おうばく通信
おうばく心理室コラム
2017年10月 5日 (木)
【おうばく心理室コラム/2017年10月】「デフォルトモード・ネットワークと、脳を休ませる力
昨今の流行語になっている感もありますが、「デフォルトモード・ネットワーク」という考えかたが注目されています。
私たちの脳は、勉強したり運動したりしているときに働くと思われがちですが、実際はそうではなく、何もしていないときもちゃんと働いています。たとえ眠っていても、延髄などによる生命維持機能で心拍や呼吸は途切れませんし、レム睡眠時に夢を見るのも脳の活動によるものです。
もちろん、眠っているときに比べて、起きているときのほうが脳の活動は高まります。視覚情報の処理だけでも脳の多くのリソースを使いますし(したがって眠れないときも目をつぶって横になっているほうが休養になると言われます)、何か課題や作業に取り組むと脳は一層活発に働きます。こうやって働いた脳は疲れるので、しっかり休ませてあげることが大切です。
脳を休ませるために最も大切なのは良質な睡眠ですが、それだけでなく、起きているときの過ごしかたも大きく影響することが近年の脳科学で明らかになってきました。それが冒頭に書いた、デフォルトモード・ネットワークです。
デフォルトモード・ネットワークとは、「意識的に何かしているわけでないときも働いているベースライン的な脳の活動」のことで、脳の消費エネルギーの7割前後を占めていると言われています。たとえば自宅で何もせずゴロゴロ過ごしているとき、あまり頭を使っていないように思えるかもしれませんが、実はそうではないのです。このデフォルトモード・ネットワークは、ぼーっとしているつもりでもアレコレ考えごとをしていたり、クヨクヨ思い悩んだりして雑念が生じているとき、とりわけ過剰に働いて脳を疲弊させやすいことが明らかになっています。
「残業続きで心が疲れ気味だから、休日くらいは家で一日のんびりしよう!」と思ってゴロゴロして過ごしても、なんだか疲れが取れず余計にダルくなった……といったご経験はないでしょうか?
もしかするとそれは、デフォルトモード・ネットワークの過剰活動のせいかもしれません。ソファの上でゴロ寝しながらテレビを見ていても、心のどこかで「あの仕事、週明けにはカタを付けないといけないし気が重いなァ……」とか「成績がパッとしない長男の進学、一体どうなるんだろう……」などとグルグル考えていると、知らず知らずのうちに脳を無駄に疲弊させてしまいやすいのです。
神経質で不安が高い現代人にとって、何も考えずに脳を休めるのは意外と難しいことなのかもしれません。
では私たちは、どうすればいいのか? その答えのひとつは、これも昨今ブームとなっている感がありますが「マインドフルネス」だと言われています。
デフォルトモード・ネットワークを無駄に活発化させる雑念のほとんどは、過去のことをクヨクヨ後悔しているか、将来のことをアレコレ心配しているかのいずれかです。そこで意識的に「現在」だけに目を向けることで、雑念をしずめて脳を休ませようというわけです。浮かんでくる雑念は、追い払おうとすればするほど浮かんでくる厄介な代物ですが、追い払うのではなく傍らに置いて、いま現在の呼吸などに意識を集中することによって、いい意味でないがしろにされた雑念がおのずと勢いを失っていくような感覚です。
マインドフルネスに加えて個人的に有効だと感じているのは、軽い運動の習慣です。適度に身体を動かしていると、そちらのほうに意識が向いて、あまり雑念にとらわれなくなるように感じます。
私の場合、休日に2時間程度のスロージョギングか、3時間程度のスローサイクリングを行っており、そのときの身体感覚だけでなく、景色の移り変わりや風の感覚にも気持ちを向けながら走っていると、雑念の心に占める割合が小さくなっていく実感があります。走り終えたあとは心地よい疲労感とささやかな達成感があり、また運動による脳内分泌によって心の疲労感や不安がグンと軽くなります。基礎体力がついて身体の調子も良くなるので一石二鳥です。
運動などをしなくても「何もせず穏やかに過ごせる力」が大切なのだろうな、と思うこともあります。情報や刺激にあふれる現代社会で暮らす私たちは、「快楽を追い求める」か「苦痛を回避する」かのいずれかに駆り立てられがちで、そのいずれもが長期的には心を疲弊させてしまうからです。前者の例としては、スマホに依存状態となったり、ゲームにのめり込んだり、美食を追い求めて糖尿病になったり……。後者の例としては、不登校から自宅に引きこもったり、仕事の不安を紛らわせるためアルコールに走ったり、逆に家庭から目を背けるため仕事に没頭したり……。
運動習慣が悪いとは思っていませんが、ケガをしたり体調を崩したりしたときのためにも、運動で気分転換をはかるばかりでなく現実をマインドフルに受けとめる力の涵養も意識しながら、デフォルトモード・ネットワークとうまく付き合っていければと。日頃から呼吸瞑想、歩く瞑想、食べる瞑想、そしてジョギング中も身体感覚や周りの風景をあるがまま感じる瞑想……併せて地道に続けていこうと思います。
文責:臨床心理士・名倉