おうばく通信
おうばく心理室コラム
2014年1月 5日 (日)
【おうばく心理室コラム/2014年1月】誰でも使える会話テクニック~開かれた質問
新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
今回は、明けまして→開けまして、といういささか強引な連想にて、「開かれた質問」というカウンセリングの基本テクニックについてご紹介したいと思います。
というわけで、開かれた質問。英語で「オープン・クエスチョン」と呼ばれる考えかたを輸入したものなのですが、とても汎用性の高い技法で、どんな職種のスタッフにも…というか、一般の人々にもすぐ使えるテクニックでありながら、意外と知られていないように感じます。
突然ですが、合コン(笑)に参加してきた友人がいたとして、その友人に合コンの様子を訊くとしたら……貴殿ならまず、どんな風に声をかけますか?
それこそ無限の可能性があるとは思いますが、いくつか挙げてみると…
「昨日の合コン、どうだった?」
「昨日の合コン、どんな感触だった?」
「昨日の合コン、どんな人が来た?」
「昨日の合コン、いい人いた?」
「昨日の合コン、楽しかった?」
「昨日の合コン、参加費のもとは取れた?」
では、これらの質問に対して、相手はどのように答えられるでしょうか?
「どうだった?」「どんな感触だった?」と訊かれた場合、回答者はどのようにでも答えようがあります。「店が騒々しくてロクに喋れなかった」とか「料理がパッとせず台無しだった」とか「ちゃらちゃらした雰囲気の参加者ばかりでゲンナリだった」とか、話す内容を訊かれた側が自由に選ぶことになります。このように回答者側の自由度の高い質問が、開かれた質問です。
「どんな人が来た?」と訊かれた場合、回答者側の自由度は少し下がります。なぜなら、回答者が答えられる範囲は「合コンに来た人」に限定されるからです。「学生さんばっかりだった」とか「騒々しい人が多かった」とか、ある程度は好きなことが言えますが、料理が不味かったことなどは言えなくなります。
「いい人いた?」「楽しかった?」「もとは取れた?」と訊かれた場合、回答者側の自由度はさらに下がります。「ううん、いなかった」「楽しくはなかった」「取れなかった」といった具合にイエスorノーでしか答えられなくなり、それ以外のことは話せなくなるでしょう。このような質問は、閉じられた質問と呼ばれます(どの回答例も内容がネガティブなのはどうぞスルーしてください)。
そして一般的に、とくに臨床の現場では、開かれた質問のほうが大切にされます。なぜなら、治療者側の都合よりも、患者さん側が訴えたいこと・話したいことのほうが重要だからです。
たとえば入院している患者さんが外泊して帰ってこられたとき、スタッフが「閉じられた質問」で訊いてしまうとどうなるでしょうか。
「○○さん、外泊時なにか問題はありましたか?」
「いえ…問題というほどの事はとくになかったです」
「それはよかったです」
→終了。
これでは何の情報も聴取できていません。では「開かれた質問」で訊くとどうなるでしょうか。
「○○さん、外泊はいかがでした?」
「まァ…大きな問題はなかったですけど」
「大きな問題はなかった…けど??」
「些細なことですけど、子どものことで妻とちょっと口論になりまして」
「子どもさんのことで奥さんと口論…と言いますと?」
「いやー、お恥ずかしい話なんですけどね(以下略)」
筆者の空想で書いているだけなのでまことに都合よく展開しておりますが(笑)、開かれた質問のほうが、本当に話したいことや気になっていることを喋れるものです。
ただし、開かれた質問が相手にとって曖昧すぎて、かえって負担になる場合もあります。そのようなときは、少しずつ質問を閉じていきます。
「○○さん、外泊はいかがでした?」
「いかがでした?って言われても…何を答えたらいいんですか?」
「そうですね、ご自宅ではどんな風にお過ごしでしたか?」
「家族の者と一緒に過ごす時間が多かったです」
「ご家族さんとはどうでした?」
「うーん、ちょっとしんどいときもありましたけど」
「と言いますと?」
<以下略>
閉じられた質問のほうが、聞き手の訊きたいことを効率よく聴取することができます。「眠れましたか?」「食欲はありますか?」「家族と衝突しませんでしたか?」「気分の落ち込みはありましたか?」等々…。しかしこれらは聞き手の都合を優先させているだけです。まずは相手(話し手)に喋る内容を委ねることが、相手を尊重する姿勢にもつながります。
日常場面でも、開かれた質問を意識してみると、それまでの会話が一層広がるかもしれません。よければ是非、お試しになってください。
文責:臨床心理士・名倉