おうばく通信
おうばく心理室コラム
2019年2月 5日 (火)
【おうばく心理室コラム/2019年2月】「壁の乗り越えかたアレコレ」
先日参加した研修会で、「壁に突き当たったときにどうするか?」というグループワークを体験しました。簡単には登って越えられない高さの壁に直面したとき、どうしたらいいかをみんなで考えてみようというわけです。
ここでいう「壁」は、本当の壁として考えてもいいでしょうし、生活上のさまざまな課題や困難として考えてもいいと思われます。
私が頭に思い浮かべたのは、「眼前の壁をそのまま這い登ろうとしても難しいので、いったん後戻りして壁と距離を十分な距離を取って、そこから助走をつけて飛び越える」という発想でした。
これはカウンセリングの中でもときどき引き合いに出す例え話で、「問題に直面して余裕のない状態のまま前に進もうとしてもうまくいかないときは、あえて少し退いて、問題から離れて余裕を取り戻してから再挑戦するほうがうまくいく」という道理を端的に説明するアナロジーとして用いています。
必死になっているときに立ちどまったり少し退いたりするのは勇気のいることですが、急がば回れで、中長期的にはこうするほうが良い結果につながりやすいものです。ケガをした運動選手がいったん治療に専念してから復帰したほうが早く立ち直れるのと似たようなものでしょう。
他の人たちのアイデアは「台座を持ってくる」「はしごを架ける」といった道具派が多かったのですが、なかには「壁を壊して穴を開ける」という強硬派もいて驚きました(笑)。道具を使うアイデアは自分も考えたのですが、壁を壊すという発想は出なかったので、やはり人それぞれだなァと思うばかりです。
ただ、こういったグループのやりとりを聞いていた講師の先生は、「まだ出てない発想がありますね?」とおっしゃいます。一体なんだろうと思って考えてみるもそれ以上は思い浮かばず、自分の発想の貧困さに歯を噛んでいたところ、次の2点をおっしゃったのでした。
・何人かで組んで壁を乗り越える
・壁は乗り越えずに回り道をする
まず、ひとつめの「何人かで~」という発想は、問題はひとりで解決するものと思い込んでいると出てきにくいものです。しかし考えてみれば、その場に仲間がいて助けを借りれば、肩車をしてもらうなり下から支えてもらうなりして、容易く壁を乗り越えられるかもしれません。
私たち人類という存在はそもそも、一人ひとりは非力だけれども、協力し合うことで動物界の頂点へと駆け上がった存在です。このような私たちが相互協力を忘れて個人主義的な考えにとらわれてしまうと物事の可能性を大きく狭めてしまうのだということを、我が身もふくめて痛感させられます。
次に、ふたつめの「壁は乗り越えずに~」という発想は、問題は解決すべきと思い込んでいると出てきにくいものです。しかしこれも考えてみれば、問題はとりあえずそのままにして回り道で前進するうちに、その問題が問題ではなくなっていったり、後になってからその問題に立ち向うほうが容易く解決できたりすることが多々あります。
とても歯が立ちそうにない問題に直面している場合、それに捉われて無理な努力を繰り返して徒労感・無力感に陥るよりは、努力が結果につながりそうな別の事柄に目を向けて行動してみるほうが良い結果につながることでしょう。行動療法や問題解決療法といった手法でも重視されるこのような視点は、頭では分かっていても実際の場面になると応用できなくなることを、これも我が身を含めて実感させられます。
もちろん、まずは自分の力で壁を乗り越える努力をしてみることは大切で、何もしないうちから「誰かに助けてもらう」「乗り越えるのをあきらめて放置する」のが良いとは言えません。
しかし自分一人でチャレンジしてみたものの解決につながらない場合は、少し視点を広げて、誰かの助けを借りられないか? この問題は本当に今すぐ解決しなければならないのか? も考えてみると良いかもしれません。
それでも行き詰まりが続くようであれば、心理カウンセリングも解決の一助となるかもしれませんので、よければひとつの選択肢にしていただければ幸いです。
ところで貴殿は、壁に直面したらどんな風に乗り越えますか??
文責:臨床心理士・名倉