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特集/ひろがる!ピアサポーター(2024/02)
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当事者の「思い」から始まった
精神障害の当事者でありながら、同様の困難を持つ方の支援に取り組む「ピアサポータ―」。
栄仁会ではこの活動に先駆的に取り組んできました。いまや支援の輪を支えるかけがえない存在となった「ピアサポーター」の代表お2人と、ピアサポートと共に活動いてきたスタッフ3名に、座談会を行ってもらいました。
Q.「ピアサポーター」という言葉自体になじみがない読者も多いと思いますので、まずそこから説明をお願いします。
山﨑 「ピア」は英語の「peer」で、「仲間」という意味ですね。ピアサポートは「仲間によるサポート(支援)」という意味になります。つまり、同じ立場の人を支えるのが「ピアサポート」です。それに取り組む当事者が「ピアサポーター」になります。
太田 がん患者やアルコール依存症患者同士のピアサポートなど、さまざまなものがあります。栄仁会の場合は、精神障害の当事者が同じ立場の人を支援するピアサポートになります。
福徳 栄仁会でピアサポーターの取り組みを始めたのが2016年ですから、8年目になりますね。もうすっかり定着して、現在11名のピアサポーターが活動しています。
Q.その中から、今日はお2人のピアサポーターさんに代表参加していただきました。
よしみ & じゃまいか よろしくお願いします。
Q.精神科のピアサポーター活動として、栄仁会の取り組みはかなり先駆的だったようですね。
山﨑 そうですね。栄仁会で始めたころ、京都府の事業所や医療機関ではまだまだ少なかったと思います。
Q.厚生労働省が「ピアサポーター活動を推進してくれ」と要請してきたことから、取り組みがスタートしたのですか?
福徳 「精神障害を持つ人が地域で自立できるように支援していこう」という国の政策があるのは事実ですが、栄仁会として取り組み始めたきっかけは、当事者の「思い」にあるんです。
山﨑 その当事者というのは、栄仁会の「生活訓練いろは」に通っていた利用者の方たちです。制度上、生活訓練事業所に通えるのは2年以内と決められているので、「いろは」を「卒業」していくことになります。「いろは」の1期生として卒業していく人たち3、4人が、「卒業後も『いろは』に関わりたい、何か『いろは』の役に立ちたい」と言ってくださったんですね。それで我々スタッフと話し合って、「ピアサポーターという形で来てもらおう」ということになったという経緯です。
太田 栄仁会からではなく、当事者の方々の声から取り組みが始まったわけです。
山﨑 そのとき手を挙げてくださったうちの1人が、今日参加されているよしみさんです。
Q.よしみさんの、当時のお気持ちは?
よしみ 利用者として通っていた「生活訓練いろは」が私にとってはとても過ごしやすい場所だったんですね。それなのに、卒業したらもう来られないと思ったら寂しくて、「今後も関われる方法はないですか?」って相談したんです。
ピアサポーターだからできること
Q.栄仁会のピアサポーターになるために、研修も受ける必要があるそうですね。
よしみ そうですね。研修は、「ピアサポートとは何か?」という講義から始まって、「会話のキャッチボール」になるような話し方の練習をしたり……。あとは「リカバリーストーリー」といって、病気を抱えながらも主体的に生活していこうとする経緯を文章にまとめたりしました。
山﨑 それを話していただくこともピアサポートの現場ですごく力になるんです。
Q.じゃまいかさんは、どういう経緯でピアサポーターに?
じゃまいか 私が通っている作業所に、山﨑さんが栄仁会ピアサポーター研修のチラシを持ってこられて、それを見て「受けてみたい」と思いました。私は元々福祉系の大学を出ていて、相談員を目指していたのですが、病気になって一度はあきらめたんです。なので、「チャンスだ」と思いました。将来的には相談員になりたいので、そのための大事なステップになるな、と……。私にとって、ピアサポーターの活動は、一度はあきらめた夢につながっている「希望の光」なんです
山﨑 よしみさんたち1期生がピアサポーターとして頑張ってくださるなかで、「もっとピアサポーターさんを増やしたい」という声が上がって、栄仁会として研修を開いてピアサポートを広めていこうということになったんです。そこに参加してくださった1人がじゃまいかさんでした。
Q.ピアサポーターさんたちは、具体的にどういう活動をされているのでしょう?
太田 僕はいま「生活訓練いろは」の管理者を務めていますが、その「いろは」のプログラムを一緒に行っていただくことが、活動の1つの軸ですね。通ってくる利用者さんに楽しんでもらえるようなプログラムを、一緒に考えて実施しています。
よしみ たとえば、利用者さんたちと一緒に料理をしたり。
太田 季節ごとの行事などもよく行うのですが、よしみさんは中心的存在となっています。
山﨑 私は「ホッと入院」という病棟プログラムで、ピアサポーターさんたちと活動しています。
Q.「ホッと入院」については、前々号(32号)の特集でも少し紹介しました。入院患者さんに、病気について学んでもらう講義プログラムですね。医師や薬剤師などが交替で講師役を務めると聞きましたが、ピアサポーターさんも講師になるのですか?
福徳 そうなんですよ。専門職の講義も大切ですが、当事者の経験も、患者さんにとって大きな学びになりますから。 つい先日も、じゃまいかさんに「ホッと入院」の講師をお願いしたんですが、受講した患者さんのアンケートで、「話が分かりやすくてとてもよかった」「参考になった」と大好評だったと聞いています。
じゃまいか すごくうれしいです。
山﨑 栄仁会はピアサポートに取り組んで長いこともあって、「京都府ピアサポート基礎・専門研修事業」の運営にも携わっていますが、その研修の講師の半数以上が当事者の方々です。よしみさんもその1人です。
よしみ 最初は「大勢の前で講師を務めるなんて、とても無理」と思って、すごく緊張していたんです。でも、場数を踏んで慣れてきて、最近は「どう話したら伝わるかな?」とか、工夫しながら落ち着いて話せるようになりました。
福徳 あとは、長期入院患者さんの退院支援とか、退院後の生活支援についても、ピアサポーターさんと協力して活動しています。ピアサポーターさんと相談支援事業所のスタッフが、患者さんの入院している病院に定期的に訪問して面会したり、一緒に外出したりしています。
その患者さんが退院してグループホームに入居されることになったら、そのまま担当を継続して、グループホームを訪問することもあります。同じピアサポーターさんが継続して関わってくれることで、患者さんも安心してくれていると思います。
よしみ 私はいま2人の患者さんを担当させていただいていますが、最初の頃はほとんど話をしてくれなかったのに、いまは打ち解けて話ができるようになりました。そういう積み重ねの大切さは感じます。
福徳 私たち専門職だけで訪問したときより、ピアサポーターさんと一緒に訪問したほうが、患者さんが安心して話してくれています。専門職もそうならないよう気をつけているものの一方的な支援になってしまうことがあるので、ピアサポーターさんが患者さんと同じ目線で話してくれることで、患者さん中心の支援を考えることができるなと感じています。
じゃまいか 私はまだ担当患者さんはいないんですが……。
福徳 これから一緒に活動できることを楽しみにしています。
二人三脚の取り組みゆえの相乗効果
Q.栄仁会に11名ものピアサポーターさんがいて、活躍していることは大きな強みだと思います。ピアサポーターの意義について、スタッフの皆さんはどう感じておられるのでしょう?
福徳 ピアサポーターさんが介入されることで、それまで「退院したくない」と言っていた人が「退院したい」と話してくれることがあります。その意欲を、ピアサポーターさんが引き出してくれたと思っています。ピアサポーターさんが地域で生活している姿を見て、自分もそうなりたいと感じられることが大きいのかもしれません。
太田 僕は、「いろは」の管理者になってピアサポーターさんと関わるようになって、〝支援者としての自分の見直し〟をさせていただいている気がします。どう患者さんに向き合えばいいのか? 僕にとっては、ピアサポーターさんがそのお手本になっているのです。
山﨑 太田さんの言葉に同感です。私は専門職として、ピアサポーターさんの存在からすごく刺激をいただいています。よしみさんにしてもじゃまいかさんにしても、過去には病気で凄絶な体験をしてこられています。にもかかわらず、関わる患者さんのことを何よりも考えていらして、「少しでもお役に立ちたい」という真摯な思いが伝わってきます。その姿を見て、私自身の患者さんへの関わり方が単なるルーティンワークになっていなかっただろうかと、反省することもよくあるんです。
よしみ そんなふうに言っていただけるとすごくありがたいです。私は自分がいちばん苦しかったときに栄仁会の皆さんに助けていただいたと感じていますし、いまピアサポーターとして活動しているのは、少しでもその恩返しがしたいからです。
じゃまいか 私は病気になってから、栄仁会にたどり着くまでにいくつかの病院にかかったことがあります。だからこそ、患者さんに寄り添う栄仁会の姿勢にすごく共感していますし、ピアサポーター活動をする中でも、学ぶことがたくさんあります。
ピアサポーターさんたちとスタッフが二人三脚で支援に取り組むことが、互いを高め合うことになっているという素晴らしい相乗効果を感じます。ありがとうございました。
(取材・原稿)前原政之
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