理学療法・作業療法
ワンポイントアドバイス
2010年4月18日 (日)
ストレッチをして嚥下機能を高めよう!
みなさんはストレッチをして身体も心もほぐれた経験があるでしょうか?
ストレッチとは「伸ばす」「引っ張る」という意味で、身体の各部分の筋肉を伸ばす運動のことで、あくびをしたり両腕を上げて伸びをするのもストレッチの一種です。
ストレッチの効果として、『1.リラックス効果、2.柔軟性を高めて怪我の予防、3.血液の循環を高め、筋肉痛を予防すること』がよく知られています。
在宅介護で使える嚥下機能を高めるストレッチング
「食事の際に時々むせる」「なんとなく飲み込みにくい」などが気になる方は、嚥下機能が低下している可能性が考えられます。老化に伴い、また脳卒中やパーキンソン病などの神経筋疾患などにより嚥下機能の低下がみられます。嚥下機能とは、食物を口に入れ、咀嚼して飲み込む働きのことです。
ではなぜむせるのでしょうか?
嚥下機能が低下していると、食物や水分を飲み込んだとき、誤って気管に入ってしまう「誤嚥」が起こりやすくなります。幸い、ひとのからだには気道内に異物が侵入するのを防ぐ働きが備わっており、誤嚥しても異物を出そうとする働きとして咳反射、すなわちむせ込みが起こるのです。
誤嚥した物質により引き起こされる肺炎を誤嚥性肺炎といい、高齢者には栄養状態や年齢、免疫力や先述の防御能の低下により発症しやすい状態となります。高齢者の肺炎の70%以上が誤嚥と関連があるとされており、日本での死因統計では、肺炎は悪性新生物・心疾患・脳血管障害についで第4位となっています。肺炎で死亡する人の94.4%は65歳以上の高齢者です。
在宅介護をなさっている方のなかには、在宅生活者が食事の際、誤嚥せずによりおいしく楽しくとれることを望まれている方も多いのではないでしょうか。
では嚥下機能を維持や向上するためにはどうすればよいのでしょうか?
唾液や食べ物を正常に嚥下する機能を維持することに加え、頚部・体幹による姿勢保持や呼吸機能の維持、環境整備が重要となります。
誤嚥しないよう嚥下能力(食物を口から胃まで送り込む力)を改善するための方法の1つとしてストレッチング(以下、ストレッチ)があります。運動をする前に準備体操をするように、食べる前に嚥下体操を行うことで、食べることに関わる筋肉の働きが良くなり、安全に食べることにつながります。
今回は、在宅介護をされている方に向けて、嚥下機能を維持や向上するストレッチを紹介します。
ストレッチにより嚥下に関わる筋の筋緊張の低下、関節可動域の改善を促します。良好な嚥下を促す為に直接嚥下に関わる筋だけでなく、それらの周囲の筋もしっかりと固定されている必要があります。そのため、土台となる筋についてもストレッチを行います。
ストレッチを行う筋は、1.胸鎖乳突筋、 2.斜角筋、 3.僧帽筋、 4.舌骨上・下筋群です。なお、直接嚥下に関わる筋は「4」、土台となる筋は「1」「2」「3」です。
さあ、実際にやってみましょう!
<注意するポイント>
1.ストレッチは筋に痛みの起こらない範囲でゆっくりと行うこと
2.呼吸を止めないよう指示すること(リラックスしてもらえるように)
3.ストレッチの時間は20秒前後を基本とします
4.頸部(首)のストレッチを行うため、頸部の症状(RAによる環軸椎亜脱臼、変形性頚椎症など)がないことを確認してから行うこと
<ストレッチの方法>
ストレッチ(20秒前後)→リラックス→ストレッチ(20秒前後)
1.
胸鎖乳突筋のストレッチ
まず右側をストレッチする場合、被介護者の頭を後ろへ反らし、左に傾けます。そして、右に回します。
介護者は右手を相手の肩に置き、左手は側頭部にあてます。その位置で20秒間ストレッチを行います。
左側も同様に、左右反対にして行います。
→別ウィンドウでご覧になる方はコチラ!(MPG形式ファイル/約300KB)
2.
斜角筋のストレッチ
まず右側をストレッチする場合、被介護者の頭を後ろへ反らし、左に傾けます。このとき、頭を後ろへそらす角度を1.より少なくします。そして、右に回します。
介助者の把持する手の位置は1.と同じです。その位置で20秒間ストレッチを行います。
左側も同様に、左右反対にして行います。
→別ウィンドウでご覧になる方はコチラ!(MPG形式ファイル/約300KB)
3.
僧帽筋上部線維のストレッチ
まず右側をストレッチする場合、被介護者の頭を左に傾けます。
介助者の把持する手の位置は1.と同じです。その位置で20秒間ストレッチを行います。
左側も同様に、左右反対にして行います。
→動画をご覧になる方はコチラ!(MPG形式ファイル/約300KB)
4.舌骨上・下筋群のストレッチ
被介護者の頭を後ろに反らします
介助者の把持する手の位置は、一方を胸の前、もう一方は額にあてます。
→別ウィンドウでご覧になる方はコチラ!(MPG形式ファイル/約300KB)
ストレッチしている姿勢を固定しにくい方は、別法(左の写真)をご覧下さい。別法では、介護者が両手で被介護者の額を把持し、肩甲帯にあてて頭を反らしていきます。
食事は生活リハビリの第一歩
「食べる」それは命あるものにとって、生きるために欠かすことのできない本能的欲求行動です。ひとにとって食べることは異なる本能的行為だけでなく、よりよく生きたいと願う生活の質、生きる意欲の向上につながります。食べるために使う脳の神経支配領域は7~8割を占めるといわれています。言い換えると、食べる機能を活性化することで脳の機能回復をさせる助けとなります。障害を持っている方にとって、おいしく食べることは健康への最も近いリハビリテーションなのです。
文献
1)摂食機能療法マニュアルp.1
2)臨床老年看護vol.15
no.1 p65-69
3)臨床老年看護vol.16 no.1 p81-85