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特集/認知症ケアの現場から(2021/02)
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入居者を「家族」と捉える
栄仁会には、認知症ケアに携わる外部事業所が多数あります。その中から、今回は地域密着型事業を担う三つの施設を紹介します。グループホームやデイサービス、そして小規模多機能型居宅介護。それぞれの特徴を浮き彫りにするとともに、三施設に共通する「きめ細かいケア」に光を当ててみましょう。
Q.最初に、「グループホームおおわだの郷」を取り上げます。
和田 おおわだの郷は認知症高齢者のグループホームで9人が1つのグループで生活されており、それが2グループあり、計18人の方が入居されています。この点はあとに登場する「やまぶきの郷」も同様です。デイサービスも併設しています。
入居されている方の認知症の状態はでさまざまで、軽度の方は「認知症」言われなければ認知症だとはわからないくらいの方もおられます。施設が開設したのは2004年で、もう16年経ちますが、当初からずっと入居されている方もいます。
Q.おおわだの郷では入居者を「ファミリーさん」と呼ぶそうですが、たしかにそれだけ長い間共同生活をしていれば、もう家族のようなものでしょうね。
和田 そうですね。家庭的な雰囲気は大切にしています。ファミリーさんのご家族がよく言われることは、「手厚く介護されているようで、いつ訪問しても笑顔でいる。それがすごくうれしい」ということなのです。認知症が進行して認知機能が衰えても、感情は最後まで残りますから、楽しいときには笑顔になります。ファミリーさんが「いい笑顔」をされているときには、スタッフが写真を撮って家族さんに送ったりします。
Q.印象に残っているファミリーさんを挙げてください。
和田 あるファミリーさんが「甲子園に阪神戦を観に行きたい」と言われたんです。リスクもありましたが、みなで話し合って私が付添いで行くことにしました。その方はいまでもそのときのことを懐かしそうに、楽しそうに語られます。「あのとき、(阪神の)関本がホームラン打ったんやなあ」とか(笑)。13年経たれてもその日のことはいまも鮮明に覚えておられるのです。「あの日、甲子園に行ってよかった」としみじみ思います。
Q.「看取り」について伺います。看取りはやらないというグループホームも多いそうですが、おおわだの郷とやまぶきの郷では行っていますね。
和田 はい。私は「介護福祉士会」という専門職団体に所属し理事をしており、他のグループホームのスタッフと話をする機会がありますが、「看取りをするだけの体制がうちはできていない」とか、「主治医が看取りに協力してくれない」というケースが多いようです。その点、うちの施設は主治医の先生も非常に協力的ですし、常駐スタッフに看護師もいるので、看取りができる体制になっているのです。やまぶきの郷も同じです。
Q.他のグループホームで看取りが行えない場合、どうなるんですか?
和田 最期はほとんどが病院で迎えることになります。自宅に連れて帰るケースはまれです。それまで暮らしていたホームから離れて慣れない病院に移るわけですからご本人は心理的に落ち着かないだろうと思います。
Q.おおわだの郷のデイサービス部門の強みは、どういう点にありますか?
和田 ほかの認知症デイサービス施設では、「症状が重すぎる」とか、「スタッフが対応できるケースでない」などという理由で利用を断られるケースがけっこうあるのです。でも、うちの場合はほとんど断りません。
Q.どうして、他の施設で受け入れ不可な人を受け入れられるのでしょう?
和田 開設当初からずっと、「対応が難しい方でも、できる限り受け入れていこう」という方針だからです。だからスタッフの側にも、「対応が難しい人」を受け入れることに抵抗がないのです。また、スタッフ一人ひとりが「少しでも長い時間をおおわだの郷でなんとか過ごしてもらおう」という意識を常に持っているからだと思います。
小規模多機能型ならではの利点
Q.次に、「小規模多機能型やまぶきの郷」についてです。
野村 やまぶきの郷は建物の一階がグループホームで、二階で「小規模多機能型居宅介護」を行っています。私はそのうちの小規模多機能型を担当しています。
小規模多機能型というのは、通所・宿泊・訪問介護の三つを兼ね備えたサービスのことです。同一事業者が三つの機能を持つことから、「多機能型」と呼ばれます。
Q.その機能を、たとえばどのように利用するのでしょう?
野村 いつもデイサービス(通所)で利用されている認知症の方が、「ちょっと体調が悪くなったので、今日は泊まりたい」と言われたり、ご家族から「急用ができたので、今日は宿泊にしてほしい」と要請されたり、そういう形で宿泊を利用されるケースが多いですね。
とくに一人暮らしの方は、体調が悪くなったときには自宅に帰るよりも医療面・看護面や介護面において安心して頂けると思います。
また、ご家族が働きながら家で認知症の方を介護されるケースでは、時間のしばりがない多機能型を柔軟に利用することで、仕事がやりやすくなるという利点があります。
Q.野村さんは、一般病院の看護師を経験されてから「やまぶきの郷」に来られたそうですね。一般病院と比べてのやりがいはどういう点にありますか?
野村 一般病院での看護では医療ケアが中心で、患者さんの思いを傾聴する時間をなかなか持てませんでした。こちらに来てからは、利用者さんの健康管理や生活を看護の観点からサポートし、医療との連携をはかる役割が多くなりました。
利用者さんやご家族の思いにしっかりと寄り添いながら在宅生活を問題なく維持していただけるよう支援するという、濃密な関わりにやりがいを感じます。利用者さんから「ありがとう」と言っていただくことも多く、その点もやりがいにつながっています。
Q.その「濃密な関わり」には、栄仁会ならではという面もあるのでは?
野村 栄仁会には内科・精神科などの診療科があり、必要に応じてスムーズに連携できるので、私達にとっても利用者さんにとってもありがたい存在です。他のデイサービスに利用者さんが通いたがらず「通所拒否」に至るケースも結構あるんです。でも、やまぶきの郷ではスタッフが親身に関わり、短時間の利用からサービスを提供することによって、心を開いて下さるケースが多いように思います。
利用者さんのご家族から、「他の施設に通っていた時には嫌がっていたのに、こちらに変えてからは喜んで通えるようになりました」という声もよく聞きます。一般的に難しいとされるケースであっても、栄仁会のさまざまな機能を活かして、利用者さんに必要なサービスを提供しています。
楽しみながら心身に働きかけるデイサービス
Q.最後に、認知症対応型通所介護を行っている「デイサービスでんでんむし」です。変わった施設名ですが、何か由来が?
檜皮 開設当時の責任者が、童謡の「かたつむり」の歌詞からつけました。「角だせ、槍だせ、頭だせ」という歌詞がありますよね。認知症の方は自宅にこもりきりになってしまうケースもあるので、でんでんむしに「角出せ槍出せ、頭出せ」と呼びかけるように、「もっとどんどん家の外に出て、楽しみませんか?」という思いで接していこうと、そんな意味合いを込めてつけたようです。
施設名に込めたその思いのとおり、うちは他のデイサービスに比べて、外に出ての運動機会をしっかり確保している点が大きな特長です。歩くことは全身運動になりますし、段差や曲がり角、車の行き来などに注意して歩いたりすること自体が、脳への刺激になります。運動能力と認知機能を保つためのよい訓練になるのです。
そういうことができるのは、一般のデイサービスに比べてスタッフが多いからでもあります。利用者の定員20名に対して、スタッフは最低でも8名程度は常駐しています。これはかなり手厚い体制で、その分だけ一人ひとりにゆったりと関わることができます。
Q.それ以外に、施設のアピールポイントを挙げるとすれば?
檜皮 季節行事を大切にしていることが挙げられます。餅つき、水無月(京都の和菓子)づくり、初詣など、季節ごとにいろんな行事を行っています。季節行事はよその施設にもあるでしょうが、うちはかなり力を入れているという自負があります。たとえば、臼と杵を使った餅つきは、他の施設さんではあまりやっていないと思います。
Q.本格的な餅つきなのですね。
檜皮 はい。ですから、新しく入ってきた職員は「初めて餅つきをする」というケースが多いんです。利用者さんのほうが毎年餅つきを経験しているので、むしろ職員がやり方を教えてもらったりしています(笑)。
認知症が進むと季節に対する感覚も薄れてしまい、たとえば真夏でも厚着をしていたりする人がよくいます。季節行事を行うことで、利用者さんにしっかりと季節を感じてもらいたいという思いもあります。
あとは、利用者さんに農家の方が多いこともあって、市民農園を借りて農作業をすることも、プログラムとして取り入れています。季節の野菜を作ったりもするのでそれも広い意味では季節行事の一端と言えるかもしれません。
Q.農家の方の場合、農作業自体がレクリエーションにもなるのですね。
檜皮 ええ。スタッフに対して自分が農作業のやり方を教える立場になること自体、うれしいのではないかと思います。そのことは認知機能を保つためにも役立っているはずです。「自分の役割を持ってもらう」ことが、認知機能維持のためには大切なので……。
Q.デイサービスの大まかな流れを教えてください。
檜皮 朝10時には、スタッフの送迎で利用者のみなさんが集まってきます。午前中は入浴サービスと、室内でのプログラムを並行して行います。そのあとは、昼食前に「口腔体操」をします。高齢になると嚥下機能が衰えるからです。
昼食後は休憩をしたあとに、午後のプログラムです。農園に行ったり、女性は室内で手芸をしたり、男性は木工作業をしたり……。そして、午後4時で終わってご自宅にお送りします。
Q.楽しそうですね。
檜皮 楽しくできることを重視しています。以前、亡くなる少し前までデイサービスに来られていた方がいました。その頃には体調もあまりよくなかったのですが、それでも「デイサービスに行きたい」と言われたそうです。
あとからそのことを伺って、「ああ、そんなに楽しみにしてくれていたんだ」とうれしかったですね。
お話を伺って、三施設ともきめ細かいケアとアットホームな楽しさが大きな共通項だと感じました。本日はどうもありがとうございました。
(取材・原稿)前原政之
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