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特集/多角的な取り組みで、高齢者医療の問題点に挑む(2016/2)
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「医療難民」を生む、もう一つの課題
Q.まず、お二人の病院でのお立場を教えてください。
平岡 私は内科全体の責任者です。おもに救急部門を担当していますが、療養部門にも患者をもっています。当院は原則、療養部門と救急部門が分かれてはいるのですが、両方見ないといけないときもあるので。辰巳 私は、所属は「看護管理室」という管理部門ですが、認知症看護の認定看護師資格をもっているので、院内の認知症圏・高齢者圏の看護責任者も兼ねています。
Q.十分な医療や介護が受けられない「医療難民」「介護難民」の増加が、いま大きな社会問題になっていますね。医師不足や施設不足など、さまざまな要因が指摘されていますが、お二人も、医療の現場でそのことを実感されていますか?
平岡 実感しています。非常に多い「団塊の世代」が全員高齢者になったということもありますが、もう一つの要因は核家族化の進行でしょう。昔ならみんなで(要介護者の面倒を)みていたところを、いまは一人でみないといけないケースが多いのです。ご自分も病気をもっている高齢者が、別の家族を介護せざるを得ないような厳しい「老老介護」のケースも増えています。辰巳 認知症の患者さんが増えているので、そのことも大きな要因だと思います。老老介護の中には、軽い認知症の方が重い認知症のご家族を介護しているようなケースもあります。
Q.「医療・介護難民」増加のもう一つの要因として、内科だけの単科病院、精神科だけの単科病院が多いことがあると聞きました。具体的にはどういう意味なのでしょう?
平岡 「精神科の病院で、内科治療もできる」という病院は、昔は多かったのですが、いまは非常に少なくなっています。京都府では当院くらいしか残っていません。
そこからどんな問題が起きるかというと、内科単科病院は、認知症や精神疾患を抱えた高齢者の入院を拒むケースが多いということ。逆に精神科単科病院は、入院患者が内科疾患を併発した場合―「身体合併症」と呼びますが―、十分に対応することが難しい。その結果、認知症や精神疾患を持つ人が内科疾患を併発した場合、医療難民になってしまうのです。
辰巳 最近は昔に比べたら、認知症で身体合併症をもつ患者さんを、一般病院が受け入れてくれるようになってきました。それでも、よく動く(徘徊する)認知症患者は、やっぱり敬遠されがちです。
平岡 精神科の患者さんがほかの病気――たとえば肺炎や腸閉塞などを併発した場合、京都のみならず、大阪や滋賀などからも救急搬送で当院が受け入れることが多いのです。それだけ、他府県もこの問題で困っているということですね。
当院で入院を受け入れたことで、「助かった!」と感謝されるご家族も多いです。ほかの病院が受け入れを拒否してうちにきているわけですから、ご家族にしてみれば「最後の砦」のようなイメージなのでしょう。
Q.それだけ深刻な問題になっているのなら、精神科と内科を兼ねる病院をもっと増やせばよいと思うのですが、それは難しいのでしょうか?
平岡 一つには、精神科と内科を併設した場合、経営的に成り立たせるのが難しいということがあります。身もふたもない言い方をすれば、「あまり儲からない」のです。
また、いまは全国的に内科医不足ですが、とくに精神科併設病院に来たがる内科医が少ないのです。なぜかというと、精神疾患をもつ患者さんは十分な問診(病歴や病状について患者自身に聞くこと)ができないことが多く、内科医にとっては大変だからです。問診は医療の基本ですから。
そうした困難があるなかで、宇治おうばく病院は精神科・内科併設病院でありつづけてきたわけですね。
平岡 当院は創立当初から、経営理念として「公共性」を重んじてきました。精神科・内科併設をずっと維持してきたのも、地域貢献の一環としてやっていることなのです。
「併設」ゆえの、苦労とやりがい
精神科と内科を併設していることには、大変さもあれば、それゆえのやりがいと喜びもあると思います。まず、大変さの部分をうかがえれば。
平岡 まず、先ほども言いましたが、問診がうまくできない患者さんが多いことがあります。自分の症状を医師にうまく伝えられないか、あるいは間違った情報を伝えてしまう患者さんが多い。問診がうまくできないと、こちらが患者さんの顔色などをうかがって判断したり、検査の数値に頼って判断せざるを得ないわけです。
Q.精神科・内科併設だからこそ、単科病院のスタッフには気づきにくいことに気づけるという面もありますか?
平岡 あります。つい最近の出来事ですが、うつ病の患者さんが突然意識朦朧となって、「精神病が悪化したのだろう」と判断されて、当院に救急搬送されてきたんです。救急車から降りたとき、その患者さんの体が少し黄色くなっていることにうちのスタッフが気付きました。念のために黄疸の検査をしてみたら、急性胆嚢炎で手術が必要な状態でした。それで、けっきょく近隣の外科病院に入院させて手術をしました。
そういうことは、しょっちゅうあるんです。患者さん自身が自分の症状を正しく伝えられないので、具合が悪くなっても「精神病の症状だろう」と思われてしまう。身体合併症であることに気づかれにくいのです。でも、当院のスタッフは経験によって正しい判断ができることが多いわけです。
Q.その点にやりがいもあるのですね。辰巳さんはいかがですか?
辰巳 当院は精神科が主体ですが、医療療養病棟と、認知症も受け入れている介護療養型病棟があります。両方もっている病院は、全国的にも少ないと思います。そのことの強みをしみじみ感じたケースがあります。
その方は九十代の認知症患者さんで、最初は精神科の救急病棟に入ってきて、認知症病棟に移りました。その後、誤嚥性肺炎を起こして、身体合併症の病棟と認知症病棟を行き来していたのですが、やがて動けなくなって、医療療養病棟に移ってそこで亡くなられました。当院は病棟が特性に応じて分かれているので、患者さんの状態に応じて病院内で行き来できるわけです。
すごく愛嬌のある方で、どの病棟のスタッフにも愛されて、亡くなられたときにはなじみになったスタッフたちが大勢でお見送りをしました。ご家族が、そのことをすごく喜んでくださったんです。当院がいろいろな機能を兼ね備えているからこそ生まれた、感動の一コマだったと思います。
単科病院なら、患者さんの状態が変われば転院先を探さなければいけないわけですね。
辰巳 ええ。当院なら同じ敷地内ですぐに転科できます。やっぱり、お年寄りになると何かしら内科疾患をもっているケースが多いですし、認知症や精神疾患の治療を受けながら内科治療も受けられる環境は、ご家族にとっても安心できると思います。
ここの病院には内科もあるの!
Q.逆に、精神疾患を併発していなくても、内科治療のために入院される患者さんもいらっしゃるのですか?
平岡 もちろんです。当院の内科系療養病棟では、末期癌とか、他院で入院を拒否されたような難病、たとえばパーキンソン病のような神経難病の患者さんを受け入れる事例も多いのです。
末期癌ということは、ホスピス(終末期医療施設)的な側面ももっているということですね。
平岡 ええ。当院の医療療養型病棟にはホスピス的な側面もあり、介護療養型病棟には介護施設的側面があります。
辰巳 当院では、「静かに最期を迎えたい」という方へのケアは十分にしています。たとえば、ご家族と一緒に患者さんの人生を記録するアルバム作りに取り組んだり……。亡くなられたあとで、「ここで最期を迎えさせてあげてよかった」と、ご家族から喜んでいただくことも多いですね。
それと、医療療養病棟でも介護療養病棟でも、季節ごとのレクリエーションを取り入れています。夏祭りとかクリスマス会とか……。レクリエーションのときは、皆さんにホールに出ていただいて行います。これは、認知症の方にはよい刺激になりますし、少しでも癒やしになればと思って、スタッフが頑張って取り組んでいます。
お二人のお話をうかがって、宇治おうばく病院のイメージが大きく変わってきました。
平岡 どうしても、「宇治おうばく病院といえば精神病院」というイメージが根強いですからね。うちがきちんとした内科病棟をもっているということが、残念ながら、周辺の一般住民の皆さんにはあまり認知されていないんです。「へーえ、ここの病院には内科もあるの?」と、近隣の方に驚かれたりするんです。
うちは開設から半世紀以上になる歴史のある病院ですが、内科にも長い伝統があるし、スタッフもしっかりしています。内科は常勤医6名、非常勤医が3名いて、陣容からいっても一般病院と比べて遜色ありません。
そのことを近隣の方々に知っていただいて、内科疾患で医療難民になってしまっている方にも、もっと当院を利用してほしいと思っています。
(取材・原稿)前原政之
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