おうばく通信
BUCきょうと機関誌『ばっくる』連載エッセイ
2011年3月28日 (月)
月刊きょうと/「めくるめく『テツ』の世界その4」(2011年4月)
今回は利用者のてんてんさん(男性)に、鉱物の鉄のイロイロについて書いていただきました。
原子番号26番・元素記号Fe。その名は「鉄」。
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「鉄」は「古代の七金属」のひとつで(他は、金・銀・銅・錫・鉛・水銀)、鉄器時代という呼び名があるように、先史より用いられてきた。
現代でも、自動車のボディー(高張力鋼(ハイテン))・建築物の鉄骨(H型鋼など)や鉄筋・家電の筺体・スチール缶・ステンレス包丁、など、鉄を目にしない日はほとんどないのではないだろうか。
軽さと丈夫さとの両立が重要な航空宇宙産業を除くほとんどの重工業において、加工のしやすさや強度などの観点から、鉄が主役の座を占めている。
また、ポリ硫酸第二鉄(ポリ鉄)という薬剤が下水処理に用いられているなど、化学産業でもさまざまな形状で利用されている。
鉄はそのままでは非常に錆びやすい。そのため、表面塗装や合金化などさまざまな防錆加工が施されて使用される。鉄とニッケルやクロムなどとを合金化して錆びにくくしたステンレスは、stain(錆)+lessと書き、文字通り「錆びない鉄」を意味する。
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「鉄」は、生体内でも「酸素の運搬」という大きな役割を担っている。
ヒトの血液に含まれるヘモグロビンは、中央に「ヘム鉄」と呼ばれる鉄イオンを持つ。
肺で酸素を受け取り、酸素がヘム鉄に結び付くことで、酸素を身体の隅々に運搬する。
身体の隅々では、そこで生成した二酸化炭素とヘム鉄に結合した酸素とを交換し、今度は二酸化炭素がヘム鉄に結び付く。そして、二酸化炭素を肺まで運搬し、呼気に二酸化炭素を放出する。
動脈血(鮮やかな赤色)と静脈血(暗赤色)の色の違いは、ヘム鉄に結びついている酸素と二酸化炭素の違いに起因する。
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「鉄」は、古代エジプトでは破壊の神・セトの象徴となり、古代ギリシャの歴史家・ヘロドトスは人間の苦痛と結びつけた。
さらに、西洋占星術や錬金術においては軍神・マルスと関連付けられ、マルスを意味する火星の象徴でもある。これらは、鉄が強力な武器として利用された、また、鉄錆はくすんだ血のように見える、などというイメージに関係があるのかもしれない。
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「鉄」はさまざまな鉱物に含まれ、その鉱物特有の外観を示す。
最後に、鉄を含む鉱物について写真を添えて紹介する。
「アクアマリン」
和名は「藍玉」。基本成分はエメラルドやゴールデンベリルと同じで、ベリリウム・アルミニウム・ケイ素から構成される。
アクアマリンは、微量の鉄を含有することによって淡青色を示す。
ギリシャ・ローマ神話では、海の妖精の宝物が浜辺に打ち上げられて宝石になったもの、とされ、海難防止や豊漁のお守りとされてきた。持つ人の精神を鎮め、穏やかで平和な気持ちに導くと言われる。
「アメジスト」
和名は「紫水晶」。二酸化ケイ素が微量の鉄を含んで結晶化し、さらに天然放射能の影響を受けて紫色になっていると考えられている。
紫は宗教的・霊的権威の高い色とされ、古代から装飾などに使用されてきた。精神的不調を緩和し、隠された能力や魅力を引き出す力があるとされる。
「ガーネット」
和名は「柘榴石」。ガーネットにはいくつかの種類があり、基本成分であるケイ素の他に含まれる元素によって色や呼び名が変わる。
最も多く出回っているのが暗赤色のアルマンディンで、ケイ素の他にアルミニウムと鉄を含む。
西洋では古くから神聖な石とされてきた。忠実さや貞節を守り、身体中に活力をいきわたらせる力があると言われる。