おうばく通信
おうばく心理室コラム
2013年2月 5日 (火)
【おうばく心理室コラム/2013年2月】占いの功罪
世の中、いろんな占いにあふれています。
雑誌を開けば、金銭運だとか恋愛運だとかの項目ごとに今月のラッキーアイテムなんかが紹介されていますし、書店に行けば、幸せになるための占星術! みたいな本がズラリと幅を利かせています。詳しく知りませんが、「赤いマフラーを身につけていると素敵な出会いがあります!」みたいなことが書かれているのでしょう。
私自身、占いに対して懐疑的な考えかたを持っていますが、それを差し引いても占いにはデメリットが大きいと言わざるを得ません。そこで今回は、占いの功罪について、心理学の側面から考察してみたいと思います。
…とまァ、のっけから占い反対派口調で書き始めてしまいましたが、占いについては、百害あって一利無しだと思っているわけではありません。メリットの側面ももちろんあって、その最たるものは、「直面している問題に対して自己決定が下せないときに、占いの後押しによって何らかの行動がとれるようになる」ことだと考えています。
たとえば、大切な友人と大ゲンカをして険悪な雰囲気になってしまい、どうしたらいいか分からず途方に暮れているとします。そのまま何もしなければどんどん関係が疎遠になってしまう可能性が高くなりますが、そこで占いの本に「茶色い靴下をはいて自分から行動すれば人間関係がよくなります!」などと書いてあるのを見て行動すれば、少なくとも何もしないよりは状況が好転する可能性が高くなるというわけです。
ただ、こういった占いにあまりにも頼りすぎるのは要注意です。というのも、占いの性格上、当人がどのような決定をしてどのような結果になろうとも、その責任が「占い」という外的要因に帰されてしまうからです。2011年11月の拙コラムにも書きましたが、私たちの心の健康にとって、自分が何かすれば結果につながるんだ! という感覚(=自己効力感)は非常に大切なものであり、自分では何もコントロールできず周囲に何の影響も及ぼせなくなくなったとき、私たちは無力感から不幸に陥りやすいのです。
また、問題解決を運に委ねる占いは、同様のことが何度繰り返されても一か八かのギャンブルにとどまりますが、問題を解決するための行動を自分で決める自己決定能力は、場数を踏むにつれて向上していきます。そうして「問題を自力で解決できた」という経験の積み重ねが自信となり、ひいてはアイデンティティの形成につながっていくのです。
このような視点は、心理学の世界では「ローカス・オブ・コントロール」(統制の位置)と言われており、自分の行動にともなう結果が自力でコントロールできると感じる人は「内的統制」者、自力でコントロールできず外的要因によってコントロールされていると感じる人は「外的統制」者と呼ばれます。
たとえば、幸せになれないのが自分の失敗のせいだと考える人は内的統制者で、逆にそれが運の悪さや祖先のたたりのせいだと考える人は外的統制者です。自分の行動の結果が占いによって決定されると考える人も紛うことなく外的統制者です。そして、内的統制者にくらべて、外的統制者はストレスに対する耐性が弱いと報告されているのです。
もちろん、何でもかんでも自分のせいだと考えるのがいいわけではありません。事実、認知療法の中でうつ病になりやすい非適応的な認知パターンとして挙げられる「個人化」は、本来自分に関係のないネガティブな出来事まで自分のせいにして考えてしまう傾向を指しています。たとえば、親が病気になったのは自分のせいだと考えて己を責める、などがこれに該当します。
しかし一方で、本来自分に関係のある出来事まで自分には無関係な外的要因のせいにして考えてしまう傾向も、同じく非適応的です。たとえば冒頭に挙げた、大切な友人と大ゲンカをして険悪な雰囲気になってしまった例であれば、それに対する行動の根拠が自己決定か占いかという問題とはまた別の話として、大ゲンカになった原因が自分にあると考えるか自分以外にあると考えるかという問題が出てきます。その際、「すべて相手のせいだ」的な考え方は他罰的だとして非難されがちですが、場合によっては「祖先への供養が足りないからだ」とか「教団へのお布施が少ないからだ」といった外的統制にすり替えられてしまうこともあります。
私たちはともすると、外的統制の側によろめきがちです。なんとなれば、自分の行動を自分で決めないほうが楽だから。自分の行動に自分で責任を持たないほうが楽だから。…こんな回避の心理と親和性が高いのが占いであり、こんな心の弱さを巧みに衝いたのが、信者に高額のお布施を要求したり高価な壺を購入させたりする一部の新興宗教だと言えるでしょう。
「この壷を買わないとアナタ、ますます不幸になるわよ」
こんな脅しに乗らないためにも、自分の行動は自分で決める、自分の行動には自分で責任を持つという内的統制の意識を日頃から大切にしていただければと思います。お酒やギャンブルと同じく、占いもほどほどに楽しむ程度にとどめておかれるほうがいいかもしれません。
※補足:
血液型占いも外的統制の典型例ですので念のため。A型の人は免疫力が低いから自分の身を守るため神経質なのだ、などといったまことしやかな「科学的論拠」も流布しているようですが、いずれも疫学的エビデンスのない似非科学です。
ABO型は血液を分類する方法のひとつに過ぎず、それ以外にもRh式血液型(40種類以上あるがプラスとマイナスに大別される)、HLA型分類(白血球中の抗原タイプによる分類。数千種類ある)などが知られています。それなのに「ABO型」だけで血液型を分類するのはあまりに乱暴と言えるでしょう。また、骨髄移植をおこなうと血液型が変化する場合がありますが(ドナー由来の血液型になる)、その結果すっかり性格が変わってしまったなどというエピソードは聞いたことがありません。ただし、「自分はO型だからおっとりしているんだ」等ずっと信じていると本当にそうなっていく自己暗示の効果は多少あるかもしれませんが…。
文責:臨床心理士・名倉