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特集/訪問看護だからできること(2017/6)
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訪問看護はどのように進められるのか?
近年、訪問看護という医療のあり方がクローズアップされています。そこで今回は、栄仁会の訪問看護の取り組みを紹介しようということで、現場で働く看護師さんたちにお集まりいただきました。そもそも、訪問看護はどのように利用が始まるものなのでしょうか?
水野 どこかの病院にかかっておられる患者さんについて、主治医が「この人のところに訪問看護に行ってください」という「指示書」を、訪問看護ステーションに出すんですね。そこから訪問看護が始まります。一口に看護といっても、介護保険を使っての看護もあれば、健康保険などを使った看護もありますが、私どもがやることは基本的には同じです。最初の契約のときに、「私どもは介護ヘルパーさんとは役割を分けていますので、お買い物やお掃除はできません」と申し上げます。
Q.みなさんが訪問看護に行かれる場合、お一人で訪問されるのでしょうか?
石川 例外もありますが、基本的には一人です。
Q.訪問看護ステーションの一日のタイムスケジュールはどのようになっていますか?
水野 「ステーション京たなべ」を例にとると、営業時間は朝9時から夕方5時半までです。朝のミーティングを終えると、車で担当エリア内を回り始めます。午前中に2~3軒、午後に2~3軒訪問すると、それで大体時間が終わりますね。
Q.栄仁会のウェブサイトを見ると、訪問看護ステーションは「24時間対応」となっていますが、夜勤もあるのですか?
水野 いいえ。夜に事務所に残ることはなく、自宅待機です。携帯に利用者(訪問看護では、「患者」とは呼ばずにこう呼ぶ)さんから連絡があった場合、緊急時対応する形です。訪問したり、主治医と連絡をとったり…。
訪問看護は相手に応じた「オーダーメイド」
Q.訪問するのは、1人の利用者さんに対してどれくらいのペースですか?
水野 それはケースバイケースですね。主治医がその人の状況に合わせて頻度を指示したり、ケアマネージャーが一ヶ月のプランを組んだりするので、週2回訪問する人もいれば、毎日訪問する人もいます。
堀井 ご家族から来てほしいと言われて臨時で訪問する場合もあります。介護保険を利用されているケースですと、ケアマネージャーさんから「様子を見てきてほしい」と依頼されて訪問することもありますね。以前に比べて、訪問看護について詳しく知っているかたが増えているように感じています。
石川 介護保険を使う場合はプランに応じて訪問できますが、医療(保険)の場合、週3回までという縛りがあります。ただし、主治医から特別な指示書をもらえば、「2週間は土日を含めて毎日訪問してもよい」と認められるケースもあります。それと、終末期医療の場合、週3回の縛りはありません。毎日訪問してもよいし、一日2回訪問することもあります。
それと、「病状が重いほど訪問頻度が高い」とも限りません。お元気であっても、独居老人で不安だから、安否確認も兼ねて毎日訪問するケースもあります。そのように、相手の状況に応じてフレキシブルに、訪問看護は行われているのです。
Q.なるほど。訪問看護というものは、ある意味で「オーダーメイド医療」なのですね。
ところで、看護師さんだけで訪問をして、治療行為はできるんですか?
石川 医師の指示があれば、注射を行ったりすることはできます。あとは、訪問した際の状況によって「先生、この方、点滴が必要だと思います」というふうに電話で指示を得て点滴を行い、事後に指示書にしてもらうこともあります。医師の指示なしに治療行為はできないということです。
訪問看護ならではの「やりがい」とは?
Q.みなさんはそれぞれ、病棟勤務を経て訪問看護ステーションに移動されていますね。両方を経験されていることで、違いがよくおわかりかと思います。どのような違いがありますか?
水野 病院の場合、医師とたくさんの看護師がチームで動いていますから、医師や先輩看護師にすぐ相談できます。それに対して、訪問看護は基本的に一人で行きますから、さまざまな判断をする責任が自分一人にのしかかってきます。それはキツイことですが、やりがいを感じる部分でもあります。
石川 そうですね。病棟勤務と違って、訪問看護は「看護を自分一人で完結させられる」という面があって、それはやりがいにつながっていると感じます。
堀井 訪問看護ではこちらが利用者さんのご自宅にうかがうので、おのずと生活状況が分かってきます。その中でいろんな世間話をしたり、ご家族から話を聞いたりできますし、ペットが話の輪に入ってくることもあったりして楽しいですね(笑)。
石川 訪問すると、お隣さんやご近所さんが出てきて、「この間こんなことがあったのよ」と、利用者さんに関する情報を教えてくれたりすることもよくありますね。訪問看護というのは、まさに地域密着の医療なんです。
それと、訪問看護では、利用者さんと一対一で時間を過ごしますから、看護師の心身の状態が利用者さんにダイレクトに影響する面があります。私どもの「ステーションそうらく」は精神科の利用者さんが多いので、特にそうなのですが、看護師が落ち込んでいたり、体に不調を抱えていたりすると、利用者さんにも悪い影響が及んでしまうのです。だから、包容力とか人間的な幅のようなものを高めて、心に余裕をもって訪問しないといけないと思っています。なかなか難しいことですが……。
もっとも、逆に利用者さんから、「看護師さん、今日はなんだかしんどそうやね。頑張りや」と励まされて帰ってくるときもあります(笑)。そのような相互作用、利用者さんとの心のふれあいが生まれやすいことも、訪問看護の醍醐味の一つですね。
堀井 訪問する中でさまざまなお話を聞けるなどメリットも多い一方で、利用者さんとの関係性や距離の取りかたに悩むこともあります。また、自身のコンディションが悪いと相手を思んばかる余裕を失いやすいですから、体力には自信がある私ですが、心身の健康の維持は常に意識しています。いろんな意味でニュートラルな状態でいるように心がけていると言いましょうか。
水野 あと、訪問看護というのは、正直なところ、肉体的には病棟勤務よりしんどい面があると思います。一日数軒の訪問先を、時間配分を考えつつ車で回るだけでもわりと大変です。また、介護保険で入浴介助をする場合などは、けっこう体力も使います。
でも、そういうしんどさを補って余りあるやりがいもある仕事です。たとえば、毎日車でエリア内を回っていると、四季の移ろいが深く味わえるんですね。「紅葉がきれいだなあ」とか、「稲穂が黄金色に色づいてきたなあ」とか、季節感を日々感じられることが、訪問看護の楽しみの一つです。また、利用者さんの中には外になかなか出られない人も多いので、訪問した際に四季折々の景色などを伝えてあげることも大切だな、と思っています。
石川 訪問看護の場合、車で移動する時間が息抜きの時間であり、気持ちを切り替える時間でもありますね。ずっと病棟の中にいたらできない気分転換ができる。
「家の力」「家族の力」が果たす役割
Q.「病院に入院していたときよりも、訪問看護に変えてからのほうが症状が改善した」という例はありますか?
水野 ありますね。入院中は完全に寝たきりだったという人が、訪問してみたらスッと背筋を伸ばして座っておられて、「ずいぶん元気になられたな」と驚いたりします。やっぱり、「家の力」「家族の力」ってすごいんですよ。住み慣れた家に戻り、家族に囲まれて日々を暮らすということ自体が、心身によい影響を与えるのだと思います。
堀井 多くの人にとって、自分の家、自分の部屋が一番好きな場所ではないでしょうか。心身の不調を抱えながらも自宅で生活することで落ち着かれるケースを何度も目にしています。「病院に行くのは嫌やけど、あんたらが家にきてくれるのはかまへんよ」と言ってくださる人も多くて、病院勤務の職員にはちょっと申し訳ないですけど嬉しいですね(笑)。
石川 私の知っている方に、 年近く精神科に入院されたあと、退院促進の流れの中で自宅に帰ることになった方がいます。退院する際、医師は「どうせ半年もしないうちに(病院に)帰ってくるだろう」と言っていたのですが、あにはからんや、それから数年経ったいまもご自宅で単身生活ができています。仕事に就けたわけではないですが、一人で暮らせていること自体、その方にとっては劇的な変化です。もちろん、訪問看護やヘルパーの助けもあってのことですが、それもやはり「家の力」が大きいのかもしれません。
また、ずっとひきこもりだった人が、訪問看護を重ねるうち、車の免許を取りに行ったり、ヘルパーの資格を取りに行ったりして働けるようになり、訪問看護を卒業した、というようなケースもけっこうあります。もちろん本人の努力がいちばん大きいのですが、訪問看護が功を奏した面もあると思います。
Q.「入院患者を減らして、訪問看護に切り替えていこう」という、国が打ち出している方針は、第一に医療費削減のためなのだと思いますが、それだけではなく、治療効果の点でも訪問看護のほうがよい面があるのですね。
堀井 病棟で勤務していたときは、患者さんは症状がある程度良くなったら退院されるので、その後どう過ごしてらっしゃるのか気になっても、なかなか知ることができませんでした。でも実際には、退院してからも生活はずっと続くわけです。訪問看護の仕事をする中で、「病気というのは患者さんの人生の一部分にすぎないんだ」との思いを一層強く抱くようになりました。そしてご自宅で利用者さんを看取りながら、ご家族とともに最期のお別れをさせていただいたこともあります。容体が悪くなったら最後は入院しかないというのではなく、訪問看護という方法があることを、できるだけ多くのかたがたに知っていただきたいと思っています。
高齢化が進むこれからの時代、訪問看護がますます重要になっていくことがよくわかりました。
ありがとうございました。
(取材・原稿)前原政之
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