽しいリハビリ・プログラムが多いということが強みでしょうか。日常的な水準で、利用者同士で関わるプログラムが多いので、純粋に楽しさを感じられると思います。精神疾患によって人間関係につまずき、人と関わること自体がつらいと感じている方が多く利用されているので、そうした方にも「人と関わる楽しさ」を思い出してもらえると思います。
金森 ワークネットの場合はまず、他の就労移行支援事業所に比べて、専門職のスタッフが多いことが大きな強みです。また、スタッフ体制自体も他の施設に比べて厚いです。現状でいえば、利用者19人程度に対して、スタッフが8名もいますから。その分、手厚くケアできます。就職後の定着支援の手厚さ・きめ細かさも、どこにも負けないと思っています。
ありがとうございました。
(取材・原稿)前原政之
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