おうばく通信
BUCきょうと機関誌『ばっくる』連載エッセイ
2015年11月 1日 (日)
月刊きょうと/「ヴィクトール.E.フランクル」2015年11月)
今回は利用者の笑顔大好きさん(男性)に、精神科医・フランクルの魅力について書いて頂きました。
今回は、私が心から敬愛する人物の紹介をしたいと思います。ご存じの方も多いかもしれませんが、『夜と霧』の著者であるヴィクトール.エミール.フランクル先生です。
フランクル先生は、一九〇五年にウィーンで生まれ、フロイト、アドラーといった高名な心理学者に師事されたのち、離脱。「ロゴセラピー」という独自の治療法を考えられました。その後、ユダヤ人ということだけで強制収容所に隔離され、壮絶な体験をされました。
では、「ロゴセラピー」とは何なのでしょう。「どんな人間でも生きる価値がある。そして、人生は独自の意味を有する」ということに尽きます。フロイトは「生きる意味を問うこと自体、病気である」と説かれましたが、フランクルは「そうではない」と言われます。むしろ「生きる意味を問うこと自体が、人間に備わった本能である」としています。
そして、さらにそこから考えを深め、「人生に意味を問うのではなく、人生から意味を問われている存在が、人間なのだ」と進めていきます。つまり、「人生に何を期待できるか?」ではなく、「人生は何を、私に期待しているのか?」という、発想の転換こそが重要なのであると説かれたのです。
私も幼い頃から「人はどうして生きているのか? 生きていることの意味は何なのか?」と考え、そこから生まれる虚無感のようなものを常に抱える若者でした(笑)。そして、仕事に追われ、疲労の極限の中、病気を発症して入院。その時に、父親が持ってきてくれた本が、フランクル先生のものでした。
「同じことを考え、それに対して独自の答えを見つけ出し、治療法にまで発展させた人がいたのだ」と思いました。もちろん、今までの人生で「もしかしたら人生は、無意味なものかもしれない」という思考過程が出来上がりつつあり、すぐには発想の転換はできませんでしたが、何回も読むうちに、理解はできるようになりました。
フランクル先生は、「人生には3つの価値がある」と言われます。
1つ目は、「創造価値」であり、何かをつくりあげることで得られる価値のことです。
そして、もう1つは「体験価値」。何かを体験することで得られる価値です。例えば、本当に素晴らしい夕日に出会ったときに、実はこれに出会うために自分は人生を生きてきたのではないか、と思えるような体験をすることがこれにあたります。
そして、最後は「態度価値」。これは、自分の力ではどうにもできない運命、避けようのない状況に面した時でさえ、それに対してどういう態度をとるかは、本人の自由意思にかかっているということです。
つまり、不治の病気にかかった時、「私は、この病気を与えられた。私はこの病気から何を生み出すのか。この病気をどう生かすことができるのか」ということです。これは、フランクル理論のすごいところで、自分から距離取る「自己距離化」の技法であり、マインドフルネス理論にもつながります。
とは言っても、フランクル先生自身はうつ病には、この理論は使われていません。その時代に使われた3環系抗うつ剤の使用意義を、積極的に認められています。多分、日本の瞑想概念を知られていたら、また違った理論展開をされていたでしょう。
最後まで読んでいただき、感謝します。あなたに全ての良きことが、雪崩の如く起きますように。