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特集/「精神科救急」最前線!(2023/02)
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最新の治療も積極的に導入
宇治おうばく病院は、 京都で最も精神科救急の入院受け入れ実績が豊富な医療機関です。
それは精神科医療の質の高さの反映でもあるでしょう。
当院の精神科救急医療は、 どんな特色を持っているのか?
医師・看護師・精神保健福祉士という異なる立場で携わる3人の話から、浮き彫りにしてみましょう。
おうばく病院は、精神科救急の入院受け入れが大変多いそうですね。
大月 はい。ひと月に平均八〇~九〇人くらいは受け入れていますから。京都の他の病院では、スタッフ体制の面からも、病床数からも、そこまでの受け入れは難しいと思います。
当院には二つの精神科救急病棟と、一つの精神科急性期治療病棟があります。救急病棟は「スーパー救急病棟」と呼ばれるもので、それぞれ五三床、四九床あります。また、もう一つの急性期治療病棟は六〇床あります。
Q.「スーパー救急病棟」と「急性期治療病棟」の違いとは?
黒木 どちらも精神科の救急病棟です。ただ、新規入院の方の割合などによって区別されています。
大月 「スーパー救急病棟」に区分されるには、人員配置・設備・医療水準に厳しい基準があるんです。当院はそれを二病棟持っています。
Q.関連した話題ですが、「スーパー救急病棟」の要件の一つに「クロザリル」導入が新たに加えられることになったとか。
大月 ええ。「クロザリル」は難治性の統合失調症に大きな効果がある薬ですが、白血球減少という副作用が起きることがあって、使い方が難しい面があります。そのため、処方できる病院や医師が限られていて、当院もその一つなのです。当院でクロザリルを処方した患者さんは、現時点までで四二人いらっしゃいます。治療実績が豊富な病院の一つであるとは言えるでしょう。
Q.そのことも精神科救急としての質の高さの表れである、と……。
黒木 そう言ってもいいと思います。クロザリルを処方する資格を持つスタッフも多いですし。
Q.そういえば、おうばく病院はスタッフが自発的に行う勉強会も充実しているそうですね。
大月 そうですね。たとえば、年一回「おうばくカンファレンス」という研究発表大会のようなものがあります。総じてスタッフが勉強熱心な面はあると思います。
Q.「m-ECT」(修正型電気けいれん療法)という治療法にも取り組んでおられるそうですね。
大月 はい。m-ECTとは、電気的刺激によって脳に全般性の発作活動を誘発し、これによる生物学的効果を通して臨床症状の改善を得ようとする治療方法です。うつ病や躁うつ病、統合失調症などに適応があり、精神科救急においてはかなり有意義な治療法の一つです。脳に電気を通すということで怖いイメージを持たれるかもしれませんが、全身麻酔下行う安全性の確立された手法です。ただ、麻酔設備とスタッフが必要なので、どこでも行なえる治療ではありません。
Q.それをいち早く取り入れているわけですね。
大月 はい。当院では四年ほど前から導入しまして、実施例も十数件ほどになっています。クロザリルも「m-ECT」も、精神科救急に必須とまでは言いませんが、導入することで治療の選択肢が多くなるわけです。それをいち早く導入したという点も、当院が精神科救急に熱心に取り組んでいる姿勢のあらわれと言えると思います。
精神科救急ならではのやりがい
Q.皆さんが感じていらっしゃる、「精神科救急ならではのやりがい」とはどのようなことでしょうか?
大月 私にとっては、患者さんとの関わりの濃密さですね。精神科救急の入院は平均五〇日間、長くても三ヶ月です。その間、コメディカル(医師以外の医療スタッフ)と力を合わせて密接に治療に関わりますし、退院後も外来で同じ患者さんを診ることが多いですから、その患者さんのいちばん大変なときから、回復されて元気になった後まで、全部見届けることができます。それは精神科救急を担当する医師としての醍醐味だと感じています。
黒木 精神科救急に入院されるときというのは、患者さんにとっていちばんつらい時期である場合が多いと思うんです。人間はつらかったときのことはずっと鮮明に覚えているものですから、そのときいちばん間近に接するスタッフである私たち看護師が、悪い印象を与えないようにしないといけません。ですから、いかに患者さんに寄り添って良好な関係を保つかということは、常に強く意識していますね。そこにやりがいもあります。
Q.田之口さんはPSW(精神保健福祉士)として、入院相談や退院支援に携わるお立場ですね。
田之口 医療機関の中で働く福祉職の立場として、患者さんの生活環境に目を向けることを意識しています。私は救急病棟担当になってからまだ三年くらいですが、先ほどもお話があったように入院期間が短いので、入院初期から退院後の生活に対する不安ごとをご本人ご家族からお伺いするようにしています。お住まいの地域の支援機関と連携をとったりして、より安心な生活ができるようにと、あれこれ思案して関わります。
地域の支援者の方から、退院された方について「○○さん、元気にやってるよ」と近況を教えてもらったり、外来に通院で来られた患者さんとバッタリ会って「いまはデイケアに頑張って通ってるよ」ということを聞いたりすると、「ああ、よかったなあ」と我がことのようにうれしくなります。それがいちばんのやりがいでしょうか。
患者さんに寄り添う姿勢を貫く
Q.おうばく病院では、「身体拘束」の最小化を目指すなど、患者さんの人権を重視する取り組みにも熱心に取り組んでおられるようですね。
大月 ええ。精神科では患者さんの精神状態の悪化に応じて、隔離や身体拘束が行われることがあります。とくに身体拘束となると、患者さんの人権を著しく制限するわけですから、やらないに越したことはありません。私どもとしても、なるべくやりたくないのです。ただ、とくに救急には興奮状態の患者さんも多いですし、拘束しないと患者さんの安全が確保できない場面も多くて、ゼ口にすることは難しい。
黒木 それでも、私たち看護師が主導して身体拘束最小化を目指す取り組みを続けて、少し前に全病棟で拘束ゼ口を達成した日があったんです。それも一日ではなく、数日にわたって……。当院くらい大規模な精神科病院としては、かなりすごいことやと思います。チーム医療で頑張った結果です。
Q.そのことも象徴的ですが、おうばく病院は精神科救急においても、患者さんに寄り添う姿勢が顕著に感じられます。たとえば、その姿勢があらわれた仕組みとして、「ホッと入院」や「急性期ファミリーグループ」というものがあるそうですね。
大月 はい。二つとも、精神科救急のプログラムの一つとして、一〇年くらい前からずっと続けてきたものですね。「ホッと入院」は精神科救急で入院してきた患者さん向けのもので、五週間を1クールとして、ご自分の病気について学んでもらおうというものです。一週目は医師、二週目は薬剤師とか、週ごとに講師役が変わって、マンツーマンでいろんなことを学んでもらいます。たとえば薬剤師からは、服用している薬がどのようなものなのかを詳しくレクチャーします。
田之口 最後の週には、退院後の生活全般について、どういう福祉制度が利用できるのかなどということを、詳しくレクチャーします。
大月 精神科救急に入院中に、自分の病気について学ぶ機会というのは、じつはあまりないものです。ネットで検索しても正しい情報が得られるとは限りませんしね。そこで、当院として正しい情報を提供し、病気を「自分ごと」して捉えてもらうと同時に、安心してもらうことが目的です。だからこそ「ホッと入院」なんです。
Q.「急性期ファミリーグループ」は、その名のとおり患者さんのご家族向けですね?
大月 ええ。月一回で二回ワンセットの家族向けの勉強会です。統合失調症で救急入院された患者さんのご家族に声をかけて参加してもらっています。病気や薬や支援制度について、それにご家族としてどう対応すればよいかといったことを学んでもらいます。単なる勉強会というより、本音で語れる場としての意味合いも強いですね。語る中でこれまでの大変さなどを吐露されるご家族も多くて、それも大切なことだと考えています。コロナ禍以降はZOOMを使ったオンライン開催になっていますが、ずっと続けています。オンラインだから、遠方に住むご家族も参加しやすくなったという新たなメリットも生まれました。コロナ禍も、けっして悪いことばかりではないのです。
田之口 ご家族の支えが患者さんの退院後の生活に良い影響を与えることもあるので、「急性期ファミリーグループ」はご家族の疾患理解や支援力を高めるための会でもあります。
大月 そうなんですよ。家族の支援力が高まれば、その分だけ統合失調症の再発率も低くなるんです。そのことは研究データからも明らかになっています。
Q.患者に寄り添う姿勢のあらわれとして、もう一つ、「急性期高齢者パス」というものを開発されたそうですが、これはどういうものですか?
黒木 「パス」というのは「クリニカル・パス」―――治療や看護の計画書のことですね。従来、高齢者向けの特別なクリニカル・パスはなかったのですが、それを多職種で検討し、当院オリジナルの内容で形にしました。
大月 その背景には、精神科救急の入院患者が高齢化しきたことがあります。私が当院に来た一二年前と比べると、救急病棟への入院患者の高齢化は明らかです。
黒木 そういう背景があって、高齢者に合わせたパスを作る必要に迫られたわけです。たとえば、入院して身体を動かす機会が減ると、高齢者は一気にADL(日常生活動作)が低下して、退院後の生活に支障をきたすケースが多いのです。それを防ぐ方策とか、高齢者ならではの対応が盛り込まれています。一年がかりでスタッフ間の話し合いを進めて、「急性期高齢者パス」がようやく完成して、今年の四月から導入しました。
「おうばく病院らしさ」が、精神科救急において一貫して発揮されていることがよくわかりました。ありがとうございました。
(取材・原稿)前原政之
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