べるぶネオ
特集/精神科救急って?(2016/6)
特集/精神科救急って?(2016/6) | ドキュメント・ザ・舞台裏(2016/6) |
読まないで!? ドクターXの酔いどれ対談(2016/6) | おそと ぶらり探訪(2016/6) |
「精神科救急病棟」を持つことの重み
Q.「精神科救急」という言葉自体、一般にはまだあまり馴染みがないように思います。
赤澤 一般科の救急の場合、身体的疾患が急変した患者さんを受け入れるように、精神科救急は、精神疾患が急変して緊急の治療が必要な状態に陥った患者さんを受け入れるものです。
Q.おうばく病院では、いつから精神科救急を始められたのですか?
赤澤 当院に「精神科救急病棟」ができたのは2009(平成21)年です。ただ、それは精神科救急病棟の施設基準を満たしたのがその年だということで、それ以前から精神科救急の受け入れはしておりました。
Q.施設基準というのは?
赤澤 「精神科スーパー救急」と呼ばれる施設基準がありまして、人員配置・設備・医療水準にそれぞれ厳しい基準がもうけられています。たとえば、「精神保健指定医が常勤で5名以上いること」とか、いろいろな基準があります。当院はそれらの基準をすべて満たしているということです。
Q.「精神保健指定医」というのは、精神科医の中で、患者さんへの身体拘束や強制入院などを指示できる資格を持った人ということですね。
赤澤 そうです。精神科医であっても、指定医の資格を持っていなければ、法律上、隔離・拘束などの指示ができません。当院の場合は現在、指定医が私を含めて常勤で14人おります。これは、ほかの精神科病院に比べてかなり多い人数です。
Q.人員体制が厚いからこそ、精神科救急の24時間受け入れが可能になっているわけですね
赤澤 ええ。当院では夜間も必ず常勤の指定医が当直でいますから、昼夜を問わず精神科救急の受け入れができます。ほかの一般的な精神科病院でも精神科救急の受け入れはある程度行っておられますが、たとえば当直の医師が指定医でない場合、夜間の救急受け入れを断らざるを得ないことも生じます。
長期入院を減らし、短期で退院できる流れを作る
Q.精神科救急には、いろいろ大変さもあると思いますが……。
赤澤 月3回くらいです。精神保健指定医の資格を持った医師だけで当直を回しています。
Q.救急で運ばれてくる患者さんは、どれくらいいるものなのでしょうか?
寺谷 一般的な救急の場合、次から次へと急患が運ばれてくるというイメージがあると思いますがその点、精神科救急は少し特殊で、急患はそれほど多くはありません。1回の夜勤で、外来(入院せずに帰れるケース)が多くて2件、入院が1件……平均するとその程度ですね。ただ、精神科の場合、1人の急患にかかる時間が長くなります。それは精神保健福祉法の手続きに関する処理に時間がかかったり、患者さんの生活や病状などに関する情報を細かく聞き取らないといけなかったりするからです。
赤澤 急患としてやって来られる患者さん以外に、電話相談を受けることも、当直医の仕事です。電話は、患者さんのご家族からの場合と、患者さんご本人からの場合があります。「家族が暴れて困っている」とか「自分はいまこういう症状が出ているんだけど、どう対応したらいいか?」とか、いろいろです。
Q.ところで、みなさんは精神科救急の世界に自ら志願して入られたのですか?
寺谷 私の場合、「精神科で働きたい」という希望は元々あったのですが、看護師になったのは20年以上前なので、当時はまだ「精神科救急」自体がなかったんです。宇治おうばく病院で働くなかで、精神科救急に出合ったという流れです。その出合いは幸運だったと感じています。
赤澤 私が当院に入職したのはまだ精神科救急病棟ができる前ですが、当時から「宇治おうばく病院は精神科救急の受け入れを積極的にやっている」という評判は聞いていて、精神科救急の仕事がやりたくてここに来ました。
南條 私が入職したのは、精神科救急病棟ができる前のことです。当時は、精神保健福祉士の世界で「長期入院患者の退院促進を重視して、その分、救急受け入れを積極的にやっていこう」という流れが生まれていた時期で、宇治おうばく病院もその流れに沿った病院運営をしていたので、そこに魅力を感じて入職しました。
Q.経緯は違っても、みなさん精神科救急の世界にやりがいを感じておられるわけですね。どういう点にやりがいがあるのでしょう?
寺谷 昔は、「精神科といえば長期入院があたりまえ」でした。だいたい年単位、長いと10年、20年……。私が看護師として出会った例でいうと、いちばん長い方はなんと40年も入院されていました。しかし、今ではだいたい3ヶ月程度の治療で入院が終えられる時代になってきて、当院の場合、平均入院期間は40~50日程度におさまっています。救急で入ってきて、当初はすごく興奮したり、強い不安を抱えていた患者さんが、どんどん症状を改善されて、穏やかな表情で退院されていく。その変化を見ることが、何よりのやりがいですね。
Q.入院期間が短くて済むようになったのは、治療薬が発達してきたからですか?
寺谷 それも大きな理由だと思います。あとは、地域での受け入れ体制も整備されてきて、「長期入院をなるべくなくそう」という世の趨勢になってきたこともありますね。
南條 診療報酬の規定で、「救急病棟への入院は3ヶ月まで」と決まっているんです。ですから、救急病棟に入院された患者さんが3ヶ月を超える治療を要する場合、ほかの病棟に移ることになります。ただ、当院の場合、ほとんどの患者さんは救急病棟からそのまま退院されます。つまり、3ヶ月以内に治療が終わるわけです。
Q.なるほど。赤澤先生、南條さんにとって、精神科救急のやりがいというと?
赤澤 精神疾患患者のご家族にとっていちばんつらいのは、患者さんの様子が急変して、どうしたらいいかわからないときだと思うんです。そういうときに、断らずにいつでも救急受け入れをしてくれる病院があれば、ご家族も「ああ、助かった」とホッとできる。そういう安心を与える役割を、当院が担えている、地域のニーズに応えることができているということが、私の何よりのやりがいになっています。
南條 精神保健福祉士としての私の役割は、患者さんの治療の進め方のコーディネートであり、入院の窓口になることです。たとえば、患者さんやご家族、他の医療機関からの入院依頼を電話で受けて、入院すべきケースか通院でよいケースかを判断して、入院すべきケースについては病床調整担当者に話をつないでベッドを確保します。そういう立場ですから、治療行為をするわけではないのですが、入院前の大変な時期に患者さんやご家族と接するので、そこから退院までにどう変わられたかを目の当たりにします。寺谷看護師と同じで、患者さんの状態が大きく改善される様子に、いちばんやりがいを感じますね。
他の病院との連携を強める試み
Q.ほかの病院と連携する「G-Pネット」という試みをなさっているとのことですが、これはどのようなものですか?
赤澤 「G」はGeneralist―一般医、「P」はPsychiatrist―精神科医の略です。つまり、当院と地域の総合病院が連携して、患者さんにとっていちばん適切な医療を提供するためのネットワークです。当院には内科もありますが、外科はないので、たとえば当院の患者さんが深刻な外科疾患を抱えた場合、うちで治療を継続することは難しい。逆に、総合病院に入院している患者さんが精神疾患を併発して、そこでは対応できないというケースもあります。そのように、双方の病院が連携することで治療がうまくいく場合が多々あるので、「困ったときには助け合いましょう」という協力体制を整えておくことはお互いにとって重要なんです。
Q.「G-Pネット」には、いくつぐらいの病院が参加しているのですか?
赤澤 元々は当院が独自に、近隣の3つの総合病院との連携のための会を作りました。そこから派生して、京都府が病院間の連携システムを作ったのが、現在の「G-Pネット」です。いまでは、8つの総合病院と当院が連携するネットワークになっています。
Q.「G-Pネットがあることで助かった」という事例には、どんなものがありますか?
赤澤 たとえば、当院の精神科救急で受け入れた患者さんの意識レベルが急激に下がって、うちでは対応しきれなかったケースを総合病院に回して命が助かったケースがあります。逆に、骨折して総合病院に入院した患者さんが、急を要する精神疾患の症状を呈したので、当院に転院してきた例もあります。
Q.おうばく病院が先駆的に精神科救急病棟を作ったことも、「G-Pネット」を構築したことも、広い意味では地域貢献のためなのですね
赤澤 そうですね。医療法人栄仁会の理念は「地域に期待され、信頼される病院グループをめざす」というものですから。私どもスタッフも、地域貢献は常に念頭に置いています。さらに言えば、「近畿一のブランド力のある治療システムを持つ病院づくり」であることを目標に掲げているのですが、我々の病院だけでなく京都という地域そのものの「医療のブランド力」を高めること……そのために当院も貢献したいと考えているのです。
(取材・原稿)前原政之
特集/精神科救急って?(2016/6) | ドキュメント・ザ・舞台裏(2016/6) |
読まないで!? ドクターXの酔いどれ対談(2016/6) | おそと ぶらり探訪(2016/6) |