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ドキュメント・ザ・舞台裏/認知症治療病棟「C6病棟」のリアルな裏側をお見せします!(2019/02)
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認知症治療病棟「C6病棟」のリアルな裏側をお見せします!
当院の舞台裏を潜入レポートする本企画。
今回は特集記事に関連の深い、当院の認知症治療病棟「C6病棟」のリアルな現場をご紹介します。
進行するだけで治らない病気という認知症のイメージに加えて、職員による虐待や患者からの暴力などがメディアで取りざたされる度に、現場と乖離した暗澹たる印象を世間から持たれているのではないかと心配になってしまう。
でも実際の病棟は、そんな印象などちっとも感じられない、和気あいあいとした居心地のいい空間なのだ。
今回はC6病棟師長をつとめる看護師・佐藤さんの案内で、こんな病棟の実際を紹介していきたい。
C6ってどんな病棟?
ここがどんな病棟なのか教えてください。
佐藤「入院されているかたの認知症の度合いはさまざまですが、全介助が必要な患者さんではなく、生活機能回復訓練が受けられる患者さんを対象としているのが、認知症治療病棟の特徴です」
認知症は治らない病気というイメージがありますが、入院することで機能回復が望めるのでしょうか?
佐藤 「お薬の調整によって精神状態が落ち着かれてコミュニケーションも改善されたら、生活に必要な訓練を並行して行っていただきます。ADL(日常生活動作)を向上させて、入院前は困難だったグループホームや在宅での暮らしを可能にすることが、入院中の治療目標となってきます」
できることを増やしていく、という発想なんですね。
佐藤「正直言うと、全てこちらで介助したほうがスタッフ側も楽なんです。でもそれをやってしまうと、患者さんの機能回復は望めません。できないから介助するだけでなく、できるところを高めて退院後の生活につなげていくんです」
入院時にまず、患者さんができること・できないことをしっかりアセスメントしたうえで、退院後の生活に向けて目標を立てるのだという。入院期間はとくに定められていないものの、2~3ヶ月で退院されるかたが大半だという事実が、その治療成果を物語っている。
くつろぎの病棟ホール
「では病棟に出ましょうか」とおっしゃる佐藤さんが真っ先に案内してくださったのは、広々としたホールだった。
患者さんはここでどんな風に一日を過ごされるんですか?
佐藤「朝食の後みんなでラジオ体操をしてそこから入浴や歯磨き、髭剃り等をします。昼食をはさんで、午後はさまざまなプログラムで活動します。これらはいずれも機能回復訓練の一環です」
ホールではちょうど書道のプログラムが行われており、しばらく傍らで拝見させていただいた。
必要に応じて病棟スタッフが付き添いながら、患者さんが思い思いにゆっくりと筆を運んでいるさまは、味わい深い書体と相まってとても心なごむ光景だ。
プログラムにはその他風船バレーやボーリングカラオケ、映画鑑賞、塗り絵など行っているという。
佐藤「ホールに吊っている万国旗も患者さんたちが塗ってくださったものなんです。ただ、患者さんが紙を誤食して喉に詰まらせる可能性があるので、手の届かない高さに吊っています。安全配慮には常に気を遣いますね」
独特の廊下と、病室の工夫
ふと廊下を見ると、詰所やトイレを囲むようにして大きな回廊構造になっている。
こういう廊下の構造は、歩く患者さんの周回を妨げないためだと聞いたことがありますが、実際にはいかがですか?
佐藤「長所と短所の両方ありますね。よく歩かれる患者さんは何周もされて良い運動になっている反面、疲れを自覚できない患者さんは歩きすぎることがあるので、途中にソファを置いて足を休められるようにしています」
これだけ広いと安全への目配りも大変そうですね……。
佐藤 「それでも身体拘束は極力行わず、できるだけ自由に動いていただいています。拘束することによるご本人の苦痛や廃用症候群といったデメリットと、拘束しないことによる転倒や骨折といったリスクの増加、その双方をご家族にも説明して理解をいただいています」
転倒や骨折のリスクにはどう対応されるんですか?
佐藤「骨折をご本人が自覚できないケースもあるので、それぞれの患者さんの歩き方や行動パターンを普段から観察・把握するよう心がけています。歩き方や行動が普段と少しでも違っていたら、足や脳に何らかの異状が起きている可能性がありますから」
学習療法、回想療法
さらなる取り組みとして、学習療法と回想療法を紹介してくださった。
学習療法は患者さんのレベルに応じて、計算問題や筆記課題を行うことによって、機能回復の促進が期待される。頭脳も使わないと退化してしまう点では、身体と同じようだ。
回想療法は患者さんが集って、昔の想い出話を共有することによって、不安や焦燥の軽減といった精神的な安定が期待される。認知症の患者さんは、新しい記憶を定着させるのは難しくても、昔の記憶はしっかりしてらっしゃることが多いので、想い出話になると盛り上がって楽しいひと時を過ごしていただけるのだ。
回想療法で使われている道具を見せていただくと、お手玉に湯たんぽ、お手玉、けんかゴマ、メンコ、そろばん……時代を感じる品々がずらりと並ぶ。自分が高齢者になったときに回想法で使われるのは何だろうかと、つい思いをはせてしまった。ガンダム、なめ猫、ゲームウォッチ、ドラクエ、ガラケー……完全に年代がバレますね(笑)。
詰所にもひと工夫
ホールに面するサブステーション(詰所)には、患者さんの作品だけでなく、本日の日付が大きく張り出されていた。
これも治療的な意味があるんでしょうか?
佐藤「今日は何月何日か? ここはどこか? といった見当識を持っていただくための工夫です。これらも全て詰所のガラス内側に貼り付けて、紙の誤食が起きないように留意しています」
浴室に潜入!
と、ちょうどそのとき、患者さんの入浴時間が終了したので、浴室を見学させていただくことに。足を踏み入れるとそこは、隅々までキレイに磨き上げられ石鹸のいい匂いが漂う、ホテルの大浴場とたがわぬ清潔感あふれる浴室だった。一般的な浴槽と違うのは、階段がしっかり付いている点だろうか。転倒を防ぐための安全配慮が徹底されている。
浴槽の隣スペースには、なにやら未来の入浴マシンのようなものが置かれていた。
コレは何ですか?
佐藤「車椅子の患者さんなどに、座ったままの姿勢で入浴していただくためのものです。この業界では以前から使われていて、目新しいものでは全然ないですよ(笑)」
ちなみに患者さんは、浴室に行きましょうと声をかけると嫌がって拒否されることも多く、かといって入浴しないと清潔面で良くないので、そんなときは「ちょっと私と歩いてみましょうよ♪」等、うまく言って浴室にお連れするのだという。
すると当初は入浴を嫌がっていた患者さんも、いざ浴槽に浸かると気分がよくなって湯船から出たがらなくなるというから、現場のスタッフさんの苦労はしのばれるけれど、人って面白いものだなあとつくづく思う。
お仕事への思い
認知症の患者さんと関わる現場は、やはり大変な面も多いのでは?
佐藤「それが、病棟スタッフも私も疲弊せず楽しくがんばれているんです。これは私がC6病棟に来る以前から育まれている財産として、いま感じている雰囲気ですね」
それは何がいいのでしょうか。
佐藤「認知症の患者さんって世間一般のイメージとは違って、コミュニケーションが豊かに築ける患者さんが多いんです。たとえ記憶の連続性は無くても、こちらが誠実に関わると患者さんもそれにしっかりと応えてくださいます。それが日々嬉しくて、だからこそ患者さんが失禁されたりしても笑顔で対応できている気がします」
こうおっしゃる佐藤さん、これからも素敵な笑顔で患者さんの力を引き出していってください!
(取材と原稿)臨床心理士・名倉
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