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ドキュメント・ザ・舞台裏/病院のお掃除のリアルな裏側お見せします!(2016/2)
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病院のお掃除のリアルな裏側お見せします!
当病院の舞台裏を潜入レポートする本企画。
今回は清掃スタッフを密着取材しました。
患者さんが「キレイな病院ですね」と言ってくださることがある。
そんなときは決まって、「いえいえ~。でも有難うございます」などとお茶を濁しているけれど、実際には筆者も患者さんに同意見で、「ふふふ、キレイでしょ!」と我が事のように自慢したいのが本心なのだ。
では病院が日々キレイに保たれているのは誰のおかげ?
このように思い立ったが吉日。業務委託先の株式会社TSKさんに無理を言ってお願いしたところ、清掃担当のスタッフさんに取材できる運びとなりました。
森さんにいろいろ
いつも清潔なフロアが印象的な当院A8病棟に出向くと、森さんがちょうど廊下の清掃をしておられた。これはまたとない好機、逃すわけにはいかない。
お忙しいところスミマセン。情報誌の取材で、掃除について教えていただきたいんですけど……。
森さんの表情が一瞬引きつったように見えたが、取材の主旨を説明すると笑顔で気さくに応じてくださり、ホッと胸をなでおろす。
「今やってるのはフロアね。病室と廊下の掃除は毎日こんな風にやるの」
おおっと、ちょっと待ってくださいよ~。カメラとメモを用意しますから!
フロア掃除のノウハウ
「フロアはまず、乾燥したダスターで塵やほこりを掃除するのよ」
そうおっしゃる森さん、専用のクロスが付いたダスターで廊下を手際よく掃いていかれる。
「ダスターをかけ終わったら、次は水拭きモップ。しぼった雑巾で床を拭くのと同じようなものね。で、乾燥させたら完了!」
モップは色によって4種類に分けられていて、赤色は汚染管理区域専用、黄色は一般区域専用という具合に、使うエリアごとに厳密な区別がなされているんだとか。
我が家の雑巾が「トイレ用」と「それ以外用」の2種類しかないのと比べると大違いである。
洗面台掃除のノウハウ
「じゃあ洗面台に移るわね」
ここで森さんは、おもむろにウエストポーチから洗剤を取り出された。うおっ、なんかプロっぽい!おまけにワイヤーで固定されてるし、ひょっとして猛毒っぽいスゴい化学薬品だったり!?
「アハハ、違うわよ。これはハイターと中性洗剤」
なーんだ。皮膚に付いたら骨まで溶けるようなヤツを想像してたのに肩すかしである。でも、だったらどうしてワイヤー固定までするんですか?
「精神科にはいろんな患者さんがおられるから。このA8病棟だけなら大丈夫なんだけど、病棟によっては洗剤を取って飲んでしまう方もいらっしゃるので、安全上の配慮ってわけ」
それでも誤飲された場合を考え、毒性の強い酸性洗剤は使用せずに、ハイターと中性洗剤の2種類のみとしている徹底っぷりだ。
そして洗面台の清掃が始まった。手際よく洗剤をスプレーしたうえで、スポンジやブラシを駆使して細部に至るまでピカピカに洗い上げられていく。
トイレ掃除のノウハウ
次はいよいよトイレ掃除だ。
「トイレは黄ばみの除去と消毒を兼ねて、まずハイターを軽くかけてキレイにしてから拭いていくのよ」
効果が高い酸性洗剤を使うことができない制約をものともせず、みるみるうちにトイレが新品同様の輝きを取り戻していく。
「トイレ掃除は子どもの頃からやってたからね。トイレを綺麗にしてたら可愛い子どもができるからって、母から何度も聞かされてて(笑)」
森さん、きっとその通りになられたんだろうなと感じさせられる言葉である。
もっともっとお話を聴きたいところだが、引き続くお仕事もあるので森さんとはここでいったんお別れして、現場責任者を務める赤堀さんに詳しくお話をうかがうことに。
秘密道具を持参の赤堀さん
病院清掃ならではの特色とかって他にもありますか?
「病院の清掃っていうと、特別な薬剤を使ったりしてるイメージがあるかもしれませんけど、基本的に除塵と水拭きなんです。もちろん手術室や無菌室は別ですが、窓を開ければ外気が入ってくるし人々も常に行き来している一般的な空間だと、完全除菌したところで意味がないばかりか、清掃の時間やコストだけが増大して、かえってご不便をおかけすることになるんです」
なるほど、TPOに応じた適切な清掃が大切ということだ。
「それでも、できるだけ美しい空間を維持したいですから、いろいろ工夫はしています。今日もいくつか道具を持ってきました」
こうおっしゃる赤堀さん、いくつもの秘密道具(?)を実演つきで披露してくださった。せっかくなので、そのうちの幾つかをご紹介しよう。
世の中には知らない便利グッズがまだまだあるんだなあ……。
終わりに
院内の清掃に日々励んでくださっているお二人に改めて尋ねてみた。
お仕事のうえで大切にしてらっしゃることってありますか?
森さんいわく、「とにかく隅をキレイにすることね!」。隅っこには塵や汚れ、黒ずみなどがたまりやすいだけに、隅をビシッと掃除すると一目見て美しく感じられるらしい。
「あとは、ちょっとしたほこりでも気になる性格かしら。仕事中はもちろん、スーパーとか駅とかでも、ここは掃除が行き届いてないわ! とか気になっちゃって。職業病かな(笑)」
こんな人に掃除されたら、どんな汚れであろうとひとたまりもなさそうである。
かたや赤堀さんは、「作業療法や入浴といった患者さんの予定を妨げないよう、できるだけ柔軟な清掃スケジュールを心がけています」。可能な限り裏方に徹して目立たないことを信条としておられるのだ。
それでも森さん、赤堀さんともにこう口を揃えられる。
「患者さんや職員さんから、いつもキレイにしてくれてありがとう! って言っていただけるのが本当に嬉しいです」
退院される患者さんがこんな風に声をかけてくださったり、手紙を渡してくださったりすることが心から嬉しいとおっしゃるご両人。
そして最後に、赤堀さんがポツリとおっしゃった。
「清掃の仕事って、敬遠する人も多いですし、社会の底辺と言われることもあります。でも、だからこそ何かが見えてくるんじゃないかという思いがあって、この仕事に飛び込んでみたんです」
見えてきたものは……。
「一番大きいのは、物事に対して柔軟に、寛容に考えられるようになったことです。この業界に入ってからは、思い通りにならないことに対してイライラすることが少なくなりました。いくらピカピカに掃除しても、次の瞬間には汚されたりする世界ですから」
「でも考えてみたら、誰かが汚してくれるからこそ、僕らが働けるんですよね。どれだけやっても終わりはないですけど、だからこそ誰かが続けないといけないんです」
こんな心意気を持つ人々がキレイにしてくださっている病院で働いている自分がなんだか誇らしく思える、貴重な取材体験だった。
日々のお掃除、今後もよろしくお願いします!
(取材・原稿)臨床心理士・名倉
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