おうばく通信
おうばく心理室コラム
2020年10月 5日 (月)
【おうばく心理室コラム/2020年10月】ノーベル賞を受賞された本庶佑先生の著書
ノーベル賞を受賞された本庶佑先生の著書『幸福感に関する生物学的随想』を読みました。
私自身が高校生の頃に本庶先生の書かれた一般向けの科学入門書を興味深く読んだことと、あと先生が私の知人の知人という関係(我ながら遠い関係ですが。笑)から勝手に親近感を抱いており、新刊を手に取ってみたという次第です。
のっけから話は逸れますが、「有名人と知り合い」であることを自慢するのは最高に恥ずかしい行為のひとつだと個人的に思っています。というのも、それは自分の努力にもとづく実績ではなく「虎の威を借りるキツネ」に過ぎないわけですし、加えて、有名人には知り合いが多いのは至極当たり前のことだからです。知り合いが多いからこそ有名人であるとも言えるでしょう。
私自身、吹けば飛ぶような一介の心理士に過ぎませんが、出版社に勤める友人のつてで、敬愛するとある有名な作家さんと酒席をご一緒させていただいたことがあります。内心では「やったー、自分も有名人と知り合いだ~!」という気持ちも無くはないのですが(笑)、その作家の先生は有名人であるだけに、出版界やマスコミ界、芸能界などさまざまな分野でつながりを持っておられるはずで、その先生の知人となればおそらく何千人、いや何万人にのぼるかもしれません。ということは、その作家さんにとって私は、その「何千人だか何万人だかの中の1人」に過ぎないわけで、だからどうしたという話になるのは自明なのです。
自分の努力で手に入れたものしか欲しがらないこと。これはエーリッヒ・フロムが成熟した人格のひとつとして挙げている事柄でもありますし、常日頃から心がけたいことのひとつです。
すっかり脱線してしまったので、閑話休題として。
『幸福感に関する生物学的随想』に次のような記述がありました。
なんでもフランスの思想家ルソーは、当時とても貴重だった砂糖をできるだけ長く楽しむために、まず薄い砂糖水からスタートして次第に濃くしていき、これ以上濃くできなくなったところで一旦砂糖を断って、しばらく経ったら再び薄い濃度からスタートしてまた少しずつ濃くしていくことによって、甘味を最も長く味わうことができた!! と述べているんだとかで。
このエピソードは著書の中では、感覚受容体における快楽順応の性質を説明する例として紹介されているわけですが、私はこれを読んで、賢人と言われる人たちも意外と自分と同じようなことをやっていたんだなーと、急に親しみ身を感じてうれしくなったのでした。
「ビール→ワイン→焼酎→ビール→日本酒→焼酎」とか、「冷奴→煮びたし→ハンバーグ→冷奴→玉子焼き→ハンバーグ」とか、よくやってますからねえ。
幸福とはなにか? 考えれば考えるほど深遠なテーマですが、意外とこんな身近なところにもヒントがあるのかもしれません。
文責:臨床心理士・名倉