おうばく通信
おうばく心理室コラム
2014年4月 5日 (土)
【おうばく心理室コラム/2014年4月】「チームの鎖」というワーク
先日筆者が参加した当法人のスタッフ向け研修会のなかで、興味深いワーク(ゲーム)を体験しました。
「チームの鎖」と名付けられたそのワーク、ルールは単純明快です。
・4人1チーム(多職種)となって、班ごとにテーブルを囲む。
・各チームにハサミ2つとスティック糊1つ、A4用紙数十枚を支給する。
・制限時間2分のあいだに各チーム、鎖となった環をどれだけ多く作れるかを競う。
チーム4人で協力しあって、A4用紙を細く切り、それを環にしながら糊付けして、紙の鎖(学芸会の飾りつけに作ったようなやつ)をいかにたくさん作れるかを競うわけです。
勝つためには各メンバーの技量(早く切る、早く糊付けする等)ももちろん大切ですが、それよりも重要なのが全体としてのチームワークです。各自がそれぞれの作業を行いながらも、全体の進み具合を見ながら、誰かがリーダーシップをとって指示を出したり、作業が遅れている部分を誰かが助けたりしなければ、鎖という共同制作物を能率よく作ることはできないのです。
たとえば、用紙を細く切る担当の人がとても器用で、輪っかの材料となる長細い紙片がものすごいスピードで生産されるとします。しかし糊付け担当の人が不器用で手間取っていると、そこで流れが滞ってしまいます。長細い紙片はどんどん生産され続けるのに、糊付けがちっとも追いつかない結果、鎖にできる輪っかの数も少なくなってしまうのです。
このような場合どうすればいいか? 正答が決まっているわけではないにしても、普通に考えれば、用紙を切る担当の人がいったん手を止めて糊付け作業の補助に回る(糊付けしやすいように紙片を並べる等)というフォローが重要です。そして、そういった機転を利かせるためには、誰かが、もしくは全員が状況の全体像を見て、指示を出したり自ら判断したりする必要があります。
「チームの中の1人が驚異的な高い作業能力を持っていたとしても、別の1人が低い作業能力しか持っていない場合、そのままだと全体としてのパフォーマンスは作業能力が低い人のレベルにまで引き下げられてしまう」
まるで必須アミノ酸のような話です。つまり、9種類ある必須アミノ酸はすべて揃ってはじめてタンパク質として体内で利用できるようになるため、特定のアミノ酸だけ多く摂取しても、実際に吸収されるのは、相対的にもっとも摂取量が少ないアミノ酸の量に規定される(下図参照。http://www.koumonka.com/サイトから引用。チーム医療の場合は、下図のロイシンやリジンがそれぞれ医師、看護師など各職種の技量に相当します)。だからこそ常に全体を見守り、マンパワーが足りていないところには周囲の者が手を差し伸べるといったチームワークが不可欠なのです。
医療の現場も多職種の連携によって成り立つチームプレイです。ある職種のスタッフが天才的なスキルを持っていたとしても、別の職種のスタッフが乏しいスキルしか持っていなければ、最終的に患者さんに提供される医療の質は、スキルが乏しいスタッフのレベルにまで引き下げられてしまうかもしれません。たとえば、天才的な医師がいて絶妙な注射の処方をしたところで看護師が注射に失敗してしまえば何の意味もありませんし、逆に天才的な注射テクニックを持つ看護師がいたところで医師の処方が間違っていたら同じく何の意味もありません。
したがって、各スタッフが専門分野のスキルを研鑽する必要があるのはもちろんのこと、全体としてのチームプレイを常に意識して、足りないところがあれば別のスタッフがフォローし合う、よりよい方策があることに気づいたら各自が積極的に提案するといった姿勢が非常に大切なのでしょう。
こういったことを改めて気づかせてくれた今回の「チームの鎖」、実は2回戦、3回戦がありまして。2回戦では利き手の使用が禁じられ、3回戦では利き手に加えて会話も禁じられます。その中でチームとしての連携をいかに発揮するかを問われるわけですが、筆者はいきおいハッスルしすぎて、3回戦では無意識のうちに利き手を使って反則! 即アウト!! という顔から火が出るような結果となり、チームの面々からは冷ややかな目で見られて本当にばつの悪い思いを味わいました。今回はゲームだから笑い話で済みましたが、これが医療の現場であったら……と想像するといろいろ考えさせられます。
いまにして思えば、会話を禁じられた不自由さとストレスから、なんとかしてゼスチャーで意思を伝達しようとするうち、つい「ゴッドハンド」を用いてしまい、その流れのままゴッドハンドで鎖作り作業までやってしまった印象です。普段いかに言葉の力に頼っているかを実感したことと、合目的のためにはいかに自分を見失って突っ走ってしまうかを実感したこととが、筆者にとっては最大の気づきだったかもしれません。
文責:栄仁会カウンセリングセンター(おうばく駅前ルーム) 臨床心理士・名倉