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特集/リワークプログラム(2018/02)
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「リワークプログラム」って、どんなもの?
栄仁会の「京都駅前メンタルクリニック」に併設された「バックアップセンター・きょうと」(以下、「BUC」と略)――。うつ病、双極性障害、ストレス関連疾患で休職中の方々のリワーク(復職)を支援する通所施設だ。そこでは、復職準備と再発防止のための多彩なリワークプログラムが提供されている。
一昔前まで、うつ病などで休職した場合、「しばらく自宅で休養し、調子が戻れば復職」という流れが一般的だった。しかし、「復職はしたものの、また症状が悪化して再休職する」という事例が多いため、近年、休養と復職の間をつなぐ「リハビリ」のフェイズの重要性に光が当たっている。そこから、「BUC」のようなリワーク施設が全国的にも増えているのだ。
とはいえ、リワーク施設とはどのようなものなのか、よくわからない人がまだ多いだろう。
BUCの場合、利用希望者はまず、スタッフによる面接と施設見学を行う(その前に精神科主治医の許可が必要)。その後、リワーク担当医による診察を受けたうえで、プログラムが開始される。
開始から”卒業“までの期間は決まっていない。医師とスタッフが「復職可能」と判断することで”卒業“となる。2ヶ月で”卒業“する人もいれば、1年半通所を続ける人もいるという具合だ。
”卒業“までのリワークプログラムは四つのステージに分かれ、ステージごとに内容が異なる。たとえば、最初の「ステージⅠ」は生活リズムや気分体調の安定を図り、集団に慣れることなどを目指すもので、簡単な作業が中心となる。ステージが進むにつれ、少しずつ高度な内容となる。
プログラムは多岐にわたる。デスクワーク(読書・パソコン学習など、各自の課題に応じた作業)、認知療法、コミュニケーション練習、アサーション・トレーニングなどを行う「コミュニケーション講座」や「ストレスマネジメント講座」、復職後の仕事に役立てるための「模擬会議」、ヨガやアロマセラピーなど…。
復職後の”軌道修正“のための「フォローアッププログラム」
BUCでは、プログラムを修了した人を対象にした「フォローアッププログラム」が、土曜に行われている。ある日のフォローアッププログラムに、参加してみた。
ラジオ体操から始まった約3時間のプログラムは、想像していたよりも楽しそうで、和気あいあいの雰囲気。マインドフルネス瞑想やアロマセラピーの時間もあるが、メインとなるのは参加者が自由に語り合う「ミーティング」だ。
この日の参加者は20人ほど。全員で語り合うには多すぎるため、2つのグループに分ける。スタッフはオブザーバーに徹して、口出しをしない。各グループの司会役はベテラン参加者が務め、うまく発言を引き出していた。
復職後のさまざまな悩みが赤裸々に語られ、他の参加者が自らの経験に基づいたアドバイスをする。
たとえば、「復職してから、以前は仲がよかった同僚とうまく付き合えなくなってしまった」という悩みには「気の合わない人とは、一時的に距離を置くのも手ですよ。自分の体調維持を最優先すべきだから」というアドバイスがなされる。
「出勤してしまえばなんとかなるんですが、出勤するまでがつらくて不安で……」と、復職2ヶ月目の参加者が発言する。「私も最初のころそうだった」という共感の声が上がる。
「元の職場に復帰したので、上司や同僚の目が気になって仕方ない。とくに、自分だけが定時で帰るときなどに……」という悩みには、別の参加者が「私も同じように感じた時期があったけど、産業医から『残業している人たちは、アンタのこと気にしてへんよ』と言われて、それから気が楽になった」と応じていた。
参加者にフォローアッププログラムの意義を聞いてみると、次のような声が上がった。
「うつ病などで苦しんだ経験を持つ者同士だからこそ深くわかり合える面があります。気持ちが共有できると、それだけで安心感につながります。それに、仕事上のことで悩んでいるときにも、フォローアッププログラムに参加して話をすれば、解決の糸口になるような意見が聞けます」
また、2人の人が異口同音に、「リワークプログラムで学んだことを、忘れてしまっている場合がある。たまにフォローアップに参加することで、それを思い出せる」という”再教育効果“を語っていた。
せっかく復職しても、不安や忙しさなどから、”卒業“時の良好な心理状態から少しずつズレていってしまうことはよくある。そのズレが少しずつ大きくなっていったとき、再発→再休職に至ってしまうのだろう。フォローアッププログラムには、そのズレがまだ小さいうちに、他の参加者との対話などによって”軌道修正“できるという意義があるのだ。
卒業生座談会~「BUC」のここがよかった!~
Q. BUCのリワークプログラムを経て復職を果たされた方々に、お集まりいただきました。まず、プログラムのどのような点が復職に役立ったと感じていますか?
A 僕の場合、二つあります。一つは「今までの自分を振り返る」というプログラムです。自分の病歴って、振り返るだけでもつらいし怖いから、普通はなかなか振り返らないものです。でも、「自分にどういう心理的傾向があって、どういうところでつまづいてうつ病になったのか?」ということをしっかり認識しておくことは、再発防止のためにすごく重要なんですよね。
それと、BUCで「アサーション」(自分と相手を尊重する表現技法)の基本が学べたことで、以前よりもうまく人とコミュニケーションできるようになりました。復職後の人間関係にすごく役立っています。
B どのプログラムがというよりも全体的にですが、一緒に参加しているほかのメンバーが少しずつ元気になっていく姿を目の当たりにすることで、気持ちが楽になりました。「私もあんなふうに回復していくことができるんやな」と思えたんです。
C 僕は、プログラムの中でCBT(認知行動療法)の基礎を学んだことで、自分の認知の歪みに気付くことができました。悪いことをまず予想して、「そうならないように」と行動する傾向が強くて、その傾向が昂じて、予想した「悪いこと」がいま起きているかのような感覚になってしまい、それでうつを発症したんだと思うんです。ここでマインドフルネス瞑想を覚えて「いまここ」に意識を集中するようになったら、その傾向が薄れてきて、気持ちが落ち着きました。それが復職後にも役立っています。
D 私は、フォローアッププログラムにすごく助けられています。自分の状態とか気持ちを人に伝えるのが苦手なのですが、ここにきてほかの人たちが自分のことを人に話している様子を見て、「あ、こんなふうに自分のことを人に伝えたらいいんだ」と気付くことがよくあります。
Q. AさんとBさんは、お二人とも一度目の休職のときは休養しただけで復職し、二度目の休職に際してBUCのリワークプログラムを受けました。どのような違いがありましたか?
A 僕は一度目の休職については「自力で復職した」というイメージがすごく強いです。会社の上司や先輩はうつになったことがない人ばかりなので、「相談しても、どうせわかってもらえないだろう」という思いがあって、相談もしませんでしたし……。だから、最初の休職のときはすごい孤独感がありました。それに対して、BUCでは同じ病気で同じように悩んできた、相談したり励まし合ったりする仲間がたくさんいました。これはすごく心強かったですね。
B 私の場合、1度目のときは「私は疲れ過ぎたからうつになって休職した。だから、休養して疲れが取れれば元に戻れるはずだ」という思いがありました。そのために、復職後の働き方が休職前とまったく同じだったんです。認知の歪みや行動パターンがまったく変わらないまま復職したので、当然、またしんどくなっていきました。2回目の休職をしたときには、1回目よりもしんどさがさらに強まっていたんです。リワークプログラムを受けようと思ったのも、そのためでした。
いまは、BUCで勉強したことをファイルにまとめてあるので、それをたまに見直したりすると、「最近自分は忙しすぎだ。少し休まないと」と気付いたりします。
それと、1度目の復職のときは、「絶対に再発しない自分になりたい」という思いばかりが強くて、いろんな意味で無理をしていました。でもいまは、「うつ傾向を持った自分のまま、そこそこ元気に暮らしていければ、それでいいかな」という思いになっています。その分、気がラクになりました。”病気との上手なつきあい方“がわかってきたというか。
Q. BUCのスタッフとしてリワークプログラムを推進してきたPSW(精神保健福祉士)の藤井朋広さんにもお話をうかがいたいと思います。いまやリワーク施設は全国にたくさんあるわけですが、その中でBUCの強みを挙げるとすれば?
藤井 うちはリワーク施設としては歴史が長いほうだと思います。2006年2月開設ですから、もう丸12年になりますので。その12年の歴史の中で、リワークに必要なノウハウが、多くの面で豊富に蓄積されています。その経験値の高さがまず挙げられます。 それでいて、経験が邪魔をして杓子定規な対応になるということもなく、利用者一人ひとりの個性に合わせてしっかり向き合っている。その両面を兼ね備えているところが、うちの強みだと思います。
Q. 今回フォローアッププログラムにも参加させていただいて、とても楽しそうだという印象を受けました。
藤井 「楽しくできる」ということを大切にしています。心の病気で休職した方は、「人と接することがつらい」という思いになりがちです。でも僕は、「人と人が接することは、基本的に楽しいものなんですよ」と、リワークプログラムを通してきちんと伝えていきたいと思っています。
みなさん、今日はありがとうございました。
(取材・原稿)前原政之
1964年栃木県生まれ。1年のみの編プロ勤務を経て、87年 23歳でフリーに。ライター歴30年。
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