おうばく通信
おうばく心理室コラム
2011年7月 5日 (火)
【おうばく心理室コラム/2011年7月】「カウンセラーと人生経験」
いよいよ暑さも本格的になってきた昨今に恐縮ですが、今回は「カウンセラーと人生経験」という暑苦し~いテーマで書いてみたいと思います。
はじめてカウンセリングをご予約くださるとき、「こういったタイプのカウンセラーでお願いしたいのですが…」という希望をあらかじめ伝えてくださる方がいらっしゃいます。「相談の内容的に女性カウンセラーのほうが話しやすそうなんです」「トラウマ経験に対するカウンセリングが得意なカウンセラーさんはいますでしょうか?」などなど……。
こういったご要望については、可能なかぎりご希望に沿えるよう対応させていただいています。ただ、ご希望に応じきれない場合があるのも事実です。
そのひとつが「年配のカウンセラーがいいんですが……」というケース。当カウンセリングルームのカウンセラーの年齢層は比較的若く(といっても三十代~四十代が中心ですが)、五十代・六十代のいわゆる「人生経験豊富なカウンセラー」は在籍していないからです。
年配カウンセラーを希望される理由をうかがうと、しばしばお聞きするのが「自分自身が苦労を経験してきたから、カウンセラーもそれ相応の経験を重ねてきた人のほうがいい」という言葉です。結婚や子育て、嫁姑問題、場合によっては離婚問題など、さまざまな修羅場をくぐり抜けてきたカウンセラーのほうが自分の悩みをよく分かってくれるだろうし、いいアドバイスを頂けそうだと。
たしかに一理も二理あるご指摘です。ふつうに考えれば、人生経験の乏しい若造よりは、酸いも甘いもかみ分けた人生の達人のほうが、大局的な視線から的確なアドバイスをしてくれそうに思えます。
ただ、カウンセリングという治療的場面においては、それだけではない側面があると考えています。
これと似たものに、「自身が病を経験した医師にしか、その病の本当のつらさは分からないし、いい治療もできないのではないか」というご意見があります。確かにそのような側面もあるかもしれませんが、同じ病気を経験したとしてもその感じかた、受け止めかたは十人十色なのではないでしょうか? また、ご自身もしくは身内のかたが認知症の治療のため受診したとき、主治医も同じく認知症であってほしいと思われるでしょうか?
カウンセリングの場合もこれと同じく、個人的な問題を乗り越えた経験を持つカウンセラーは、「私はこうやって問題を乗り越えたのだから、アナタも同じようにすればよろしい」式の独断的なアドバイスに陥る可能性があるかもしれません。カウンセラー自身にはその解決策がよかったのかもしれませんが、それが他の人にも当てはまるとは限らないのが難しいところです。また当然のことながら、カウンセラーが自らの問題で疲れきっているようでは、来談者の方々を十分に援助することはできません。
さらにもうひとつ、治療のうえで大切なポイントとして、「自分で考えて自分で決断していく力を患者さんに身につけていただく」という視点があります。患者さんのこれからの人生を考えると、ずっとカウンセラーが併走するわけにはいきません。だからこそカウンセラーは、直接的なアドバイスを言いたくなってもそれをすぐに提案するのではなく、患者さんが自ら答えを見いだすまでのプロセスをあえて重視することがあるのです。
人生経験豊富な年配カウンセラーがいないことは、当カウンセリングルームの弱点であるかもしれません。しかし逆に言えば、比較的若いカウンセラーが多いことで、人生経験や権威にとらわれない面接を提供できるという面もあると考えています。
末筆ながら誤解が生じてはいけないので申し添えると、年配のカウンセラーは独断的なアドバイスに陥りやすいとか、権威にとらわれがちであるとか、そのような偏見を持っているわけでは決してありません。また、我々のように比較的若いカウンセラーこそ、知識や経験の乏しさを補って幅広く柔軟な視点を持つことができるよう、専門知識についてはもちろん、文化的・社会的素養を幅広く会得するべく一層の研鑽を積まなければならないと感じています。ただ、カウンセリングの良し悪しは「年の功」だけで決まるのではなく、「技術」によって決まる部分のほうが多いのではないかと。自戒を込めつつこのように思うところもあることをお伝えしたかったのです。
常日頃から貴重なアドバイスをくださる人生経験豊富な方が身近にいらっしゃるとすれば、それは大きな財産だといえるでしょう。その一方で、身近であるだけに、相手に対して「こうあるべきだ」という価値判断や「こうあってほしい」という希望的観測が入りこんで、冷静な判断を下せなくなる場合があるのも事実です。
そんなときはもしかすると、人生経験にとらわれることなく状況を判断するための訓練を受けた我々「若輩」カウンセラーがお役に立てる好機かもしれません。状況に行き詰まりを感じられたときには、是非お気軽にご相談ください。
文責:宇治おうばく病院 臨床心理士・名倉