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特集/なんだか ややこしくなってきている、「うつ病」のいま(2015/06)
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京都府出身。大学卒業後、2年間の研修を経て、有馬病院、大阪府済生会吹田病院に勤務。1996年より宇治おうばく病院へ。「栄仁会」理事も務める。
「新型うつ」はうつ病ではない?
Q.いわゆる「新型うつ」について教えてください。
「新型うつ」は医学的な正式疾患名ではなくて従来型のうつ病とは性質の異なる、最近のうつ病の傾向についての言いかたです。たとえば、逃避型うつ病未熟型うつ病、現代型うつ病と言われるようなタイプです。
Q.従来型うつ病と新型うつ病は、どんな点が違うのですか?
まず、「病前性格」(その病気になりやすい元々の性格)が違いますね。従来型うつ病は、真面目で几帳面で、仕事熱心で責任感が強く、自責的(自分を責める)などが特徴で、そういうタイプがうつ病になりやすいという特徴があります。それに対して新型うつ病は、仕事に対する責任感が強くなく、自己愛が強くて他罰的、つまり「悪いのは自分じゃない。周囲が悪い、上司が悪い」と、何かにつけて人のせいにするタイプが目立つんです。
Q.まるで逆ですね。
ええ。それと年齢層も大きく違いますね。従来型うつ病は中高年が多いのに対して、新型うつ病は20代後半から30代前半の若い人が多いのです。
もう一つの違いとして、従来型は自分がうつ病だと認めたがらないのに対して、新型はむしろ自分から積極的にうつ病と認める傾向があります。
ただ、それは時代の変化による面も大きいと思いますね。昔は精神疾患全般に偏見が強かったので、自分がうつ病だと認めることに対する抵抗感も強かったですよね。でも、最近は「うつ病は誰でもかかるし、特別なものではないんだ」と思われるようになって、受診しやすくなったんですね。
Q.精神疾患の一般向け解説書には、「新型うつ病と呼ばれる症例は、うつ病ではない。たんなる甘えだ」などと書いてあるものもありますが……。
新型うつにはいま挙げたような病前性格の人が多いですし、若者が多いから「甘え」という見方がされやすいのでしょうね。でも、私は一概にそうは言えないと思います。「新型うつ」に分類される方の中には内因性のうつ病もあるし、うつ病とは言えない適応障害レベルの患者さんで、環境調整をすれば改善する方もいます。
Q.「適応障害」と診断されるケースは、うつ病ではないのですね?
はい。そもそも適応障害は、精神病とはカテゴリーが違います。自分の適応力の限界を超えた環境変化などが起きた場合に症状が出るのが適応障害です。
たとえば、転勤や人事異動で自分に合わない部署や勤務先に回されてしまった場合、その環境変化になんとか合わせようと頑張るわけですが、頑張れるキャパシティには限界があって、それを超えてしまうと抑うつ状態が引き起こされます。表面上はうつ病と同じ症状ですが、内因性のうつ病とは違います。大きな環境変化に遭ったり、強いストレスに長期間さらされたりすれば、誰もがなり得る状態なんです。
Q.一方、「内因性」というのは、脳機能に異常が見られるということですか?
はい。セロトニンやノルアドレナリンといった脳の神経伝達物質のバランスが崩れて起きるうつ病ということです。内因性のうつ病には、お薬と休養が大きな効果があります。逆に、心因性うつ病や適応障害の場合、脳には原因がないので、脳に働きかける治療をしても的外れで、軽いはずなのになかなか治らないということが起こりがちです。人間関係などの原因をそのままにしておいて薬と休養をとっても、あまり効果がないんです。それ以外の心理的な治療……人間関係や物の考え方に働きかける治療が必要になってきます。
うつ病の薬物治療最前線
Q.うつ病の薬物治療について教えてください。
一昔前までは、「三環系・四環系抗うつ薬」というものがメインに使われていました。これはよく効くのですが副作用が強いので、最近は副作用の軽いSSRI/SNRIがファースト・チョイスになっています。「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」と呼ばれる種類の薬ですね。また、もっと新しい治療薬としては「NaSSA」(ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬)があります。
Q.抗うつ薬というのは、ずっと飲み続けないといけないものなのですか?
それはケースバイケースですね。「寛解(症状が消えた状態)」と言いまして、うつ病になる前の状態に近づいていったら、徐々にお薬を減らしていくことができます。逆に、寛解に至らないで飲み続けるケースもあります。「うつは心の風邪」という言葉から一時的な病気というイメージを持たれている方も多いでしょうが、実際にはうつ病は慢性病で、完治は基本的にないんですね。寛解に至っても、つねに再発の危険性を孕んでいます。ですから、寛解しても再発予防のために少量の抗うつ薬をずっと飲み続けるケースもあります。とくに、再発を2回、3回とくり返すごとに再発リスクも高まりますから、薬を飲み続ける選択をする場合が多いですね。
Q.薬に対する依存性の心配はないのでしょうか?
抗うつ薬については心配ないです。ただ、抗うつ薬と併用されることも多い睡眠薬や抗不安薬については、依存性に気をつけないといけません。
Q.双極性障害の場合、うつ病とは使う薬が違うのですか?
薬も違いますし、治療方法も違ってきます。ですので、うつ病か双極性障害かの見極めは大切です。双極性障害でも、患者さんご本人がクリニックに来られるのはうつ状態のときが多いですから、うつ病との区別がつきにくいんですね。ご本人だけでなくご家族や周りの人からもこれまでの経過をくわしく聞いて、明らかに躁状態で問題が起きている時期があったら、双極性障害と診断します。最近多い「双極Ⅱ型」の場合、躁状態は目立たないので、うつ病との区別はさらに難しくなります。「誰が見ても異常な躁状態」というのがありませんから……。
その他のうつ治療について
Q.うつ病で入院治療をするのは、かなり重症のケースですか?
いえ、そうとは限りません、症状がそれほど重くなくても、仕事や家庭から離れて静かな環境でゆっくり休養するために入院するケースも多いんです。休養は、抗うつ薬とともにうつ病治療の基本ですから……。
仕事を休職して家で過ごしても、休息に徹することはなかなか難しいんですね。つい家事をしてしまったり仕事の引き継ぎのための電話がかかってきたりもするでしょう。小さいお子さんがいる場合は騒がしかったり、ご家族の行動が刺激になってしまうこともあります。それに対して、入院治療をすれば静かな環境で完全に休息できますから、治療効果が上がりやすいんですね。
Q.退院までの流れはどういう感じになりますか?
宇治おうばく病院の場合、うつ治療入院のクリニカル・パス(診療計画表)は、休息期・軽作業期・作業期・社会復帰期の4期に分かれています。最初は刺激を遮断して休息に徹して、症状が改善されてきたら、作業療法やグループカウンセリング、軽い運動などを行い、復職トレーニングにつなげていきます。
Q.休養と薬物療法以外の治療法には、どういうものがありますか?
外来の場合、心理教育、認知行動療法、対人関係療法などに、カウンセリングを通じて取り組んでいくことになります。
Q. 「認知行動療法」とは、どういうものですか?
先ほどの病前性格と関連しますが、うつ病になりやすい考え方というのがあります。すぐに自罰的になってしまったり、物事を悪い方に悪い方に考えてしまう過度の悲観に陥っていたり……。そういう「考え方のクセ」を修正していく心理療法ですね。
当クリニックの場合、専門のカウンセラーが認知行動療法を行います。ひととおり終わると、患者さんの考え方・物事の見方がかなり変わってきますね。そうすると、その後にうつ病が再発しかかっても、認知行動療法で習い覚えた考え方を思い出して、再発させずに済みます。
Q.最後に、「栄仁会・京都駅前メンタルクリニック」の特長について教えてください。
当クリニックは京都駅から徒歩3分という好立地なので、アクセスしやすいのが強みです。それと、復職トレーニング専門のデイケア施設(バックアップセンター・きょうと)を併設していますので、うつ病を持ちながら復職を目指す方には利用しやすいと思います。お薬を処方するだけではなく、同じ施設でカウンセリングも受けられるし、リワーク(復職)のトレーニングも受けられますから。
メンタルクリニックにリワークの施設が併設されている例は、全国的にもまだ少ないですね。京都市内では当クリニックともう一つあるだけです。
(取材・原稿)前原政之
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