べるぶネオ
特集/介護の仕事はやりがいがいっぱい(2018/06)
特集/介護の仕事はやりがいがいっぱい(2018/06) | ドキュメント・ザ・舞台裏(2018/06) |
読まないで!?ドクターXの酔いどれ放言(2018/06) | おそと ぶらり探訪(2018/06) |
医療法人がバックにあるという強み
Q. 2025年には、日本の認知症患者は約700万人に上り、高齢者の五人に一人に達するという厚労省の推計もあります。そうしたなか、認知症対象の介護事業に携わるみなさんにお集まりいただきました。まず、みなさんのお仕事について教えてください。
笠原 私が勤務する「グループホームおおわだの郷」はデイサービス部門とグループホーム部門に分かれていますが、そのうちグループホームの責任者を務めています。うちの施設では、9人ずつの二グループ、計18人が共同生活をしています。スタッフはシフト制で、夕方から翌朝まで勤務する日もあれば、早朝から午後まで勤務す、「る日もある、という具合です。
大土居 私が責任者を務める「やまぶきの郷」は、施設の一階がグループホームになっていて、いまは18名の方が生活されています。2階では「小規模多機能型居宅介護」というものを行っています。
Q. それはどういうものですか?
大土居 自宅でご家族と一緒にお住まいの認知症の方がデイサービスのように通所されたり、必要なら泊まることもできる施設です。また、スタッフがご自宅を訪問するヘルパー・サービスも行っております。一つの施設で通所・宿泊・訪問の三つの機能があるので「多機能型」なわけです。
中村 私が責任者を務めている「ケアプランセンターおおばく」は、直接介護に当たるのではなく、ケアのプランを立てる仕事をしています。そのプランに基づいて、デイサービスやヘルパーさんの派遣などを行っていきます。栄仁会の施設に限らず、他法人の介護事業所などに仕事を振ることもよくあります。
Q. 認知症対象のグループホームなどはたくさんあるわけですが、その中にあって、栄仁会の施設の強みというと?
大土居 バックが精神科の医療法人であるということが強みになっていると思います。利用者さんの状態によっては、大声を出したり、徘徊されたりして、スタッフが対応に困ることもままあります。そういう場合にも、精神科医に対応してもらったり、入院させて落ち着いてからホームに戻っていただいたりということが、すぐにできます。単体でやっているグループホームでは、そういう連携がスムースにいかない面があると思います。
中村 私は立場上、他の介護施設の状況もよく知っていますが、栄仁会は古くから精神科医療に取り組んできただけに、そうしたスムースな連携はやはり大きな強みですね。
きめ細かい対応で楽しく暮らせるホーム
大土居 また、グループホームの各ユニット、小規模それぞれのスタッフが補い、助けあえるような体制をとっていることも強みであると思います。通常、グループホームに入所すると、外出する機会はほとんどなくなってしまいます。それに対してうちの施設は、入所者を外に連れて行くことがけっこう多いのです。買い物であったり、桜の季節には花見にお連れしたり……。宝塚歌劇が大好きな入所者のために、タクシーを借り切って観劇に行ったこともあります。外出や行事の際は、スタッフが厚めに出勤できるよう勤務調整し、事故のないよう対応しています。
笠原 おおわだの郷でも、入所者さんたちと一泊旅行に行ったりすることがあります。年間スケジュールに組み込んであるのではなく、利用者さんから「旅行に行きたい」という声が上がったとき、それに応える形ですね。認知症になっても、人は「旅行したい」という思いを、認知症になられる前と変わらず持たれていますから…。ご本人たちの希望に沿う形で計画を立て、人数に見合ったスタッフが同行します。いままでに何度か、そういう旅行をしました。
大土居 グループホームで入所者を一泊旅行に連れて行くというのは、珍しいと思います。
Q. 施設に閉じこもりきりになるより、いろんな形で外に出て、多くの人と接するほうが、認知症の人にとっては望ましいのでしょうね。
笠原 そうですね。認知症が進んでいくと、自分の身なりへの関心も低下していきます。でも、外出して人に会うとなれば、女性の場合はとくに、おしゃれと身だしなみに気を配ります。そうした気持ちが生まれること自体がよいことだと思います。
大土居 うちのホームでも、夏祭りなどにお連れするとやっぱりみなさんすごく楽しそうですね。「もう帰りましょうか?」と言ってもなかなか帰りたがらなかったり(笑)。グループホームの入所者が夜に出かける機会自体、スタッフの勤務時間の都合で、普通はなかなかありません。こういった機会はあまりありませんので、その日残業が可能なスタッフが対応してくれています。
地域とともに歩んできた介護施設
Q. 栄仁会グループの医療施設には地域への貢献を重視するという共通の姿勢がありますが、介護施設においてもそうですか?
笠原 はい。たとえば「おおわだの郷」について言えば当初は地域の方々から、設立に反対する声もあったようです。でも、それから一四年間、「地域に貢献できる施設づくりを」というモットーを掲げて頑張ってきましたので、いまでは地域のみなさんから介護についてご相談を受けたり、「おおわだの郷を利用したい、入りたい」と言っていただいたりすることも増えました。
Q. 地域のみなさんとの交流の機会を、どのように持っているのでしょう?
大土居 うちの施設は地域の自治会にも加入していますので、夏祭りなどの地域行事や、地域の人々が行う清掃活動や防災訓練などに、施設として積極的に参加しています。2012年に宇治市で豪雨災害があったときには地域にも被災者が多かったので、うちの職員がボランティアで救援活動に参加しました。逆に、「やまぶきの郷」としてお祭りのような行事をするときには、地域のみなさんをご招待しています。
中村 私どもの努力で変わってきた部分もありますが、日本社会全体が「認知症の介護は地域ぐるみでやらないといけない」という空気に変わってきた面もありますね。私は介護保険制度のスタート当初からケアマネジャーをしていますので、そういう時代の変化を肌で知っています。たとえば、昔は認知症の人が徘徊したら即警察に通報されて、警察もご家族を「ちゃんとみておかないとアカンやないか!」と厳しく叱りつけるということが、よくありました。「介護は家族まかせ、地域は知らんぷり」という時代だったのです。最近はすっかり変わって、「地域のみんなであたたかく見守ろう」という空気になってきました。
笠原 地域でお年寄りが徘徊されていると、地域の方から、まずはうちの施設に連絡があります。うちの入所者ではない場合も多いのですが。その点でも、認知症に対する地域の助け合いの意識は高まっていると感じます。
「ありがとう」の一言ですべてが報われる
Q. 介護職のやりがいと喜びについて、感じていらっしゃることをお話しください。
笠原 グループホームでの介護は、入所者さんと生活を共にし、喜怒哀楽の姿を見ながらの介護になります。だからこそ、「医療者と患者さん」という関係を超えて、もっと深い人間関係を結べる。ある意味で家族のような存在になるのです。
実際、うちの施設ではグループホームの入所者を「ファミリーさん」と呼んでいます。その呼び名には、「家族と同じ思いで尽くさせていただきます」という思いが込められています。そして、家族のように接する日々の中で私たちがしたことに対して「ありがとう」と喜んでもらえたら、それだけで達成感があります。
大土居 介護職は一般企業に比べ、「人に感謝される仕事」だと思うんです。もちろん、苦情を受けることも時にはありますが、基本的には感謝されることのほうが多い。その点はこの仕事のよいところだと思いますね。
笠原 亡くなったある入所者のご家族が、「この施設に入ってから、母が楽しそうに生活していたのを見て、とてもうれしく思っていました。私たち家族は、『おおわだの郷』の方向に足を向けて寝られません」と言ってくださって、その言葉は印象に残っています。介護というのは、どの程度お役に立てたのか、数字では表しにくい仕事ですから、そういう一言がほんとうにうれしいですね。
大土居 そうですね。ご家族に喜んでいただけたときに「この仕事をやっていてよかった」と心から思います。介護している間には大変なことも多いわけですが、「ありがとう」の一言で苦労が帳消しになる思いです。
うちの施設には、利用者ご本人が亡くなったり、ほかの施設に入所されたりして直接の関係が切れたあとも、うちとのつながりを持ち続けてくださる方が、何人かいらっしゃいます。たとえば、たまにボランティアにきてくださったり、「ボロ布がたまったから」と送ってくださったりする(ボロ布は介護施設の必需品)方々です。そういう方の存在は、やりがいにつながっていますね。
それと、うちの「やまぶきの郷」は、ご家族が仕事をしながら自宅介護される場合、仕事の都合に応じて利用できることで喜ばれるケースが多いです。送り迎えの時間が決まってないので、早朝に送ってきて深夜に迎えにくるとか、「来週の何日は地方に出張だから宿泊させてほしい」などというフレキシブル(柔軟)な利用ができるからです。
Q. なるほど。多機能型居宅介護施設には、いまや大きな社会問題になっている「介護離職」を防ぐ役割もあるわけですね。
中村 私は仕事でいろんな介護施設の人と接しますが、ある施設を辞めた人と、別の施設でバッタリ会うことがけっこうあります。介護の仕事を一度やったら、一般企業に移るよりは、同じ介護の世界で働き続ける人が多いのだと思います。それは、この仕事の持つやりがいの一つのあらわれでしょう。
「この人の人生の一部を、私が手助けできた」という確かな実感が、この仕事にはあります。介護職のやりがいといったら、まずはそういうことを思い浮かべますね。
よくわかりました。本日はありがとうございました。
(取材・原稿)前原政之
1964年栃木県生まれ。1年のみの編プロ勤務を経て、87年 23歳でフリーに。ライター歴30年。
特集/介護の仕事はやりがいがいっぱい(2018/06) | ドキュメント・ザ・舞台裏(2018/06) |
読まないで!?ドクターXの酔いどれ放言(2018/06) | おそと ぶらり探訪(2018/06) |