おうばく通信
おうばく心理室コラム
2012年2月 3日 (金)
【おうばく心理室コラム/2012年2月】心理テストって何をするの?(その2)
前回のコラムでは心理検査の種類についてご紹介しました。今回は心理テストの内容についてご紹介してみたいと思います。
内容としては、「性格検査」「能力検査」「スクリーニング検査」の3つに大別されます。
「性格検査」は、内向的か外向的か、他罰的か自罰的かといった特性を判定するものです。性格検査というと、性格の良し悪しを測定するものと思っているかたが時折いらっしゃいますが、人の心はそんなに単純ではありません。
たとえば、内気な人より外向的な人のほうが良いという認識が一般的にはあるようですが、いずれの性格にも長所と短所があります。実際、コツコツと研究を積み重ねるような作業は内向的な人のほうが高いパフォーマンスを示す傾向があるといった結果も報告されています。
あるいは、他罰的な人より自罰的な人のほうが良い性格だと思われるかもしれませんが、自罰的な性格も度を過ぎると自分を責めすぎてうつ病になったり自殺の危険が高まったりしますから、やはりどちらが良い悪いと単純に言えることではありません。
それでも性格傾向を知ることによって、不適応の原因を明確化しやすくなったり、より適切な取り組みを見つけやすくなったりする場合があります。私たちが臨床現場で性格検査をおこなうのには、このような背景があります。
「能力検査」は、IQテストや記憶力検査など、おもに知的機能がどの程度であるかを判定するものです。病院は教育機関でもないのになぜ知能検査なんてやるんですか? と訊かれることがありますが、それは、患者さんの不適応状態の原因が努力不足にあるのか、それとも能力不足にあるのかを見極めるためと言えます。本当は能力があるのに「この人はいくら頑張ってもムダだ」とレッテルが貼られてしまうのは、ご本人にとっても周囲にとっても不幸なことですし、逆に能力的な限界があるにもかかわらず「この人は努力せずサボッてるだけだ」と非難されるのも、同じく双方にとって不幸なことです。
ただし、IQテストで測定される能力は、その人の資質のごく一部分に過ぎません。対人的な共感能力や芸術的な独創性などは測ることができませんし、どれだけ地道に努力できる人であるかも測ることができません。
現行のIQテストで測定される能力は、あくまでも現代社会の中で生活していくために有利な諸能力にすぎず、もし地球に巨大隕石のひとつでも落ちて環境が激変するようなことがあれば、IQの高低など生きていくうえで何の意味もなさなくなるかもしれないのです。また、知能ばかりがむやみに高くなりすぎると、それこそガリバー旅行記に登場するラピュータ島の住人のようになって、かえって不適応を呈してしまうかもしれません。
「スクリーニング検査」は、うつ病や強迫神経症、アルコール依存症など、特定の疾病の可能性が高いかどうかを判定するものです。
この手の検査は多数作成されており、広く世間に出回っているものもありますが、検査結果だけから診断が下せるわけでは決してありません。診断は医師にしか下せないという現実的な事情ももちろんありますが、正確な診断のためにはスクリーニング検査の結果のみならず、生活史や病歴などの情報を詳しく聴取することも非常に大切です。また、スクリーニング検査に対する回答者の態度によって結果は大きく変わってきますし、結果を操作することも実に簡単です。
筆者は学生時代、うつ病で通院中の患者さん数十人と、一般大学生数十人とにうつ病のスクリーニング検査を実施して、両者の得点を比べてみたことがあります。そして、その集計結果を見て唖然としました。うつ病患者群よりも一般大学生群のほうが有意に得点が高い(=うつの度合いが重い)という結果が出たのです。これは推測ですが、うつ病患者の方々は「この程度のつらさで大騒ぎしていては申し訳ない」という気持ちで回答された一方で、一般大学生の人たちは「学期末テストも迫ってるし超ユウウツ!!」みたいなノリで回答されたのではないでしょうか。
ですから、スクリーニング検査の結果はあくまでも参考程度にとどめるほうがいいと思います。ただし、ご自身でスクリーニング検査をやってみて結果が高得点であったなら、それは疾病の可能性もあるということですから、いちど専門家(精神科・心療内科やカウンセリングルームなど)に相談してみられるほうがいいかもしれません。
当法人では心理テストとして、心理検査(当院医師による診察と指示が必要ですが医療保険制度が利用できます)と、メンタルチェック(医師による診察と指示は必要ありませんが全額自己負担となります)のいずれも行っています。興味をもたれた方は、主治医もしくはカウンセリングルームまでお問い合わせください。
文責:臨床心理士・名倉