おうばく通信
おうばく心理室コラム
2011年6月 3日 (金)
【おうばく心理室コラム2011年6月】「カウンセリングと精神医学」
宇治おうばく病院の心理室から月に1回、カウンセリングや心理学にまつわるコラムを発信します。カウンセリングについてのよもやま話や、日常生活に役立つ(…かもしれない?)心理学のトピックスなどを書き連ねていく予定ですので、よければ今後ともご笑覧いただければ幸いです。
「おうばく病院には診察とカウンセリングがあるけれど、どちらを受ければいいのか分からない!」「そもそもカウンセリングって何をするの?」…こんなお問い合わせをいただくことがあります。そこで今回は、診察とカウンセリングの違いをテーマとして書いてみたいと思います。
精神科の診察は精神科医師が担当します。精神科といえども内科や外科などと同じく医学をベースとしていますので、病気を治すこと、すなわち診断をくだして問題の原因を除去・解決することが目的となります。身体疾患の診察を思い浮かべると分かりやすいのですが、たとえば細菌感染による肺炎と診断された患者さんの場合、「××菌が原因となっているから、○○タイプの抗生物質を投与して××菌をやっつければ病気は治る」といった具合に治療がすすめられます。精神科の場合も基本的な考えかたは同様で、治療は薬物療法が中心となります。
一方、カウンセリングは心理カウンセラー(当院の場合は臨床心理士)が担当します。カウンセリングは心理学をベースとしており、医学と心理学とのあいだには根本的な違いがあります。それは、医学が「病気」を対象としているのに対して、心理学は「こころ」を対象としている点です。だからこそ、心理学で扱うテーマには「つり橋効果」(恐怖を感じるような場所で出会った異性同士は恋仲に落ちやすいという有名な実験。もちろん異性でなく同性同士の場合もあり得ます)や、「ロメオとジュリエット効果」(逆境の恋ほど燃えやすいという仮説)など、病気とは直接関係のない、人間の普遍的なこころ全般を理解しようとするものが多く見られます。
カウンセリングの生い立ちもこれと同様、はじめから医療現場で発展してきたものではなく、少なくともわが国では大学における学生相談から広まっていきました。病気の人たちを対象とするというよりは、さまざまな悩みを抱えながらも普通の日常生活を送っている人々に対して、どのような援助ができるかを考えていくというのがカウンセリングの出発点なのです。
カウンセラーは医師ではないので、診断を下したりお薬を処方したりすることはできません。ただ、一般的には医師による診察が投薬中心で、診察時間もあまり長くはとれないのに対して、カウンセリングでは時間をかけてじっくりお話を聴かせていただきながら、こころの葛藤や問題を一緒に解決していきます。また、診察や薬物治療が必要そうだと判断されたときには、当院の精神科医師につなぐこともできます(医師との連携をとりやすいのは当カウンセリングルームの強みだと自負しています)。
こころの悩みを抱えているけれど病院に通って薬を飲むほどなのかどうか分からないという場合、まずはカウンセリングを受けてみられるのがいいかもしれません。その中で、精神科受診が必要なのか、あるいはご家族への介入も必要なのか等のアセスメントもさせていただきますので、どうか気軽にご来談いただければ幸いです。
文責:宇治おうばく病院 臨床心理士・名倉