おうばく通信
おうばく心理室コラム
2016年6月 5日 (日)
【おうばく心理室コラム/2016年6月】セルフコントロール力の高めかた
心を健康に保つために大切なことは種々ありますが、そのひとつが「セルフコントロール力」(=意思の強さ)です。
……このように言うと、それって順序が逆転してるんじゃないの!? とおっしゃる向きもあるかと思います。心が元気な時はセルフコントロール力も高まるし、心がしんどい時はセルフコントロール力も低くなる。ただそれだけのことじゃないの?? と。
確かにそのような方向の因果関係もあると思います。心の余裕がなくなるとセルフコントロール力も下がるという経験は多くのかたが持っておられることでしょう(筆者もその一人です)。ただ、心理学の研究によれば、セルフコントロールは努力で高めることができるし、それが高い人ほど心の健康を保つことができると言われているのです。
これがどういうことか、順を追って考えてみます。
私たちはみな、多かれ少なかれストレスに直面したり、気分や調子の波に左右されたりします。たとえば、失恋して気分が大きく落ち込んだという場合、セルフコントロール力の高い人と低い人とでは、その後の生活にどういう違いが出てくるでしょうか。
セルフコントロール力の高い人は、失恋の痛手を抱えながらも、最低限やるべきことは実行し続けられます。すっかり意気消沈して食欲が出なくても、とりあえず3食はきちんと摂り、入浴や歯磨き、洗濯なども普段どおり行い、身だしなみも一応ととのえて出勤されることでしょう。帰宅してからも、寂しさや悲しみにさいなまれつつ、自宅の掃除やゴミ出しといった必要な行動は今までどおり滞りなくできると考えられます。
一方、セルフコントロールの低い人は、失恋の痛手に圧倒されて、何もかも手につかなくなってしまいます。食欲がないので一日何も食べなかったり、その反動と寂しさからお菓子をドカ食いしてしまったり。入浴や歯磨き、洗濯などもどうでもよくなり、掃除やゴミ出しも滞りがちとなって、そんな不潔な自分自身や環境にますます気持ちが滅入ってきて、自尊心も失い自暴自棄になっていく……。
どうでしょうか? やや極端な例かもしれませんが、セルフコントロール力の高低がその後のメンタル面にも大きく影響することがお分かりいただけたかと思います。失恋から受けるショックの大きさは、その人の感受性や性格、成育歴、社会的サポート源の多寡などによっても違ってきますが、同じ大きさのストレスに直面した場合、セルフコントロール力が高い人のほうが不適応に陥りにくいのは事実なのです。
このように大切なセルフコントロール力。では、どうすれば高めることができるのでしょうか?
心理学の研究によれば、セルフコントロール力は常日頃から使うことで鍛えられ、いざという場合にも自分を律せられるようになると言われています。日々の生活のなかで、自分で決めたことをやり続ける体験の積み重ねこそが、セルフコントロール力を涵養してくれるのです。これは筋トレの積み重ねによって筋力が強くなるのと全く同じメカニズムです。
筋トレがスポーツジムに行かなくてもペットボトルを握って上下させるだけでも可能なのと同じく、自分で決めて実行することは何でもかまいません。毎朝決まった時間に起床する、出勤前にお茶を入れる、駅ではエレベータを使わず階段で昇る、間食したくなっても3時までは我慢する、夕食は自分で作る、掃除機を毎日かける、日記を欠かさず書く、決まった時間に就寝する、などなど……。
高負荷の筋トレのほうが筋力アップ効果も高いのと同じく、強い意思力が必要な行動のほうがセルフコントロールを強くする効果も高いと考えられますが、筋トレもがんばりすぎると疲労骨折などの障害につながるように、セルフコントロールも詰め込みすぎると心が疲弊してしまうので、使ったら緩めて休息させてあげてください。
ちなみに大切なのは、自分で決めたことを自分でやり通す点です。誰かから命じられたことをやり通すのは、「服従力」を高めることにはなるかもしれませんが、セルフコントロール力を高めるためには、自分の行動を自分で決めて実行するほうがずっと効果的です。そしてそれが習慣化して日課になればしめたもの、以降は労せずしてセルフコントロール力を維持できるようになるのです。
……とエラソウに書いている私自身、三日坊主に終わった行動は今まで数知れずありますが、それでも帰宅後の軽ジョギングや夕食作りなどは毎日細々と続けています(このコラムの執筆も一応続けていることのひとつでしょうか)。面倒くさいときは「こんなことして何になるんだろう?」「今日はサボっちゃおうかな」などと思う日もありましたが、日課になってしまえばそれほど苦ではなくなります。それがセルフコントロール力の高さにつながっているかどうか自信はありませんが、少なくともやらないよりはやったほうが良いように感じています。
「いざとなったらオレは自己を律することができる! だから普段はグウタラする!!」とおっしゃる御仁も時折見かけますが(笑)、これってスポーツに置き換えると「試合になったらオレは結果を出す! だから普段のトレーニングは一切しない!!」と言ってるのと同じです。ひとにぎりの天才はそうなのかもしれませんが、私を含めてセルフコントロールの凡人は、常日頃から地道にトレーニングを積み重ねるのが一番の近道のようです。
文責:臨床心理士・名倉