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特集/訪問看護が変わった!(2023/08)
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専門性が求められるようになった
栄仁会は3つの「訪問看護ステーション」を持ち、それぞれが地域医療において大切な役割を担っています。
ただ、近年、3ステーションに求められる役割も変わってきました。
どう変わったのか? そして、コアにある変わらないものとは何か?
各ステーションで所長を務める看護師さんたちに伺いました。
Q.栄仁会の3つの訪問看護ステーションについては、本誌でも過去に特集記事を掲載しました(第20号)。ただ、それはもう6年前のことですし、ここ数年来、訪問看護を巡る環境も大きく変わっていますので、今回改めて特集を企画した次第です。
6年前の特集では、訪問看護の対象として、介護保険を用いた認知症などの老人看護と、精神科領域の看護がおおむね半々だというお話でした。それに対して、いまは精神科領域の比重が大きくなっているようですね。
脇田 そうですね。昔はうちの訪問看護も介護医療が中心でした。それは、地域に訪問看護ステーション自体が少なかったからです。いまは数が増えたので、訪問看護ステーションごとの専門性が求められるようになってきました。栄仁会の専門性はもちろん精神科医療にありますから、そちらに比重が移ってきたのです。
Q.3つのステーションでは、利用者(訪問看護対象者)に認知症のお年寄りはもうあまりいらっしゃらないのですか?
脇田 いえ、いらっしゃいますよ。ただ、その場合でも、他の訪問看護ステーションでは対応が難しいような方が多いですね。
中村 宇治おうばく病院では2011年から、京都府の「アウトリーチ推進事業」の委託を受けて、独自のアウトリーチ活動を行ってきました。「アウトリーチ=手を伸ばす」という意味で、生活の場に直接訪問して支援活動を行うことを指します。精神科の受診中断や入退院を繰り返している方、長期入院から退院した方などを対象として、安心して在宅で生活できるように一時期・集中的に支援します。その際、課題やニーズ、ストレングス(強み)をアセスメントして必要な支援を整理し、適切な地域の社会資源につなぐ役割を担っています。
私が所長を務める「訪問看護ステーションおうばく」では、今年組織改編も行い、これまで病院内にあったアウトリーチ・チームが訪問看護ステーション内に統合されました。これからはステーションと病院が協働して、利用者を支援していくことになります。
Q.「アウトリーチ・チーム」というのは?
中村 私たち看護師と、作業療法士、精神保健福祉士、それに医師が、一人の患者さんに対して小さなチームを組んで集中的に支援をします。複数の職種でチームを組むので「多職種チーム」という言い方をすることもあります。多職種のスタッフが訪問をすることで、各職種の特性を活かしながらも、専門性に縛られない柔軟で多面的な見立てによる支援が可能となります。そのために毎日、30分程のミーティングで意見を交わして、利用者の見立てと方針の確認を行います。そして各自、見立てを活かしながら、訪問によって方針に向けて実践していくいわばチームプレーなんです。
Q.今年の組織改編については?
中村 以前は病院内にアウトリーチ・チームがあって、集中的支援の時期が終わったら、あとは訪問看護ステーションに託す(=移行)というやり方でした。ただ、これだと支援者が一気に変更となって利用者の状態不安定につながりやすいことや、変化への不安から移行を受け入れてもらえないことがあるため、利用者の不安や負担を少しでも軽減するべく編成を進めました。いまは訪問看護ステーション内にアウトリーチ・チームがあるのでチームの支援から訪問看護ステーションの通常の支援に移行していく中で、新しい支援者も一緒に訪問できるので、変化の少ない形で支援を継続できるようになったことは大きい利点となっています。
廣 さきほど脇田所長が言われたような当法人の専門性については、各地域にもうすっかり評価が定着していると思います。「精神科領域の、比較的障害の重い方については、栄仁会のステーションにお願いしたい」という評価です。
その評価を別の言葉で言い換えれば、「安心感」ということになるでしょうか。バックにおうばく病院があるからこそ、もし「在宅での生活が困難だ」ということになっても早期に入院・保護という選択肢に繋ぐことができます。加えて、外来と密に連携して情報共有できるので、地域支援者全体での質の高い支援が可能になります。訪問看護サービスにも精神科経験の豊富なスタッフが多いので、安心して任せておける……そのように評価していただいていると思います。最近では、新規利用者の依頼以外でも他事業所からケース相談を受ける機会も増えてきました。
精神科をとりまく環境の変化
Q.お三方の中で、いちばんベテランなのは脇田さんですね。
脇田 そうですね。私は「訪問看護ステーション京たなべ」に入職してから18年になりますから。その経験を踏まえて感じるのは、社会の大きな変化ですね。私がこの仕事を始めた当時は、精神科の訪問看護自体があまり知られていなくて、利用する方も少なかったんです。精神疾患で状態が悪くなったら、入院するか、通院の回数を増やすしかなかったですし、精神疾患に対する偏見もいまよりずっと強かったと思います。
それが最近は、「精神障害を持つ方を地域で支えていこう。自宅で暮らせる環境を整えていこう」という社会になってきたし、そのための環境整備も大きく進みました。
廣 そうですね。つい10年ほど前には、「アウトリーチ」という概念自体があまり知られていませんでした。
Q.ということは、宇治おうばく病院が12年前の2011年からアウトリーチ活動を本格的に始めたのは、かなり先駆的だったのですね。
廣 そう言っていいと思います。
中村 精神科医療について、「入院医療中心から地域生活中心へ」というシフトが国を挙げて推進されていて、アウトリーチがクローズアップされた背景になっています。その中にあって、栄仁会はかなり頑張っているのではないかと思います。とくに、おうばく病院に精神疾患で入院されていた患者さんが退院された場合、退院後3ヶ月間は週5回ペースでアウトリーチ・チームが訪問するとか、集中的ケアをしていますから。
廣 訪問看護の頻度はケースバイケースですが、だいたい週1回くらいが平均的なんです。それを、退院直後のいちばん支援が必要な時期に限って手厚く訪問して、安心して自宅で暮らせるように持っていくわけです。ケースによっては、退院後の支援に向けて少しでも安心していただくために、入院中から関わりを持つこともあります。
中村 アウトリーチ・チームが集中的ケアをするのは、退院直後の方だけとは限りません。「未治療」という呼び方をしますが、本来は治療が必要な精神疾患の方でも、病院につながらないまま、地域に埋もれている方もいらっしゃいます。そういう方について役所や保健所から相談を受け、当法人が京都府から受託している「長期入院患者等退院後支援事業」の多職種チームとして訪問することもあります。
Q.地域に埋もれたままであった精神疾患の方が、医療につながれるようになったのですね。
廣 私は「訪問看護ステーションそうらく」に来る前、病棟で精神科の退院促進にずっと関わってきました。精神科に長期入院される方は、一度状態がよくなって退院して、訪問看護につなげても、また悪化して入院をくり返すケースが多かったのです。でも、アウトリーチ活動が活発になってからは、アウトリーチ・チームの集中的ケアが地域生活への橋渡しとしてうまく機能するようになり、安心して退院していただけるようになりました。退院促進に携わってきた一人として、アウトリーチの意義と重要性は身にしみてよくわかっています。
訪問看護だからこそできること
Q.同じ精神科領域でも、病棟での看護と訪問看護では違いも大きいと思います。みなさんのご経験を踏まえて、訪問看護だからこそできること、あるいは訪問看護ならではのやりがいをお話しいただければと思います。
脇田 ご自宅にくり返し訪問して関係を深めていく仕事ですから、訪問看護では利用者の人生に寄り添っている感じがしますね。
たとえば、私がずっと訪問してきたある女性の場合、最初はお子さんが小学生だったのに、今年はもう高校を卒業されて、そのことでまるで我が子が高校を卒業したような喜びを感じました。一緒に悩みながら子育てしてきたような気持ちと言いますか。
あとは、もう亡くなりましたが、ずっと訪問してきた認知症の女性が紀寿(百歳の祝い)を迎えたとき、「あなたのおかげで百歳を迎えることができました」という「感謝状」をいただいたことが忘れられません。長く訪問看護を続けることができたのは、そういう数多くの喜びややりがいがあったからです。
中村 私の場合、おうばく病院に来る前は一般の大学病院で看護師をしていたんです。そのころといまを比べると、「看護師でも治療を動かしていけるんだ」と実感できたことがいちばん大きな違いのような気がします。
Q.「治療を動かしていける」とは?
中村 大学病院時代には一般の内科などを担当していましたが、その世界では「治療するのは医師」なんですね。看護師はその手伝いをするだけというか。でも、精神科の訪問看護に携わるようになって、お薬を使わないリハビリ的支援、生活支援だけでも、患者さんの病状を大きく左右する力があることが実感できました。その意味で、昔抱いていた精神科看護のイメージよりも、いまはずっと楽しいです。
廣 それは私も感じますね。薬を使わないといけない局面ももちろんありますが、私たち看護師が利用者に「安心できる環境」を提供できれば、それだけで病状がよくなるケースがたくさんありますから。例えば、眠れなくて苦しんでいた患者さんが、私たちが話を聞くだけで気持ちが落ち着いて、すっと眠れるようになるということもあるわけです。ある意味で薬以上に治療に寄与できる。それは精神科の看護、とくに訪問看護の醍醐味だと思います。
逆に言えば、話をするだけで安心していただけるようなそういう関係性を、私たちが利用者やご家族との間に築くことが、すごく大切なわけです。
Q.そうした関係性の築き方というのは、精神科看護の経験が豊富にあるからこそわかるという面もあるのでしょうね?
廣 そうですね。看護の三要素は「知識・技術・態度」だと言われます。そのうち、知識と技術については自分で学ぶこともできますが、態度については看護経験を積み重ねて培っていくものと私は思っています。精神科看護の経験が乏しいと、精神疾患を持つ人との接し方、関係性の深め方はわかりにくいと思います。その経験が豊富なスタッフが揃っていることが、栄仁会の3つのステーション共通の強みです。
脇田 たとえば、私が所長を務める「訪問看護ステーション京たなべ」の場合、キャリア15年以上のスタッフが私含めて3名で、8年から12年目のスタッフが2名と、経験豊富なベテラン揃いです。
みなさんのお話で、訪問看護の重要性がよくわかりました。ありがとうございます。
(取材・原稿)前原政之
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