おうばく通信
おうばく心理室コラム
2020年7月 5日 (日)
【おうばく心理室コラム/2020年7月】「新型ウイルス禍から得たもの」
ここのところ、本コラムも新型ウイルスの話題ばかり続いてしまっていますが、今回は「新型ウイルス禍から得るもの」というプラスの側面に目を向けてみたいと思います。
ほとんどの事柄にはプラス面とマイナス面、両方があると思っています。今回の新型ウイルスを含めて病気などはマイナス面が圧倒的に多いわけですが、わずかかもしれませんがプラス面もあるはずです。なかには「経済活動の停止によって、動物たちにとって住みよい自然環境が戻ってきている」といった報告もあって、これはこれで地球規模においては大いにプラス面と言えますが、本稿ではこういった付随的なメリットではなく、私たち人類としてのプラス面について考えてみたいと思います。
すぐに変えられない状況に対しては、マイナス面ばかりではなく、プラス面にも意識して目を向けることが大切であるというのは、認知療法をはじめとして精神療法で広く言われている通りです。
このように考えてまず頭に浮かぶのは、「問題や障害は人を賢くさせる」という指摘です。
本コラムでも以前に書きましたが、たとえば障害を持った人がいる場合、周りの人たちはその人をどうサポートすればいいかに知恵をしぼる結果、賢くなって、それ以外の事柄にも創意工夫を働かせやすくなると言われます。
これと同様、今回の新型ウイルスについても、いろんな人がさまざまな知恵を出し合っています。その一部はメディアで紹介されていますが、まだ知られていない知恵もきっとたくさんあることでしょう。
もちろん、知恵にもさまざまなレベルがあると思います。抗ウイルス薬やワクチンの開発技術などはトップクラスの専門家でなければ手も足も出せない領域でしょう。一方、個々人が意識できることや日々の過ごし方など、誰もが知恵を出し合える身近な領域もあるはずです。
個人的にまず感じているのは、今回の新型ウイルス禍で、多くの人たちが今までとは比較にならないくらいに、感染防止の意識とそのスキルをしっかりと身につけたことです。
これまでもインフルエンザが流行する度に、マスクや手洗いをはじめとした注意喚起がなされてきましたが、実際のところ、私たち市民の多くはそれほど真剣に意識していなかったように感じています。それが今回の新型ウイルス禍によって、ほとんどの人がマスク着用や正しい手洗いの仕方を励行するようになり、結果としてインフルエンザの流行も抑えられていると言われています。
そもそも今回の新型ウイルスの流行は、識者の間でもある意味「想定外」だったようです。というのも、次にパンデミックを起こすのは、(新型コロナウイルスよりもさらに毒性・致死性が高い)「新型インフルエンザ」であろうと予測されていたからです。
だからこそ、抗インフルエンザ薬は国家レベルで比較的多く備蓄されており、流行時の対応もある程度マニュアル化されていた一方、今回のコロナウイルスのように毒性・致死性が幅広い疾病の流行は想定されておらず、結果として対応の遅れを招いた側面もあるようです。
これは逆に言えば、今回の新型コロナウイルスを克服したとしても、近い将来、さらに深刻な新型インフルエンザの流行が起きる可能性を示唆しています。その事態がいざ起こったとき、今回の新型コロナウイルス禍を乗り越えた私たちの知恵が実力を発揮して、新型インフルエンザの広がりと被害を最小限に抑えてくれることを期待しています。
また今後、コミュニケーションのありかたにも変化が出てくると思われます。
たとえば今回、オンライン会議が広く浸透することになりました。こういったアプリケーションを使った経験のない人々が、必要に迫られてオンライン会議を利用することになった結果、その利便性をはじめて認識して「食わず嫌い」が解消されたケースもきっと多いのではないでしょうか。
私自身もそうで、オンライン会議の使いかたを知ったついでに、東京在住の旧友と「オンライン会議(飲み会)」をしてみたところ、意外と楽しくやりとりできました。今までは数年に一度会う程度だったのが、ここ数ヶ月に2回ほどオンラインで話しており、むしろ距離が近くなった感さえあります(笑)。
もちろん、実際に会って話すのと、パソコンのモニタ越しに話すのとでは質的な違いはありますし、できることなら実際に会って話すほうが良いのですが、コミュニケーションに新たな選択肢が加わったことはプラスだと思っています。
今回の新型ウイルス禍から学んだこと、得たことは他にもいろいろとあることでしょう。少しでも早い終息を願うと同時に、プラスの面にも目を向けて、学んだこと、得たことを大切にしていきたいと考えています。
文責:臨床心理士・名倉