おうばく通信
BUCきょうと機関誌『ばっくる』連載エッセイ
2009年1月 1日 (木)
月刊きょうと/「まち」巡りの楽しみ(2009年1月)
今回は利用者のねんねこさん(男性)に、街めぐりの魅力について書いていただきました。
旅好きな人は多いと思いますが、私の場合、温泉やリゾートよりも「まち(都市)」を訪ね歩くことが好きです。
都市は人間が時間、手間、財をかけて築いた最大の創造物で、そこには自然条件、歴史、人々の営みなどいろんな要素が積み重なって、「まち」の個性を形作っています。
日本国内ではその地方ごとに、外国では国ごと地域ごとに違いがあり、一方で共通性があり、それを見聞きし、味わい、比較することが楽しみを広げてくれます。
ところが悲しいことに、近頃「まち」の個性が見えにくくなっているように思います。特に国内で画一化が進み、全国至る所東京や大都市圏にある都市の様相を呈しているのです。
人は物質的な豊かさと利便性を求め、都会への憧れ(或いはコンプレックス)を持つのかもしれません。そのために駅前の再開発ビルやバイパス道路沿いの巨大ショッピングモールの出現を歓迎するのでしょう。
しかしその結果、時間を経て集積されたものが消えていきます。駅前や中心市街地に人影はまばらで、かつて個性を競ったであろう商店街は、シャッターにより閉ざされています。
地方都市におけるこのような光景は、皆さんも目の当たりにされていることでしょう。
ヨーロッパで、パリ、ローマやロンドンといった大都市を少しはなれ、その地方の中心都市や、中世の町並みそのままの小さな町を訪ねてみてください。教会、広場、市役所や市場といったものを中心に市街地が形成され、一見どこも同じように思えます。
しかし、建物に使われた部材や屋根の色が異なりますし、住民は古くからの景観を大切に守りながら現代生活に生かしています。市場には地元産の野菜、果物、魚介類に特産のチーズや菓子が量り売りされています。
市場はお昼過ぎには閉まりますのでスーパーのような利便性には欠けますが、結構な繁盛です。もちろんショッピングモールが郊外に立地するなど、日本と同じ状況下にありますが、個性は健在であると感じます。
この違いは何に由来するのか。「衰退」に悩む地方都市の人々は考える必要があるのではないでしょうか。
ただ食べ物に関しては、日本の「まち」の個性は光っています。むしろヨーロッパのそれよりも多様性は誇れるように思います。地元産の生鮮品はもちろんのこと、城下町や門前町の名物和菓子、地酒に酒の肴。左党はそれを楽しみに夜の街に繰り出します。
「これに加えて風情ある町並みがあればなあ」と期待するのは贅沢でしょうか。
最近はご当地ラーメンにやきそば、うどんに餃子といった所謂B級グルメを目玉にして、全国に「まち」を売り出すところが増えてきました。その土地に由来したり、特産物を使って伝統の味付けをされた料理は、食べ歩き好きの旅人にはこたえられません。
これが一つのきっかけになって、人々が「まち」に集まり、賑わいを取り戻してくれないかと期待しています。
東京・首都圏への一極集中はつまらないと思います。それぞれの地域、「まち」が多様性を保ち、再び個性や文化が花開くことを願っています。