おうばく通信
おうばく心理室コラム
2016年8月 5日 (金)
【おうばく心理室コラム/2016年8月】心の健康を保つために大切なこと~食事編
本コラムでは今まで、心を健康に保つために大切なポイントについて種々紹介してきましたが、いずれも心理学的な見地からのものでした。孤独感の解消、アサーション(自己主張)の向上、まず行動から始めること、自己効力感の涵養、マインドフルネスの習慣、失敗したときの解決的思考などなど…。
ただ、心の状態は当然のことながら心理面だけで決まるわけではなく、それ以外にも多くの要因に左右されています。代表的なものだけでも「食事」「運動」「睡眠」の3つはメンタル面に非常に大きな影響力を持っていると言われており、数多くのエビデンスが示されているとともに、筆者の実感としても本当にその通りだと痛感しています。
とくに食事は、うつ病との関連性が大きいと言われています。たとえば、脳内分泌物質のひとつであるセロトニンを枯渇させないためにトリプトファンやオメガ3系脂肪酸を多く含む食品をしっかり摂るほうがいいこと、血糖値を乱高下させないために高GI値食品(精製糖や小麦粉など)を取り過ぎないこと、余分な体脂肪が増えすぎると内分泌のバランスの崩れからメンタル面の不調を来しやすいのでカロリーオーバーに気をつけること、心身のバランスを整えるため各種ビタミンやミネラルもまんべんなく摂ること、等々です。
そこで今回は心の健康を保つために大切な「食事」について、教科書的な説明だけでなく、筆者の実感もまじえながら考察してみたいと思います。
……などとエラソウに書き出している私自身、若い頃は食生活にあまり気を配っていませんでした。「野菜も毎日食べたほうがいいよね」くらいの意識はありましたが、基本的には食べたいものを好きなだけ食べる生活で、間食や夜食もお構いなしでした。
その結果、30歳から40歳の10年間でキッチリ10kg増えてお腹はプヨプヨ、血液検査でも高脂血症の判定となってしまい、メンタル面の調子も実のところあまり芳しくない状態が続いていました。
このままではさすがにマズいと一念発起し、40歳を機にいろんな関連図書を読みつつ食生活を改めてみたところ、一年経たずにキッチリ10kg減って元通りの体重になるとともに、体調面だけでなくメンタル面の調子もかつてなく良くなったのです。
それまでは、自分の心のコンディションは「何となくいつもダルくて、たいていのことが面倒くさい」状態がベースラインだと思っていました。あまり活気なく過ごすのが日常で、たまにとても嬉しいことがあったり、特別に興味深いことに遭遇したりしたときだけテンションが上がるという日々を送っていました。
しかし食生活を改めてみたところ、心のコンディションも大きく変わり、「ダルさは全くなくて、フットワーク軽く行動できる」ような状態が続くようになりました。もともと性格が地味なほうなので、明朗快活なハイテンション! みたいにはなれませんでしたが(笑)、それでも今までどんより曇天気味だったメンタル状態が秋晴れのように穏やかになったような感覚と言いましょうか。いささか大仰かもしれませんが、人生を取り戻した! くらいの感慨があったのです(正確には、同時期から運動習慣も取り入れたので、純粋に食事の効果だけとは言えないのですが、運動とメンタル面の関係については次回コラムで取り上げたいと思います)。
では、どのように食生活を改めたのか? こういうときは書き手の実例を出したほうがいいと言われますので、僭越でお恥ずかしいのですが、「改善前」と「改善後」の典型的な1日3食を挙げてみます。
「改善前」
【朝食】コンビニのサンドウィッチ
【昼食】職員食堂のA定食(白飯大盛り、肉野菜炒め、ほうれん草のお浸し、味噌汁、フルーツ入りヨーグルト)
【夕食】白飯中盛り、麻婆なす(大盛り)、小芋の煮物、小松菜の胡麻和え、マカロニサラダ
【夜食】ポテトチップス(半袋)、缶ビール
「改善後」
【朝食】焼きいも(サツマイモ)、ゆで卵、チーズ
【昼食】職員食堂のB定食(白飯小盛り、煮魚+付け合せ野菜、ほうれん草のお浸し、味噌汁、フルーツ入りヨーグルト)
【夕食】棒棒鶏、豚しゃぶサラダ、いわしの梅煮、冷奴、小松菜の胡麻和え、オクラとなめこの味噌汁、ひじきの煮物、セロリとパプリカのマリネ、サツマイモのレモン煮
【夜食】無塩クルミ、缶チューハイ
朝食は改善後も作り置きのできる簡単なものですが、コンビニのサンドウィッチよりは添加物も少なくていいように思うので、朝はなかなか時間が取れないなか(というか早起きが苦手なだけです)、このスタイルが続いています。
昼食も基本的には職員食堂の定食で変わっていませんが、ご飯の量を大盛りから少盛りにしたことと、肉定食から魚定食にしたのが変化です。
夕食は大きく変えました。それまで食べていた白飯を抜いて、代わりに肉と魚、豆腐、野菜、海藻などの品数を増やしています。また、マカロニなどのGI値の高い食品(小麦粉)をやめて代わりにサツマイモなど比較的GI値が低い炭水化物を摂るようにしています。
夜食については、ポテトチップスは美味しすぎて(笑)どうしても炭水化物と脂質、塩分を摂りすぎるので、代わりにシンプルな無塩クルミでオメガ3脂肪酸を多くするとともに、ビールよりも糖質の少ないチューハイで晩酌するようになりました。
気を付けたポイントは次の4点です。
◆良質のたんぱく質をしっかり摂る
鶏肉、豚肉、魚、大豆は1日の中で全て摂れるように心がけました。
◆オメガ3脂肪酸をしっかり摂る
いわしやサバなどの青背魚を毎日食べるとともに、晩酌のお供はクルミなどナッツ類にしました。
◆ビタミン・ミネラル・食物繊維を幅広く摂る
野菜、きのこ、海藻をできるだけ多くの種類から食べるよう意識しました。その結果、夕食の品数が多くなっています。
◆糖質・炭水化物は多すぎず少なすぎず、総カロリーも多すぎず少なすぎず
改善前は一日合計20品目程度であった食材が、改善後は30品目程度に増えていますが、そのぶん1品あたりの量は少なめにして、総カロリーを増やしすぎないよう気を付けています。糖質・炭水化物は総カロリーの40%前後になるようにして、残りはたんぱく質と脂質で半分ずつくらいカロリー摂取する位を心がけています(糖質・炭水化物とたんぱく質は1gあたり4kcal、脂質は1gあたり9kcal)。
ここでひとつ触れておきたいのは、昨今流行している「糖質制限ダイエット」についてです。識者のあいだでも賛否両論のようですが、筆者もこれに近いことを取り入れてみた時期があり、実体験をまじえつつ考えてみたいと思います。
まず、今までの食事から単純に糖質(炭水化物や糖分)を全て抜いてしまえば、当然ながら体重はどんどん減ります。それまで3食とも白飯を主食にしていた人が、白飯を抜いてしまえば、その分のカロリーが単純に丸ごとごっそり減りますし、そうやってカロリーが不足すると、生きるのに必要なエネルギーを産み出そうとして貯えられていた脂肪がどんどん使われるからです。
ただ、このような食生活は慢性的なカロリー不足に陥りやすいうえ、今までの食事からの炭水化物(白飯や根菜、フルーツなど)を「引き算」する形になると、摂取できる品目数も少なくなって食材の多様性が失われ、栄養がどんどん偏ってしまう危険性が高くなります。そうなると、体重は減るものの身体は不健康になり、メンタル面にも悪影響が出てしまうことでしょう。
筆者の知人にも実際、糖質を完全にカットした食生活に切り換えたところ、数ヶ月目くらいから身体がフラフラする、頭がボーッとして考えがまとまらないといった症状に陥った人がいました。
一方で、糖質制限にはメリットもあると考えています。現代人の大半は糖質が多すぎる食生活に陥りやすいため、少し制限するくらいがちょうどいいケースが多いと思うからです。たとえば「朝食にパン、昼食にラーメンとチャーハン、夕食にお好み焼きと白飯」みたいな食生活を送っていると、摂取カロリーの9割方が糖質(炭水化物)となってしまう上、食材の多様性も「小麦粉と白米と油脂+少々の具材」程度しかないため、栄養失調のまま肥満して心身ともに調子を崩していくという経過に突き進みやすいのです。
私たち人類は雑食性の生き物であり、必須アミノ酸を筆頭に幅広い栄養素をまんべんなく摂る必要があります。しかし現代社会では、スナック菓子や麺類など美味しい炭水化物(糖質)が身の周りにあふれているため、嗜好のままに食べていると「糖質のオーバー」&「食物多様性の狭小化」につながって肥満やメンタル不調に陥りやすいのではないでしょうか。
牛などの家畜も、本来は牧草などを幅広く食べる食生活の動物ですが、小麦やトウモロコシなど炭水化物(糖質)を中心としたエサを与え続けることで、「立派な霜降り肉」に仕立て上げられます。これは人間で言えば明らかに不健康な肥満状態ですが、私たちも雑食を忘れて炭水化物(糖質)と脂質ばかりに偏重すると、「立派な霜降り肉」を付けてしまうのは牛たちと同じです。
筆者の学生時代からのある友人は、卒業後一人暮らしを始めて3食とも菓子パンという生活(=ほとんど糖質・炭水化物しか摂っていない!)を1年近く続けたあたりからうつ状態や幻聴といった精神的変調を来して精神科で治療を受けることになりました。しかし実家に帰って普通の食生活に戻ると、服薬しなくても元通りの精神的健康を維持できているそうです。もちろん、この友人の精神的変調の原因が菓子パンにあったと断定できるわけではありませんが、ちょっと考えさせられる一件として筆者の印象に残っています。
したがって、糖質制限についての私見をまとめると、
・糖質(炭水化物)を適正レベルにまで下げること自体は心身の健康にとって大切である
・ただし過度に減らしすぎない(必要摂取カロリーの40%程度は糖質・炭水化物で)
・糖質・炭水化物を減らした分のカロリーは他の食材でしっかりと補う
・糖質・炭水化物を減らすことだけでなくそれ以外の多様な栄養素のバランスにも配慮する
……という、我ながらビックリするくらい当たり前の話になってしまったところで今回は失礼したいと思います。
※本稿はあくまで私の個人的体験に基づく私見であり、誰にでも必ず当てはまるものではないことをご了承ください。また実際に疾患などをお持ちのかたは、医師など専門家の指導に基づく食事療法を守っていただきますようお願いいたします。
文責:臨床心理士・名倉