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特集/じつはスゴイ!?「リハビリテーション室」(2022/02)
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精神科には珍しい身体リハ部門
宇治おうばく病院のリハビリテーション室には、理学療法士7人、作業療法士3人が常駐し、患者さんに対するリハビリテーションを行っています。じつは、精神科病院に身体リハ部門があること自体珍しいとか。所属スタッフ3人に、仕事の中身とそのやりがい、身体リハの役割などについて伺いました。
Q.おうばく病院には「精神科作業法室(OT-リボーン)」 と「リハビリテーション室」がありますね。両方とも作業療法士が関わるので、外から見ると違いがわかりにくいのですか……。
藤原 作業療法室では、精神科領域の作業療法を行っています。精神疾患は脳機能が適切に働いていない状態なので、適切な状態に戻すための作業療法です。それに対して、リハビリテーション室で私どもが行っているのは身体に対するリハビリです。同じように精神科で働いている作業療法士でも、扱う領域が違うのです。
Q.精神科病院に、なぜ身体リハが必要なのでしょう?
藤原 精神疾患が悪化すると、入院治療を行っている間に身体機能や日常生活動作能力が大幅に低下してしまうことがあります。たとえば、一人で食事をしたり入浴したり、トイレに行ったりすることさえできなくなるケースもあるのです。そうなると、せっかく精神面が回復しても、「この状態ではとても退院させられない」という話になってしまう。そうしたことを防いで、退院後もスムースに生活できるようにするために、入院中の身体リハが必要なのです。
四方 また、長期入院をすると、閉鎖病棟の場合はとくに顕著ですが、患者さんの活動量は大きく下がります。
長期入院になればなるほど、退院後の生活は困難になりやすいのです。身体リハは長期入院患者の能力維持のためにも重要です。
Q.大切な役割を担っているのに、身体リハ部門を持つ精神科病院は珍しいそうですね。それはなぜですか?
藤原 身体のリハビリは本来患者さん本人の協力があって成り立つものなので、精神科病院ではスムースにできないことも多いのです。患者さんのリハビリ意欲が低かったり、拒否があったりすると、なかなかうまくできません。そういう難しさがあるので、「精神科病院で身体リハを担当したい」という作業療法士や理学療法士が集まりにくいのです。それも一つの要因だと思います。
Q.おうばく病院に身体リハ部門があることによって、部門がない精神科病院との間にどんな違いが生まれていますか?
四方 当院は「G-Pネット」という、一般救急病院との連携システムに参加しています。「G-Pネット」の運用がうまくいっている要因の一つに、身体リハ部門があることが挙げられます。たとえば、精神疾患を持った方が飛び降りによる自殺未遂をされ、大ケガを負って入院してくるケースがあります。その場合、一般病院では対応が難しいのです。入院中に自殺企図をされたり、夜中に大声を出したりするケースなどもありますから……。
一方、そういう人がリハ部門のない精神科病院に入院すると、必要な身体リハができません。でも、「G-Pネット」を介して当院に入院すれば、精神科治療と身体リハを並行して行えるわけです。その点は当院の大きな強みだと思います。
マンツーマン × チームで行うリハ
Q.具体的に、日々どのような身体リハをされているのかを載えてください。
藤原 まず、私どもの身体リハは、リハビリテーション室で行うとは限りません。来てもらう場合と、こちらから病室に出かけていってベッドサイドでリハを行う場合とがあります。
瀬野 たとえば、「精神状態がまだ落ち着いていなくて、病室から出られない」という方もいらっしゃるわけです。
また、精神的にではなく身体的に、寝たきりに近い状態でリハビリ室には行けないケースもあります。そうした方はベッドサイドでのリハにならざるを得ないわけです。
藤原 先ほど話に出た精神科作業療法室で行う作業療法は、集団で行うものがメインですね。それに対して、私どもの身体リハはマンツーマンで行います。理学療法士と作業療法士が1人の患者さんを担当しますが、同時に行うのではなく、作業療法士が対する時間と、理学療法士が対応する時間は分かれています。ただし、2人のチームで1人に関わっていきます。
Q.チームとなった作業療法士と理学療法士が、緊密に連携しているわけですね?
四方 ええ。リハビリテーション室には7人の理学療法士と3人の作業療法士が常駐していますから。
藤原 共通の担当患者さんについて、「○○さんは昨日こうだった」などという情報が日常会話の中でバンバン飛び交っています。ですから、事改めてミーティングなどを持つまでもなく、連携は常になされています。
Q.理学療法士と作業療法士の役割の違いがよくわからないのですが……。
藤原 じっさい、両者の役割には重なっている部分もあります。違いを示すために例を挙げると、靴下を履く動作がしにくいという患者さんがいたとしたら、おもに理学療法士が関節の可動域を広げたりする訓練をします。作業療法士の場合、それに加えて、実際に靴下を履いてみる練習を患者さんと一緒にしたりする役割なのです。
瀬野 理学療法士は、関節の可動域を広げたり筋力をつけたりすることによって、起きる・座る・立つなどといった基本動作の回復を、おもに担います。それに対して 作業療法士は生活動作――たとえば、関節が曲げにくいためにズボンが履きにくいとか、トイレに行きにくい、靴下が履きにくいといった生活の不便にアプローチしてその解消をおもに担います。作業療法士は加えて、その人にとって意味のある作業や、習慣と役割を再獲得できるような作業を会得していただくことも目指しています。つま り、一人の患者さんに対して、基本的な運動機能から、 その人にとってのやりたいことや意味のある作業まで、理学療法士と作業療法士がアプローチして、「QOL(生活の質)」の改善を図っていくのです。
四方 身体リハは家で元気に生活できることがゴールですが、私どもの場合、その手前の段階があるんです。それは、「精神科作業療法に参加できるだけの力をつける」という段階です。たとえば、ヨガをしたり、ボクササイズしたり、映画鑑賞をしたりといった精神科作業療法のプログラムがあります。それらに参加するためにも、ある程度の体力と精神力が必要なのです。映画を観るだけだって、2時間じっと座って観ていないといけないわけで、それができない患者さんもいるわけです。
患者さんがご自宅に戻ることを目指す手前の段階で、精神科作業療法に参加できるだけの力をつけてあげることが、私どもの一つの役割なのです。
根気強く介入すると相手も変わる
Q.精神科病院での身体リハならではの難しさとやりがいがあるかと思いますが……。
藤原 私どもが担当する患者さんは、さまざまな精神疾患をお持ちですが、共通しているのは「何かをしたい」という意欲自体が乏しい方が多いことです。当然、リハビリに対する意欲も乏しい。でも、リハビリしないとどんどん体が動かなくなっていくので、やってもらわないといけません。そのために根気強く関わって、リハビリに対する意欲を少しずつ高めていくことも、我々の大切な役割です。それは、一般病院でリハビリに関わっているリハスタッフにはない苦労だと思います。
Q.たしかに、一般病院ではたいていの患者さんがリハビリにも意欲的ですものね。
藤原 ただ、それは難しさであると同時に、やりがいでもあると思っています。最初はまるで心を開いてくれなかった人が、会う回数を重ねるごとに、だんだん意欲的になっていく……そうした変化を目の当たりにすることは大きな喜びです。
Q.たとえば、どんな瞬間に心を開いてくれるのですか?
藤原 患者さんが入院前にどんな仕事をしていたか、家庭の中でどんな役割を担っていたか、どんな趣味を持っていたか……そういうことを全部ひっくるめて「作業歴」と呼びます。それをくわしく聞き出して、作業歴に沿った内容でリハのプログラムを作ることがあるんです。たとえば、「編み物が好きだった」と聞いたとしたら、手芸をプログラムに取り入れるとか……。その人にピッタリ合ったプログラムがうまく見つかれば、そのことでリハビリに乗ってきてくれる場合があります。
瀬野 幻聴・幻覚があってリハビリどころではない状態から始まった患者さんが、少しずつ改善されてリハビリできるようになり、ご自宅に帰ってもらうことができたという経験が、私にもあります。そのときには大きな達成感がありました。
四方 当院では、そういった患者さんに対しても、薬剤調整によって精神的に安定されていれば、リハビリが積極的に入ります。過鎮静で動きが低下されている場合もベッドサイドで可能な範囲で介入します。日々のリハ場面で患者さんの状態を観察しながら、医師・看護師と情報を共有する中で、患者さんのできること・やりたいことを根気よく見つけていくことによって、次第にADLが向上していかれることが多いです。精神疾患を持つ患者さんに対して、医師・看護師・コメディカルスタッフで一丸となって適切な治療を行った結果、一般病院で難渋したケースであっても、地域生活に戻っていただけるような支援ができていると思います。
精神疾患を持つ方の身体リハについて、最初は拒否や無視をされても根気強く介入し、少しずつ相手の心を開いていく……その点にこそ、宇治おうばく病院 リハビリテーション室の強みがあると感じました。
本日は大変ありがとうございました。
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