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特集/ネットワークで強まった「治す力」『G-Pネット』って?(2017/2)
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「困った時に助け合う」協力体制作り
Q.今回のテーマは「G-Pネット」です。
「G」は「Generalist=一般医」で、「P」はPsychiatrist=精神科医」の略。つまり、精神科病院と地域の総合病院が連携することで、患者さんに適切な医療を提供するためのネットワークのことですね。
そもそも、宇治おうばく病院が「G-Pネット」を立ち上げようとしたいきさつはどういうことなのでしょう?
岡 最初に断っておきますと、一般には「G-Pネット」と言う場合、「うつ病治療に特化した、一般病院と精神科病院の連携ネットワーク」を指すことが多いようです。それに対して当院の「G-Pネット」は、一般救急と精神科救急の連携がメインです。その点をまずご理解ください。
たとえば、認知症の高齢者が身体の不調を訴えたり精神疾患から自殺未遂された方が一般救急病院に救急搬送されたり、生活習慣病の治療を受けながら精神科にも通院していたり……。そういった連携はG-Pネットを立ち上げる以前から行われていたわけです。 ただ、「そういう連携を、もっとシステマティックにルールをきちんと決めてやったほうがいいんじゃないか」という内部からの要請があって、「G-Pネット」を立ち上げました。以前は、「連携」がスムースにいかないケースも多かったからです。
本来なら総合病院の中に精神科病棟があり精神科医もいるという形が理想的ですが、日本にはそのような総合病院が少ないですから、「地域の病院同士が連携して精神科も診れる総合病院を作る」のが合理的なのです。
Q.おうばく病院の「G-Pネット」は、立ち上げ当初、地域の3つの総合病院との連携から始まったそうですね。清水先生のおられる病院は、最初の3つのうちの1つだったのですか?
清水 そうですね。当院とほかの身体(一般)救急病院の医師たちがたまに集まって話し合いの場を持っていたのですが、その席でよく話題に上っていたのが、「精神疾患を持つ患者さんが救急搬送されてきた場合我々一般救急医だけでは対応が難しい。なんとかしないといけない」ということだったんです。
「難しい」というのは、身体のケガなどは治療できてもそれ以外の面は我々にはよくわからないからです。
自殺未遂をくり返したり、過剰飲酒による救急搬送をくり返したりする患者さんに、どう対応したらいいのかまるでわからない。わからないから、そういう患者さんが一般救急病院をたらい回しになっていたケースもありました。その点で、専門知識を持つ精神科医の助けが欲しかったのです。ちょうどそんな話をしていたとき、おうばく病院さんから「G-Pネット」のお話をいただいたので、渡りに船という感じで飛びついたのです。それが2012年のことでした。
岡 もっとも、最初は「G-Pネット」ではなく、「救急医療連携懇話会」という名称でした。その後に、京都府が本格的に身体救急と精神救急の連携システムを立ち上げて、我々の懇話会を吸収する形で、当院を主とした精神科病院と洛南(京都市南部)エリアの8つの一般病院が連携する「精神科救急医療連携強化事業」に広がった……という流れです。図らずも、我々の試みが京都府のシステムの「モデル」になった格好です。
「互いの苦手な面」を補い合えるメリット
Q.おうばく病院を核とした「G-Pネット」が立ち上がってから現在までに、大きく改善された点、生まれたメリットについて教えてください。
清水 立ち上げ前と比べると、互いに「顔が見える関係」になって、何かと相談しやすくなりましたね。たとえば、精神疾患から自殺未遂をして搬送されてきた患者さんについて、「ひととおり身体の治療が終わったので、あとはおうばく病院さんに転院して、精神的ケア中心にお願いします」と依頼したり、逆に、自殺未遂でも軽症の患者さんの場合、「この人はうちに入院するほどではないから、まずおうばく病院さんに入院してもらったほうがいい。自殺しないように監視することについて、我々はプロではないので……」と相談を持ちかけたりすることが、しやすくなりました。
岡 往診による協力も始めました。たとえば、飛び降りの自殺未遂で骨盤骨折などをしていて、患者さんをICU(集中治療室)から動かせないというケースの場合、私どもがそのICUに出向いて、精神症状の評価や治療の指示をします。
精神科と一般病院にはそれぞれ苦手分野と得意分野があるわけで、互いの得意な部分を引き受けて、苦手な部分は相手にまかせるという《補い合い》がスムースにできるようになった――それが最大のメリットでしょうね。
Q.「G-Pネット」による連携をより効率的にしていくために、話し合いの場のようなものは定期的に持たれているのですか?
岡 はい。4ヵ月に1度のペースで、各病院の医師たちが集って「症例検討会」を開いています。各病院が持ち回りで呈示する具体的な症例を通じて、連携システムをよりスムースにするために不足していることは何か、など意見を出し合っています。
清水 「G-Pネット」に関わってみた感想として、これがなぜ必要なのかを私なりに考えてみますと、「一般医と精神科医には、お互いの仕事でわからない部分が大きいから」ということが挙げられます。私ども一般医は、検査データに異常値や異常所見があればそれに応じて治療しますが、データ上は異常がないのに精神面で「苦しい」と患者さんに言われても、どうしていいのかわからないんです。どれくらい緊急度の高いケースなのかも判断できない。しかし、精神科医はまさにそうした患者さんへの対処を専門的にやってきたわけで、その知見を我々一般医が学ぶことは、大変勉強になるんです。ところが、従来の医療システムの中では、一般医が精神科医のやり方を学ぶ機会がほとんどありませんでした。
Q.なるほど、「G-Pネット」は、一般医と精神科医の間の垣根を壊して、互いに学び合うための仕組みでもあるのですね。
岡 それは、精神科医の側から見てもそうですね。一般科の先生方との交流の機会もほとんどなかったですし、「G-Pネット」を通じてそうした機会が得られることは、我々にとっても意義が大きいといえます。
清水 患者さんの家族環境までよく検討したうえでの治療の進め方というのは、我々一般医は苦手で、精神科医の方は得意とするところですよね。自殺未遂した精神疾患患者が救急搬送されてきた場合、身体症状が落ち着いた段階で家に帰らせてよいのか、帰らせるべきではないのかという判断は、精神科医でなければ難しい面があります。その判断について精神科医に相談できること、精神科医の判断を学べることの意味は大きいですよ。それまではどう対応していいかわからず精神科救急の患者さんは苦手でしたから。
他の「G-Pネット」とは違う長所は?
Q.おうばく病院の場合、精神科だけではなく内科も併設されていて、内科医のスタッフ体制も充実していますね。そのことが「G-Pネット」に与える強みというと?
清水 私どもの立場から見ると、精神科しかない病院に比べて連携しやすい、すなわち「敷居が低い」ですね。病院名は差し控えますが、精神科単科病院に対して、身体合併症を持つ精神科患者の受け入れを求めても、「ウチは精神科しかないので、無理です」と即座に断られることもありますから……。
岡 転院患者を受け入れる場合にも、「身体の治療を完全に終わらせてから連れてきてください」と頑なに言う精神科単科病院はあるでしょうね。その点、当院には内科もあるから、「ある程度までの身体治療が終わっていれば、あとはこっちでやりますよ」と受け入れやすい面があります。
「G-Pネット」は、一般の患者さんの目にはまったく触れないシステムです。しかし、医療関係者の間では、「G-Pネットを立ち上げてから、この地域の精神科受け入れ対応が改善された」という声はけっこうあります。その意味で、地域医療に貢献できている試みだと自負しています。
清水 近年、一般救急を訪れる精神科救急の患者数はうなぎのぼりで増えています。おそらく、すでに救急患者全体の2割程度は精神科救急でしょう。その意味で、我々の「G-Pネット」のニーズは今後ますます高まっていくでしょうね。
Q.昨今、全国各地で「G-Pネット」が立ち上げられていますね。その中にあって、おうばく病院を核とした「G-Pネット」の長所を挙げるとしたら?
岡 他地域の「G-Pネット」には、一対一、つまり精神科病院と一般病院が一つずつのものが多いですね。その中にあって、うちは8つの一般病院が加入していますから、まさに地域全体で取り組んでいるところが大きな強みだと思います。
Q.カウンセラーの「指名」ができるんですか?
片桐 ええ。お悩みの内容や希望される技法、カウンセラーの性別などを考慮して、初回ご予約の際にカウンセラーを指名してくださるケースも増えています。ホームページのプロフィール欄も是非ご活用いただければと思います。
(取材・原稿)前原政之
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