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特集/リニューアルしたワークネットきょうとに注目!(2021/08)
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コロナ禍に負けず、歩み続ける
栄仁会の就労移行支援事業所「ワークネットきょうと」が、リニューアルしました。そこで今回は、開設から11年を経たこの事業所に、改めて光を当てます。高い専門性を持つスタッフが揃い、精神障害者の一般就労をきめ細かくサポートしてきたこの施設の、これまでといまを浮き彫りにしてみましょう。
Q.「ワークネットきょうと」は、精神障害者専門の就労移行支援事業所としては、国内で二ヶ所目にできた施設だそうですね。今年一月に移転してリニューアルしたとのことですが、まずはその背景から教えてください。
金森 開設したのが2010年4月で、使用している建物が老朽化していたことと、手狭になったためです。新事務所は、敷地が1・3倍の広さになりました。場所もこれまでは「宇治おうばく病院」と同じ黄檗駅(奈良線)が最寄りだったのですが、2駅離れた六地蔵駅の近くになりました。六地蔵駅からだと、奈良線だけでなく、地下鉄東西線と京阪宇治線も利用できます。電車も快速が停まるし、京都市内などから通所しやすくなりました。
松本 利用者からも「広くなったので作業しやすいし、通いやすくなった」という声が上がっています。
金森 受け入れられる利用者の定員も、これまでの14人から20人に増えました。
長井 広くなった分、私たちスタッフの仕事のストレスも減りましたね(笑)。
金森 それと、今回のリニューアルには、昨年来のコロナウイルス禍への対応という面もあります。「密」になる状況を作るわけにはいかないので、そのためにも敷地の広い施設に移る必要があったのです。
Q.コロナ禍は、就労移行支援にも影響がありますか?
長井 正直、マイナスの影響はかなりありますね。うちの利用者の就職先になってくれていた施設や企業から、「いまは受け入れが難しい」とことわられることが増えました。コロナによって、就職先が以前より限られてしまっているのです。
金森 実際の就職に先立って、利用者が提携企業の現場で働く「体験実習」も行っているのですが、その受け入れ先もコロナ禍で減少傾向です。
松本 通所についての影響もあります。所内で利用者が密にならないように、利用時間をなるべくずらして、集まる人数を少なくしてリスクヘッジしています。利用者同士のコミュニケーションもよい訓練になるし、利用者にとって楽しみにもなるのですが、その機会が減ってしまいました。
金森 ただ、うちの施設は京都の地で11年間就労移行支援事業所をやってきたので、さまざまな業種の企業に幅広いネットワークを持っています。それを駆使して、コロナ禍でもできるだけ本人の希望に沿う職業に就くための働きかけを行っています。全国的に、コロナ禍以降は就職率が下がった就労支援事業所も多いなか、うちは例年と同等の結果を出せています。いや、同等どころか、昨年中に就職した利用者は24人で、過去5年間で最高の人数です。
Q.これは、他の就労移行支援事業所と比べても高い水準ですか?
金森 はい。厚生労働省は一つの目安として、「就労移行支援事業所で、定員に対して就職後半年以上の定着者が50%以上であればもっとも高い評価区分」と見なしています。その中にあって、うちは定員20人で24人が就職し半年の継続をしているのですから、就職後半年定着の率はじつに120%で、突出して高いといえます。
利用者と「一生つきあう覚悟」で
Q.就職率は高いに越したことはないわけですが、就職してからの支援も重要になりますね。
金森 そうですね。精神面も含めて体調が不安定であったり、人間関係の構築が苦手だったりして、精神障害者にとっては職場で軌道に乗るまでのハードルが高いですから。そのために、「ジョブコーチ(職場適応援助者)」と「就労定着支援」というサポートを行っています。
Q.二つはどう違うんですか?
金森 どちらも、利用者が就職した職場にスタッフが訪問したりして、定着するための支援を行う点は同じです。ただ、ジョブコーチのほうは「障害者の雇用の促進等に関する法律」で定められた制度で、資格を取って登録したスタッフが行います。
長井 ワークネットきょうとの場合、私ともう1人、松岡というジョブコーチがおります。有資格者は2人以外にもいますが、ジョブコーチとして登録しているスタッフがその2人ということです。
松本 ちなみに、私もジョブコーチの資格は持っていますが、仕事としては就労定着支援を行っています。
金森 あと、二つの違いとしては、ジョブコーチは働き始めてから慣れるまでの導入部分の支援がメインで、就労定着支援は慣れて落ち着いてから起きる問題に対応することがメインになります。そのため、定着支援のほうは就職後半年経ってから始まり、最大3年間支援を続けるという形になっています。基本的にはその職場で働き続けるためのサポートですが、転職をサポートすることもあります。
松本 就職した職場に慣れて安定したように見えても、ずっと安定したままではいけないケースが多いのが、精神障害を持った方の特色だと思います。波があることを前提につきあう必要があるんですね。そして、困りごとが起きたときにはサポートをします。本人の話を聴くのはもちろん、主治医と連携を取ったり、職場の方と話し合ったり……。
長井 就労定着支援は最大3年間が期限ですが、うちの場合は3年が過ぎても、無償でサポートを続けています。長い人だと、10年くらいのつきあいになります。
金森 事業の採算性はもちろん重要ですが、「お金にならないことは一切しない」という姿勢ではなく、利用者にとって必要な支援を継続していくことが事業所の姿勢です。
長井 「一度担当した利用者とは、一生つきあっていく」というくらいの覚悟を持ってやっています。
Q.精神障害者の就労移行支援は、それくらい長い目で見ないといけないのですね。
長井 そう思います。利用者は、実際に就職した経験の中で変化していくものですから。かりに就職して一年で辞めてしまったとしても、その経験は決して無駄ではなく、一年分成長し、変化しているのです。その人がまたワークネットきょうとに通所し始めた場合、成長が私たちにははっきり感じられます。それを感じる瞬間が、この仕事のいちばんの喜びかもしれません。
松本 そうですね。就職した利用者が何かの壁にぶつかったとき、一緒に壁を乗り越えるプロセスを経ることで本人も成長できるし、支援者や企業も含めお互いの理解も深まるものです。通所を始めたころは人前に出ることが苦手だった人が、いまでは接客する職場で元気に働けているというような例もありますから……。
金森 精神障害を持っている・いないに関わらず、人には「希望を持てば、変われる可能性」があります。私たちは就労支援の仕事を通じて、その素晴らしさをしばしば目の当たりにします。その瞬間が大きなやりがいですね。
Q.利用者の就職率が高いということでしたが、就労定着率についてはどうですか?
金森 直近のデータでいうと、19年が89・4%、20年が84・3%です。仕事を辞めてしまう人は一割ちょっとしかいないわけで、定着率もかなり高いと言えるでしょう。
専門領域の知恵と経験を生かす
Q.企業系の就労移行支援事業所も多いなかにあって、ワークネットきょうとは大きな医療法人がバックになっていて、スタッフのみなさんは精神科での仕事の経験も豊富ですね。そのことが、どのように強みになっていますか?
金森 企業系事業所の場合、精神障害を持ってはいても症状が一定落ち着いている人しか、利用者として受け入れないケースが多いと思います。たとえば、統合失調症の患者さんでも、現在症状が出ているようなケースは「うちでは無理です」と断られることもあります。精神障害について、教科書的な知識を持っていたとしても、実際のケースは千差万別ですから、現場経験を持っていないスタッフでは対応が難しいでしょう。それに対して、うちの場合は比較的難しい方も受け入れています。精神障害を持っている利用者のことを、経験をふまえて対応していけるのと、もう1点は、一般就労することだけを目的にしているのではなく、利用者にとって生活全般が豊かになることも事業所の目的としているからです。
Q.なるほど。
金森 それと、就労移行支援事業所は、スタッフとして働くのに特別な資格は必要ではありません。ですから、うちの施設のように国家資格を持つスタッフが多いところはそれほど多くないと思います。たとえばこの三人でも、松本は作業療法士、長井は臨床心理士・公認心理師、僕は精神保健福祉士です。
Q.そうした専門性が、就労支援の中でどう生かされていますか?
長井 スタッフそれぞれが、自分の専門領域の視点から利用者を見ることができるので、各自の知恵を持ち寄って相談できます。 たとえば私の場合、臨床心理士・公認心理師として学んできた「傾聴のスキル」が生きる面があります。利用者さんの話をしっかりと聴いて気持ちに寄り添うことが、就労支援においても大事な土台になるので……。
松本 私は、自分が作業療法士であることを、就労支援の現場で意識することはあまりありません。ただ、目の前の利用者さんの「働きたい」という思いに対してどんな手助けができるだろうと考えるうちに、作業療法士としての知識や経験が生きている面はあるかもれしません。
長井 各スタッフが高い専門性を持ちつつも、現場での泥臭い仕事ぶりを大事にするところが、ワークネットきょうとの強みだと思います。そのことを象徴しているのが、車や原付きバイクで走る距離の長さです。例えば私の場合、利用者とその就職先を巡回訪問するために、遠いところでは奈良県あたりまで足を伸ばしたりします。その場合、一日に100キロくらい車で走ることも多いのです。 営業マンについて、「靴の底を減らし、足を使って仕事している」とよく言いますが、うちの仕事もそういうところがあります。
金森 うちの事業所はカバーするエリアが広くて、利用者の中には奈良県や滋賀県から来る人もいます。そのように遠くから来る利用者の場合、就職先も地元近くになるケースが多いのです。就職先が遠いと通勤も難しくなりますからね。そのため、スタッフの巡回訪問も、必然的に遠くまで行くことになるわけです。もちろん毎日100キロではないにしろ、巡回訪問する日には平均60キロくらいは移動していると思います。
「ワークネットきょうと」が、利用者の高い就職率と就労定着率を誇る理由がわかったような気がします。「就職したい」という思いを抱いている精神障害者にとっては、とてもよい施設でしょう。本日はありがとうございました。
(取材・原稿)前原政之
利用者の声
ワークネットを利用してよかったこと
ワークネットきょうとを初めて知ったのは主治医の先生に紹介されたのがきっかけでした。しかし、まだその頃は体調が不安定で自信もなかったため、デイケアで生活リズムと体力を付けてからワークネットきょうとの利用を開始しました。通所は短い時間からスタートして身体と精神を慣らしていくのに時間がかかりましたが、約半年後には終日利用でも余裕をもって作業ができるほど鍛えることができました。あと、同じく就職を目指す仲間たちもいたので心強かったり、影響を受けたりもしました。そして体験実習では3つの企業に行かせてもらいました。働くことが数年ぶりだったので、緊張して失敗やコミュニケーションがうまく取れずに落ち込んだりもしましたが、その失敗をスタッフさんと振り返って、気を付ける所などをまとめて次の実習に備えました。今勤務しているピーエムドゥさんでの雇用前実習の話を受けた時には、正直なところ初めは自信はなかったですが、会社担当者の方を交えた面談でうまくいくように調整してもらいました。その甲斐があって、実習が始まってからはしんどいこともありましたが、大きな問題はなく契約社員として就職させていただき、今では正社員になっています。担当のスタッフさんには、このような良縁とここまでのサポートをしていただき、とても感謝をしています。
これからワークネットに期待すること
働いていく中で、これから変化が多くなってくると思います。自分は大きな変化には苦手であるので、その時にはサポートを欲しいと思っています。最近の例でいえば、勤務時間を延ばすことに対して、「時間は延ばしたいけど、できるか自信がない」ということがありました。その時は、面談で話し合いうまい落としどころを見つけて、「できるかもしれない」という自信をいただきました。その後も時間が増えることがあった時も電話で相談させていただくことで、不安でいっぱいな気持ちを何とか持ち直し無事時間を伸ばせました。ピーエムドゥさんでは私に期待をされているようでプレッシャーもあります。これからも新しいことが多くあると思うので、その時に相談やアドバイス等で前に進む手助けをいただけたら幸いです。
企業担当者の声
ワークネットと連携してよかったこと
弊社では障害を持つ方が行われる事務補助作業であるからといって決して軽微ではありません。その方の特性に合わせて作業を振分けし、障害者のカテゴリーに属されていても、仕事にやりがいを感じ、誇りを持って生き生きと日々を過ごされれば、将来の目標に対して着実にステップアップされます。そのため依頼する作業は手順が複雑化したり、イレギュラー対応のため作業手順から構築しなければいけなかったりします。資料やマニュアルを提示し作業手順を説明した上で一緒に作業をおこなっても、自立し作業を行うとなると円滑に進められない方が多いです。また作業の建付けや、なぜ今この作業を行うかを理解いただく事にはかなりの時間を要し、結果、一連の作業を点に分割し行っていただく事になります。この過程の中で「頭や言葉では理解できている」が「行動は具体的にわからない」というような場合に作業や気持ちの整理をし、落とし込みを行ってくださるのがワークネットきょうと様でした。また個々人に響くキーワードを教えてくださったり、本人と企業とは違う信頼関係をお持ちのため、気持ちの変動や体調管理について本人としっかりと連携いただけるため、本来雇用主会社としてマネジメントに必要な労務管理に直結する部分を担っていただけます。このようなマネジメント分担が出来るため、企業では現場での丁寧なマネジメントが可能になりました。また特例子会社としての飛躍を目指し生産性や体制構築などにも注力する事が出来ます。今後とも是非お力添えいただきたいです。
ワークネットに期待している事
精神科の疾患をお持ちの方は一見安定しているように見えても症状の波があり、長期的に就労を継続してもらううえでは継続的なメンタルフォローが必要と考えています。そのため、これまで通りご紹介いただいた方のサポートや情報共有等の連携を行っていただきたいです。また、就労希望の方をたくさん引受させていただければ、雇用中の障害を持つ社員間でのコミュニケーションが既に構築されているため、違う方法で入社した障害を持つ社員にも派生し、グループ全体が活発にコミュニケーションを行えます。自分表現が苦手な社員も自己否定感が強くマイナスに捉えがちな社員も安心感をもってコミュニケーションに参加していきやすい環境になるため、今後も是非、就労希望の方をご紹介いただきたいです。
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