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特集/A7病棟 医療療養病棟とは!?(2022/08)
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A7病棟への「入院要件」とは?
宇治おうばく病院は精神科を主体とした病院ですが、精神科ではない「医療療養病棟」としてA7病棟、介護医療院「むつみ」があります。2つの施設、とくにA7病棟が果たす役割はどのようなものなのか?また、入院対象となるのはどのような患者さんなのか?担当スタッフ3人に伺いました。
Q.宇治おうばく病院は精神科だけではなく、一般の内科外来も行っているのですね。
鈴木 はい。平日の午前中に行っています。内科外来を受診されて、病状によってはそのまま入院となるケースもあるわけですが、その場合、「医療療養病棟」であるA7病棟に入院していただく患者さんもいらっしゃいます。
Q.おうばく病院が精神科主体であることで、精神疾患をお持ちの方しか入院できないと誤解されている方もいるのではないかと思いますが、そうではないのですね?
鈴木 ええ。もちろん、A7病棟の入院患者さんの中には、精神疾患を有する方もおられます。たとえば、精神疾患の治療のために入院・通院されているけれども、いまは内科治療を優先すべきだというケースですね。ただ、そうした方は入院患者全体の中では少数です。A7病棟のベッド数8床のうち、精神疾患をお持ちの方は、だいたい三割程度になります。
精神疾患の有無には関係なく、内科的な治療が必要な方急性期治療後の療養が必要となる患者さんが、A7病棟 の入院対象となります。
Q.ただ、内科的治療が必要な方すべてが入院できるわけではなく、対象が制限されているそうですね。
鈴木 はい。いわゆる「医療区分」と呼ばれるルールに則っているのですが、その区分がなかなか煩雑で、おうばく病院の職員でさえ、A7とむつみのスタッフ以外にはよくわかっていない者もいると思います。
鶴留 それは厚生労働省が、「医療療養病棟の入院患者は、こういう割合にしなさい」ということで決めたルールです。細かい説明は省きますが、いわゆる「医療ニーズ」(医療者によるケアが必要な度合い)が低い順に、医療区分1・2・3という3区分が設けられています。 そして、医療療養病棟は、医療区分2と3に該当する入院患者さんが80%以上を占めることが要件とされています。言い換えれば、医療区分1に該当する患者さんが20%以下でなければならないということです。
佐藤 医療区分1は、医療行為をする必要がほぼない方が該当します。介護は必要だけど医療区分は1であるという患者さんは、A7病棟ではなく「むつみ」に入居してもらうケースが多いですね。そんなふうに、A7とむつみの棲み分けがなされているわけです。
Q.A7は医療ニーズが高い、重度の思者さんが中心の病棟ということですね?
鶴留 ええ。医療区分3の該当例として、「中心静脈栄養を実施している状態」が挙げられます。これは食事が口から摂れなくて、中心静脈から栄養点滴している状態ですから、かなり重度ですね。たとえばそういう方が、A7病棟に入院されているわけです。
Q.同じ思者さんでも、そのときの状態によって区分が変わるのですか?
鶴留 そういうことも当然あります。たとえば、ある入院患者さんの状態が悪化して酸素吸入が必要になったら投与量によって医療区分が2から3に変更となることもあります。
また、細かい話になりますが、医療療養病棟の入院患者さんについては、医療区分1~3に加えて、「ADL(日常生活動作)区分」というものもあります。これは「自分でトイレに行けるか?」「一人で食事ができるか?」などの生活自立度に応じて、やはり3段階に分かれています。同じようにA7病棟に入院していても、医療区分とADL区分の組み合わせによって、どのレベルに該当するかが変わります。それに応じて医療費の基本料も変わってくるわけです。
職員の親身な対応と、密接な連携
Q.一般の患者さんやご家族には、そうした区分は複雑でわかりにくいですね。
佐藤 わかりにくいと思います。医師と看護師が、患者さんの状態を見て判断させていただきます。
Q.さて、ここでは、宇治おうばく病院ならではの強みについてお話いただければと思います。
鈴木 一つは、患者さんに対するスタッフの親身な対応が挙げられると思います。
たとえば、コロナ禍のせいでいまはできなくなっていますが、それ以前はA7にもむつみにも、毎日お昼休みにたくさんのご家族が患者さんの面会に来られました。そして、昼食の介助をしながら会話をして、日々の体調の変化を肌で感じ取っておられました。そういう微笑ましい光景が、日常的にあったのです。我々職員もそのときにお声がけをして、「○○さん、昨日はこんなことをされていましたよ」とか、近況をご家族にお伝えしていました。私は23年間ここで働いてきて、そのようなあたたかさは当院ならではだと自負しています。
佐藤 もう一つ強みを挙げるなら、A7とむつみの間で職員の密接な連携があるところだと思います。二つの施設は同じ敷地内に隣接していますし、主治医はほとんど共通です。なので、患者さんの医療区分が変わってA7からむつみに転出した場合にも、出来るだけ同じ主治医が引き続き担当します。担当スタッフは変わっても、同じ主治医の指示で継続したケアができるのです。A7とむつみのスタッフで情報共有もしやすいですし、実際に2つの施設を行き来しながら治療や介護を行っています。
たとえば、私は現在A7病棟の師長ですが、以前はむつみ病棟の師長をしていました。だからよくわかりますが、師長同士の連携も密接です。ある患者さんがA7からむつみへの移動を希望されている場合などには、師長同士がじっくり話し合います。
Q.おうばく病院のように、医療療養病棟と介護医療院を併設している病院は少ないのですか?
佐藤 全国的に見ればたくさんあるとは思いますが、この周辺には併設している施設はあまりないと思います。併設してない場合、患者さんの状態が変わって医療区分が変わると、療養病棟を出て介護医療院や特別養護老人ホーム、老健(介護老人保健施設)を探して入所しなければいけません。うちならそういう面倒がいらず、A7とむつみの入所の要件を満たしていれば可能ですのでそれも強みだと思います。
あとは、やっぱり精神科主体の病院ならではの強みもあります。たとえば、おうばく病院では職員に対して、認知症患者に対応するための研修を行っています。年間教育計画に組み込まれているのです。そのため、職員の認知症対応力は、一般総合病院と比べたら高いと思います。
コロナ禍でも「ご家族との架け橋」に
Q.「職員の親身な対応が当院の大きな強みだ」というお話がありました。それは入院後のみならず、入院に至るまでの対応についても言えることでしょうか?
鶴留 そうですね。たとえば、ほかの病院から「患者さんをA7病棟で受け入れてもらえませんか?」と打診があったとします。その段階で、医療区分的にA7に該当することはわかっているわけですが、それでも「はい、いいですよ」と即座に受け入れを決められるわけではありません。患者さん本人を見てみないと、また、ご家族と話し合ってみないと、当院で受け入れ可能な患者さんかどうかはわからないからです。
A7は精神科病院に併設された療養病棟ですから、大きな総合病院の療養病棟とはやはり違う部分もあります。当院にできることとできないことがあって、その点を患者さんのご家族にも十分ご納得いただく必要があるのです。そのため、入院受け入れまでの説明と同意はしっかり行っています。
鈴木 おうばく病院には複数の内科常勤医がA7病棟に主治医として配属されています。精神科併設の療養病棟としては手厚い体制ですが、それでも、たとえば夜間とか日曜などに容態が急変したら、十分な対応ができない場合もあり得るわけです。そのことを納得のうえで、「それでもおうばく病院にお願いしたい」とおっしゃる方を受け入れるようにしています。
そうした事前の説明については、我々看護師ではなくドクターにお願いして、診察とは別枠で時間を取って、しっかりと行っています。
鶴留 ただ、入院を希望されるすべてのご家族と、医師が面談するわけではありません。「地域連携室(自院と他院・他施設をつなぐ部署)」の相談員がいますので、まずは相談員とご家族が話し合いをします。その段階でおうばく病院の医療体制について十分ご納得いただければ、医師が面談するまでもなく入院が決まる場合もあります。
いずれにせよ、医療区分だけで判断して機械的に患者さんを受け入れているわけではないということです。
鈴木 治療、療養を希望する患者さんとご家族の期待に沿うことが大前提ですからね。
Q.先ほど、「コロナ禍前には昼食時の面会が盛んだった」というお話がありました。コロナ禍になって、みなさんもやり方を変えざるを得ない面があったと思いますか……。
鈴木 そうですね。大きな変化として、タブレット端末を利用しての「リモート面会」を全面的に導入しました。これはコロナ禍になってからすぐに始めたので、すでにかなり時間も経って、職員もご家族側もかなり慣れてきました。
あとは、直接の面会ができない分、ご家族から入院患者さんに宛ててお手紙やハガキをいただく機会が、大幅に増えました。それを我々スタッフが患者さんに代読して、そのときの言葉や反応をお電話でご家族にお伝えするようにしています。私たちが、患者さんとご家族を結ぶ架け橋になるべく、そのための手間を惜しまずに頑張っています。
佐藤 病状のわずかな変化についても、医師からご家族に電話していただくようにしたり、病棟師長から「こういう生活上の変化がありました」と伝達したり、きめ細かい連携を心がけています。
鶴留 当院に限らず、医療療養病棟には、急性期病棟と介護施設の「間をつなぐ」ような役目もあると思います。だからこそ、患者さんとご家族の間の架け橋になることも大切な役割と考えています。
A7病棟、むつみ病棟の重要性がよくわかりました。本日は大変ありがとうございました。
(取材・原稿)前原政之
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