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ドキュメント・ザ・舞台裏/医療療養病棟 A7に潜入レポート!(2022/08)
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医療療養病棟 A7に潜入レポート!
当院の舞台裏を潜入レポートする本企画。今回は特集記事にも登場した医療療養病棟(A7病棟)に出向いてそのリアルな現場をご紹介します。
当院A棟7階に位置する医療療養病棟(A7病棟)は、私のような心理職スタッフにとって、あまり足を踏み入れることがない「未知のエリア」だ。
なんとなくのイメージとしては、「さまざまな理由によって寝たきり状態で身体ケアも必要な高齢患者さんが、比較的長期にわたって入院されていて、最期の看取りまで見守ることが多い……のかな?」という認識だろうか。「さまざまな理由」という雲をつかむような表現も、一介の医療従事者である身としてはお恥ずかしい限りなのだが、脳出血の後遺症とか認知症の進行あたりだろうか。こんな曖昧な認識しか持っていない自分を何とかするため、実際の病棟にお邪魔させていただいた。
今回はA7病棟で副主任をつとめる看護師・酒井さんの案内で、病棟の実際のようすを紹介したい。
A7ってどんな病棟??
Q.ここがどんな病棟なのか教えてください。
「寝たきりの高齢患者さんが多いのは事実ですね。当病棟の基準として、自力で歩行できるレベルの患者さん(ADL区分①)が全の2割以下である必要があるので、必然的にそうなるんです」
Q.では8割の患者さんたちはどういった方々なのでしょう?
「脳出血や認知症以外にも、嚥下機能の低下などによって認知レベル・意識レベルが低下されているケースもあります。自力での食事が困難で介助が必要な方が大半ですし、痰の吸引や点滴など身体的な処置が必要な方も多いです」
Q.看取りまでされることが多いのでしょうか……?
「最後までお看取りするケースもありますが、ある程度まで機能が改善されたら、他の施設やご自宅に退院していただくケースのほうが多いですね」
機能が低下して寝たきりの高齢患者さんであっても、改善されることが多いとのこと。どういう治療や関わりをしているのか気になるけれど、ひとまず病棟を見学させてもらおう。
たいせつな空間、病棟ホール
酒井さんが最初に案内してくださったのは、詰所の前にある病棟ホールだ。
Q.このホールはどのように活用されているんですか?
「談話スペースでもあり、レクリエーションや行事を行うスペースでもあります。車椅子の患者さんのために、イスのないテーブルが多いですね」
Q.ピアノが置いてありますけど、使うこともあるんですか?
「クリスマス会など季節の行事では、ピアノを弾けるスタッフが演奏します。クリスマスではハンドベルも一緒にやりましたね」
Q.ほかにはどんなことをしているんですか?
「ここにCDがありますけれど、盆踊りなども盛り上がりますね。自力では立ったり歩いたりできない患者さんが大半なので、スタッフが浴衣を着て踊りを担当して、患者さんには太鼓を叩いてもらったりします」
「CDでは演歌が人気です。日頃は口数が少ない患者さんが、演歌が流れてくると一緒にロずさんで、元気になられることもあります」
Q.ホールでの工夫や気遣いなどがあれば教えてください。
「飾りつけには気を配っていて、各テーブルの上にはお花を飾っています。手入れや管理もあって花瓶に生花を活けるのは難しく、造花ではあるんですが、それでもとくに女性患者さんは喜んでくださいますね」
Q.ちょっとした飾りつけでも違うものなんですか?
「寝たきりの患者さんだと、ベッドで過ごしている時間は、ずっと天井しか見てらっしゃらないわけです。それだけに、1日3回の食事のときだけでも、美しさや嬉しさといった機微を感じられるものに接していただくことはとても大切なんです」
Q.なるほど、それだけ大きな意義があるんですね。
「なので季節感のある飾りつけも心がけています。今はちょうど桜の時期なのでこういった飾りつけですが、季節の移ろいに合わせて小まめに変えるよう心がけています」
お昼ごはんタイム
お昼時になったので、昼食の光景を見学させていただくことに。
Q.ホールに出てこられる患者さんは意外と少ないんですね。
「食事を口から摂るのが困難な患者さんは、自室のベッド上で鼻腔チューブや胃ろう、あるいは抹消血管や中心静脈からの栄養注入になるんです」
食事には管理栄養士さんも訪れていた。日頃から入院患者さんの食事風景を伺っているそうで、たとえばメニューのゼリー食を変更したときに問題なく飲み込めておられるかを確認したりしているとのこと。
嚥下能力などさまざまな身体機能が低下した患者さんがおられるだけに、食事ひとつとっても細やかな気遣いが求められるのだろう。
病室でのベッドサイドケア
次は病室を案内してくださる酒井さん。患者さんの部屋を勝手に撮るのは憚られるため、まずは空いている一室で全景を撮影。
大きな窓からは陽光が降りそそいで、とても明るい部屋である。病院の7階という高層階だけあって、窓からの眺望も素晴らしい!
部屋の外のベランダに出てみると、眼下には宇治市内を一望できる雄大な景色が広がっていた。
Q.ホールも病室も、とても治療環境の良好な部屋ですね!
「そうですね。宇治の花火大会が毎年開催されていた頃は、患者さんと一緒に鑑賞したりしていました。ただ、寝たきりの患者さんは自力で動くことができず、点滴や酸素が常時必要だったりもするので、レクリエーションや創作活動といった日頃のプログラムに参加していただけない場合が多いんです。だからこそ私たちは、病室でのベッドサイドケアに力を入れています」
Q.ベッドサイドケアというと??
「ご家族から提供していただいた、お孫さんの写真を枕元に置いて、それをきっかけにいろんな話をうかがったりしていますね。寝たきりの患者さんであっても、どういうアプローチができるかを考えることが、受け持ちスタッフのモチベーションにもなっています」
アロマの効果も
ホールに面するステーションには、アロマテラピーの道具も置かれている。
Q.これも治療的な意味があるんでしょうか?
「寝たきりが続くストレスをアロマの香りで緩和できればと考えて、アロマのいい匂いを染み込ませたティッシュを枕元に置いて、マッサージをさせていただいたりしています。こういった関わりは、受け持ち看護師の判断で行っています」
浴室を拝見!
次は浴室を見学させていただいた。足を踏み入れると、通常の銭湯などでは見られない装置がいくつも並んでいる。
「たとえば、この装置は寝たままの姿勢で入れるミスト浴です。胃ろうや気管切開の患者さんでも、そこにタオルをあてがってのミスト浴は可能です。保温とリラックス効果が得られますね」
ふと窓際に目をやると、すごい数のシャンプーやリンスが林立していた。なんだか壮観……。
「病棟ではボトルキープ方式で、患者さんがそれぞれ持ち込みのシャンプーやリンスを使用しています」
お仕事への思い
さいごに普段のお仕事でのご苦労や思いについてうかがってみた。
Q.完治が難しい高齢患者さんに日々向き合っておられると、疲弊したり燃え尽きたりされないかと心配ですが……。
「たしかに重症度が高く自発的な訴えができない患者さんが多いです。つらくても、痛いとかしんどいとかさえ言えないわけです。だからこそ、私たち職員が日頃から患者さんの様子をよく観察して、調子の変化に気付くことが大切です」
Q.具体的にはどういった様子に目を配っているんですか?
「たとえば顔色や表情もそうですし、手足の温度や浮腫み、口腔内の粘膜の状態……こういった小さな変化も見落とさず、異常を感じたらすぐ主治医に伝えるよう心がけています。そのぶん、神経を張り詰めることも多いのですが」
Q.神経を張り詰めながらも燃え尽きることなく元気にがんばれる原動力はなんですか?
「患者さんを一人のスタッフで担当するのではなく、看護師と介護士のモジュールで受け持って、困っていることや情報を常に共有し合えることが大きいです。そして、懸命にかかわることで病状が回復されて、こちらの声掛けに反応してくださるようになったり、グループホームなどの施設に退院が決まったりされると嬉しさもひとしおです」
酒井さん、業務にお忙しい中、取材に応じていただきありがとうございます。いきいきとお仕事に向き合うお姿がとても印象的でした!
(取材と原稿/臨床心理士・名倉)
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