おうばく通信
BUCきょうと機関誌『ばっくる』連載エッセイ
2022年3月 1日 (火)
月刊きょうと/「下手のバイオリン好き」(2022年3月)
今月はMoriartyさんに素敵な素敵な趣味についておはなしいただきました。
「下手の横好き」という諺がある。ご存知の通り下手なくせしてその物事を好むことを言う諺である。周りの人から見れば、何を好き好んで、と思われることでも、どうしようもなく好きでやめるにやめられない、というものが皆さんにも何か一つくらいあるのではなかろうか。私にとってのそれはバイオリンである。
「実はバイオリンなどやっておりまして…。」と言うと、「すごいですね!」とよく言われるが、それは物珍しさからの、または無難な反応をしただけの「すごいですね!」だろう。しかし時折、「綺麗な音がするし、お金持ちの楽器っぽいからすごい。」と理由を語ってくれる人もいる。そんな風に考えていた時期が私にもありました…。
世の中には、ストラディバリウスやガルネリといった何億円もするバイオリンが存在する。テレビなどではそんな楽器ばかりが取り上げられているから、知らない人がバイオリンはお金持ちの楽器というイメージを持っているのも頷ける。
しかし、実際には私のように趣味程度でバイオリンをしている人もいるのだから、存外お手軽な価格帯の楽器も存在する。それこそネット検索でもしようものなら一万円などというバイオリンさえもみつかるのである!だからこそ、つましい小遣いを遣り繰りしている私でも何とか入手することができたのだ。
最初に購入した楽器は、弓、ケース付きで三万円だった。本格的にバイオリンを習っている人には「そんなもの楽器とは呼べない。」と鼻で嗤われるような代物であったが、私には十分な楽器だったし、憧れのバイオリンが手元にあると思うだけで嬉しかったものだ。
しかし、楽器を手にしても初心者には音階すらまともに弾けないのがバイオリンなのである。某「ドラ○もん」の中で、しず○ちゃんが弾くバイオリンがジャ○アンの歌と同レベルの破壊力を持って描写されているが、あれは決して誇張ではない。初心者の弾くバイオリンの音色は、間違いなくジャイ○ン・リサイタル並みの破壊力を持っている!しかも、恐ろしいことに多くの場合、弾いている本人にその自覚はない!
私の場合、独学なので余計に酷く、バイオリンを始めてから数年経つというのに未だに人に聞かせられるレベルではない。だから家で練習するときは、近所迷惑にならないよう窓という窓、カーテンというカーテンを閉めて外に音が漏れないようにしている。勿論、家の中にいる細君からは不況を買っているのだが…。
そうとは知りつつも、やはりやめられない。バイオリンを弾いているときは職場での嫌な出来事も忘れていられるし、弾き終わった後には達成感がある。また、極々稀ではあるが、音がバシッとハマることがあり、その瞬間の快感は何とも表現し難い!その快感を再び味わいたくて、私は日々楽器を手にするのだ。
自分でも「いい歳をして」と思うし、「一向に上達しないのに」とも思う。しかし、アラフィフだろうが下手だろうが、そんなことは関係ない。他人から見れば馬鹿げたことかもしれないが、そこまで好きになれるものに出会えたことは何物にも代え難い幸福ではなかろうか。好きなものに夢中になっている瞬間は、その人にとって間違いなく最高に幸せな瞬間なのだから。
今後もバイオリンをやめることはないだろう。そして、いつか自分の好きな曲を弾けるようになれることを夢見て、下手くそなバイオリンを弾き続けるのだ。
…流石に近所から苦情が来たらやめるかもしれないが…。