おうばく通信
おうばく心理室コラム
2013年3月 5日 (火)
【おうばく心理室コラム/2013年3月】相手との関係を深めるコツ!?
一般書店で心理学関連のコーナーを冷やかしていると、「恋愛がうまくいく心理学」だとか「出世するための心理学」だとか、ひどいのになると「他人を思いどおり操るための心理学」みたいな書籍が平積みされていて辟易することが多々あります。
心理学の知識をかじっただけで恋愛が成就したり、出世したり、他人を思いどおりに操れたりするなら、そりゃあ当人にとっては好都合でしょうけれど、こういった類の書籍が次から次に発刊されているところをみると、現在のところ決定的なものは存在しないと考えてよさそうです。
ちょっと考えてみただけでも、もし世の中の全員が「他人を思いどおり操るための心理学」を読んだらどうなるでしょうか。たとえば、AさんはBさんと結婚したいと思っていて、BさんはAさんが大嫌いで顔も見たくないと思っている場合、お互いが相手を思い通りに操れるようになる状況というのは成立不可能な、まさに「矛盾」の典型例だと言えるでしょう。
学問と臨床の場を含めて二十余年のあいだ心理学に携わってきて感じるのは、人の心は決して一筋縄ではいかないこと、決してたやすく解明できるものではないこと。この2点に尽きるかもしれません。
それでも心理学に携わる仕事をしていると、こういった人間関係のノウハウを訊かれることがあるのも事実です。そこで今回は、相手との関係を円滑に深めるためのコツについて、たいしたクスリにもならないかわりにあまり害もないと思われる、比較的信頼できる心理学の知見を少しだけご紹介したいと思います。
1.第一段階(出会い~印象操作)
人と人が初めて出会うときに、なにより大切なのは第一印象です。個々人の直感的な好き嫌いはどうしようもありませんが、人が人を第一印象で判断するとき、言語情報よりも非言語情報のほうが圧倒的に大きなウェイトを持つと言われています。
非言語情報には外見やしぐさ、表情などいろいろありますが、いちばん手っ取り早く操作できるのは着衣の清潔感です。必ずしも高価だったりきらびやかだったりする必要はなく、ただ清潔感のある衣服を着ているだけで第一印象がアップして周囲の人から親切にしてもらえるようになる、という海外の論文報告もあります。
2.第二段階(警戒心をとく~単純接触効果)
こうやって第一印象をクリアしたとしても、人と人同士、相手に対して多少の警戒心は持ち続けます。「ほんとうに安全な相手だろうか?」「もしかすると自分を攻撃してくるのではないか?」といった気持ちが防衛本能として働くのです。
このようなお互いの警戒心をとくために重要かつ効果的なのが単純接触効果。つまり、お互いに何度も顔を合わせるという、読んで字のごとく単純なことなのです。
通勤電車でよく見かける乗客になんとなく親近感を抱いたりするのは、この単純接触効果の結果と考えられます。対象は人だけにとどまらず、テレビのコマーシャルで同じ商品の宣伝がしつこいくらいに繰り返されるのも、この単純接触効果をねらったものだと言われています。
どうしてこのような結果になるのかについては諸説あるようですが、簡単に述べれば、「何度も目にするけれど自分に危害は及んでいない」という経験を何度も積み重ねることで無意識のうちに警戒心が小さくなり、それが相手への好印象へとつながるのです。
3.第三段階(あなただから!~自己開示)
こうやって警戒心をとくことができたら、いよいよ相手との関係を深くしていく段階です。ここでのポイントは、自己開示(自分のことを打ち明けること)のタイミングです。
関係を深めるためには、お互いが相手のことをよく知って理解する必要がありますが、だからといって、知り合って間もないのにプライベートな話をされたら相手はどう感じるでしょうか? おそらく「非常識な人だ」とか「誰に対しても自分をさらけ出す人なんだ」とか思われて、敬遠されるのがオチだろうと思います。
したがって、初対面のうちは自己開示を控えめにして差しさわりのない話をしながら、回数を重ねるにつれて少しずつ自己開示していくことが大切です。そうすれば相手は「この人は私だからこそ素の自分を出してくれるんだ」と感じますし、「だったら私も素の自分を少し出してみようかな」という風に、自然と関係が深まりやすいことでしょう。
…というわけで今回のコラムをまとめると、
1.人との出会いには清潔感のある洋服で!
2.気になる人とはなるべく顔を合わすようにしましょう!
3.打ち明け話は焦らず、時期とタイミングを見計らって!
てなことになりますでしょうか。あまりにも当たり前すぎて、我ながら書いていてクラクラしてきますが、世の中の研究というのは得てして地道で陳腐なことの積み重ねだったりするものです。
でもまァ、「自分だけが知っている知識によって他者を思い通りに操作しよう」みたいな発想はコミュニケーションの対等性を軽んじる姿勢の典型例であり、こういう発想から脱却することこそが、成熟した人間関係を育むための真のノウハウだと言えそうです。
文責:臨床心理士・名倉