おうばく通信
BUCきょうと機関誌『ばっくる』連載エッセイ
2010年3月31日 (水)
月刊きょうと/「日本の農村の原風景」(2010年4月)
今回は利用者のNさん(男性)に、昔ながらの風景の魅力について書いていただきました。
「日本の農村の原風景」とよばれるところが、京都府の南丹市にあります。今は残念ながら合併により南丹市の一部になってしまいましたが、それまでは北桑田郡美山町となっていました。
美山町という名のとおり、右を見ても左を見ても山、山、そして山。夏は川で河童になり、冬は雪山でそりすべりというのが、子どもの遊びでした。
そんなのどかな美山町の産業は林業が中心であったため、若者は職を求めて都会へ出て行き、年々過疎化が進みました。
人口の減少が止まらない中、平成五年、文化庁は美山町の北地区を「重要伝統的建造物保存地区」に選定しました。選定された理由は、豊かな自然の中でかやぶきの古い民家がたくさん残っていたからだと聞いています。
かやぶきの民家はそのほとんどが江戸時代に建てられたもので、屋根の傾斜が急なため、冬は積もった雪が滑り落ちるようになっています。また、夏は「かや」のおかげで涼しい暮らしができます。
どの家も平屋建てで、大きな黒い柱が家屋を支えています。屋根は四面あり、二十年から二十五年に一回は葺き替えを行います。
家の中の改装は認められていますが、屋外の改装は一定の規制があり、かやぶきの屋根も守っていかなければなりません。
北地区には、コンビニやスーパーはもちろんありません。電車も走っていません。あるのは山、田畑、川、そしてかやぶきの民家です。
今もお葬式を村人が協力して自宅で行うなど、昔ながらの風習がたくさん残っています。
選定後、テレビや雑誌などに多く紹介され、土日や祝日には観光バスやマイカーに乗って、たくさんの方が訪れるようになりました。
日本各地からだけでなく、海外からも「日本の農村の原風景」を求めて北地区の中を散歩されています。カメラやスケッチブックを持った方もたくさん訪れます。指定の駐車場に停めれば、誰でもすぐに散歩ができます。
途中、民族資料館やちいさな藍染美術館、きび工房などがあり、民宿で宿泊される方もおられます。民家の屋根にはそれぞれ家紋が記されており、それを探すのも楽しい散歩になります。
春にはふきのとうと雪解け水、夏には川面を飛ぶ鮎、秋には紅葉、冬には真っ白な雪が出迎えてくれます。うまくいけば、かやの葺き替えの様子を見学することもできます。都会育ちの方ならきっと「癒し」が見つかるはずです。
紹介した美山町は私が育った故郷です。子どものころは気づかなかったのに、大人になってから土の感触や、緑のまぶしさを感じるようになりました。
「日本の農村の原風景…北地区」に是非、一度足を運んでみてください。昔ながらの赤いポストが出迎えてくれます。
(かやぶきの里北地区は、宇治市から車で二時間ほどです。かやぶきの民家は見せるためでなく、実際に村の人が生活を営んでいますので家の中を見学することはできません)