おうばく通信
BUCきょうと機関誌『ばっくる』連載エッセイ
2018年1月 1日 (月)
月刊きょうと/「私の学び」(2018年1月)
今回は公正妥当さん(男性)に、ご自身の「学び」について書いていただきました。
バックアップセンター・きょうと(BUC)では、課題図書の読書、コミュニケーション講座、ストレスマネジメント講座など「学ぶこと」が多い日が続きます。「学ぶこと」は私がこれまで続けてやってきたことです。そこで、私の「学び」の遍歴について紹介したいと思います。
私が最初に「うつ」を発病したのは社会人になって7年目のこと。その後、職場には復帰したのですが、何年も薬を飲み続けやめることができませんでした。「このままではいけない」と思い、一念発起して通信制の大学に入学し、「心理学」と「メンタルヘルス」について勉強しようと思いました。自分の病気への理解を深め、あわよくば自力で病気を治そうとする遠大な企てです。勿論、会社には内緒ですし、家内からは何を始めたのかと白い目で見られました。入学当初は授業についてゆけるか、試験に合格できるか、不安だったのですが、やってみると意外と新鮮で面白い。通信制ということもあり、学生には人生経験に富んだおじさんおばさんが多く、若い学生と違いガツガツと勉強してきます。また、活発で生き生きしている人が多くとても刺激を受けました。
その後しばらく、心理学や精神医学系統の科目を数年間学んでいると転機が来ました。たぶん「臨床心理学」の授業でしたが、ある高名なK先生が「この学問の背景にあるのは哲学であるので是非哲学も学ぶように」とのことです。「哲学」といっても最初はピンと来なかったのですが、半信半疑、同じ大学で開講していたWという先生の「哲学入門」という授業を受けてみました。これがジャストミートしました。私がかねてから本当に知りたかったことに哲学は問を立てていたのです。そのW先生は社会人向けにやさしく人生という観点から哲学を教えていただきました。
それからというもの、哲学に転向しました。この時点で、「学び」で「自分の病気を治す」という当初の目的はとうとう挫折してしまいましたが、もっと大きなものを得ることができると思いました。
それからしばらく哲学を勉強していると、またもや転機が来ました。哲学を深めるには関連の学問分野(東洋思想、外国語、宗教思想、自然科学、歴史…)を学ばなければいけないと気づいてきました。また、興味の対象も広がっていきました。今では、「学び」の対象が「哲学を中心とした一般教養(リベラルアーツ)」になっています。
「学び」というのは、受験などを思い出して孤独で同じことを繰返してばかりの地味なイメージが先行しますが、新たな先生や学問領域との出会いがあり、そこに驚きがあったり衝撃を受けたり結構飛躍があり冒険的です。これまでご紹介したとおり私が「学ぶ」中で何度も転機を迎え、「学び」の対象を変えているのはこのためです。
日々の生活の中では、気分が落ち込んだり絶望的な気持ちになったりするときがありますが、今では時間を持て余したり退屈することは滅多にありません。「哲学」は人生の慰めを、「教養」は豊かな人生を提供してくれます。この病気によって、失ったものがたくさんあるとは思います。しかしながら一方で得られたものも多かったと思います。
最後に、「少年老い易く学成り難し」といいますが、幾つになっても好奇心を持ち続け、新しい「学び」を重ねて行きたいと思います。