おうばく通信
おうばく心理室コラム
2019年1月 5日 (土)
【おうばく心理室コラム/2019年1月】「公認心理師の国家試験について~楽しく勉強するためのコツ」
業界の裏話になってしまいますが、今年度(2018年)は「公認心理師」という国家資格がスタートした年として、私たち心理カウンセラーにとってひとつの節目となりました。
心理カウンセラー業界にはそれまで、国家資格は存在しませんでした。最も一般的で信頼できる資格は実質、大学院修了と試験合格が求められる協会認定資格「臨床心理士」のみであり、それ以外はさまざまな学会資格や民間資格が林立している玉石混交の状態でした。
そこに突如として現れた国家資格の「公認心理師」に、私たち心理カウンセラーは騒然となったのです。
公認心理師は既存のいかなる心理系資格とも無関係で、誰もが新たな国家試験を受けて合格しなければ資格を得ることができません。受験資格には一定の制限がありますが(所定の臨床経験や単位取得など)、それらを満たすベテラン心理カウンセラーであっても国家試験に落ちてしまえばアウトですし、試験問題はすべてマークシート形式なので、論述問題や面接でのお情け合格も一切期待できません。事前に公表されたその出題範囲は心理学全般にとどまらず医療、教育、福祉、司法犯罪その他と広汎にわたっていて、私たちの多くが「これはちゃんと勉強し直さないとマズいかも……」と腹をくくったのでした。
程なくして第1回の国家試験は2018年9月9日と告示され、この日に向けてそれぞれが備えることになりました。当カウンセリングセンターのスタッフは同年4月から月に一度のペースで勤務終了後に集って、想定される問題をみんなで解いて答え合わせするという勉強会をスタートしましたが、それ以外は各自のペースで勉強に取り組みました。
結果から申し上げると、私を含めて当カウンセリングセンターの受験者全員が合格できたので、一同胸をなでおろしているところです。そこで本稿では、受験に向けた勉強法についてご紹介してみたいと思います。
……といっても勉強への熱意は人によって温度差が大きく、試験日告知から早々に取り組む者から、直前の2週間に追い込む! と決めて何も手をつけない者まで正にさまざま。ただ、皆に共通していたのは、どれだけ勉強すればいいか分からないことへの不安と、学生時代に学んだ内容を一から勉強し直すことへのモチベーションの上がらなさでした。
私の場合は、受験資格を得るために2018年2月の時点で5日間の「現任者講習」に出席する必要があって参加した後、しばらくは勉強に手をつけず過ごしたのですが、ある時点で次のように考えて実践しました。
◆1回で合格するぞ! という気持ちで臨む
受験のチャンスは今後も年1回(最大5回)ありますが、初回に落ちるとその後も浪人のような日々を過ごすことになって何倍ものストレスを感じることになりそうなので、1回で合格するぞという気持ちで臨みました。
◆心身に無理のかからないペースで「If Then プランニング」を組む
強い気持ちで臨むのはいいのですが、私もとうに40代半ばで、若い頃に比べると記憶力も瞬発力もおそらく低下しています。試験直前に睡眠時間を削って勉強するといった荒行は、学生時代こそ何度も繰り返しましたが、この歳でやろうとしても心身が持たないだろうことは明らかで、ならば毎日コツコツやるしかありません。
そこで、試験の数ヶ月前から「毎日寝る前に、21時から21時半の30分間勉強する!」と決めて実行することにしました。○○になったら××する式の「If Then プランニング」と呼ばれるやり方は自己コントロール力を高める効果が大きいといわれています。やる気があろうとなかろうと、とにかく21時になったら机に向かって勉強始める……と、当初はやる気が出なくても次第に気分が乗ってきたりするから不思議なものです。逆にどれだけ気分が乗ってきても、30分経ったらそこでストップする。名残惜しいくらいで終えると翌日、続きを勉強するのがちょっと楽しみになります(笑)。
こうやって毎日30分の勉強を、ほとんど歯磨きのような習慣にすることで次第に、苦痛なく当たり前のルーチンとして、むしろやらないと気持ち悪いくらいの感覚で自動的に行えるようになりました。
◆休息日を設ける
ただし土曜の夜は休息日と決めて、勉強は全くせずに好きなだけ遊びに出たり飲みに行ったりしました(笑)。日常生活を犠牲にしすぎると「我慢している」という感覚が募ってストレスになりますし、週に1回の休息日を楽しみにしたほうが平日の勉強にも張り合いが出るからです。
◆試験のためだけでなく自分の知識を深めるためと考えて勉強する
試験合格のためだけの勉強は、合格という目的のための「手段」に成り下がる結果、仕方なく取り組む苦行に陥ってしまいがちです。そうではなく、心理学という学問を周辺領域もふくめて勉強し直すことで知識が深まり、それが仕事に活かせるかもしれないと考えて取り組むことで、勉強がイヤにならないよう意識しました。
それが実はこのコラムにも反映しています。今年6月は脳科学と認知的不協和理論について、7月はヤーキズ・ドッドソンの法則について、8月は自律神経と免疫機能について、9月は社会的促進効果について……と学術的な内容に偏っているのは、いずれも試験勉強で得た知識を「これってコラムのネタになるかな~」という発想から書き連ねたからでした。試験本番には残念ながらいずれも出題されませんでしたが(笑)、業務においてはときどき役立っている気がします。
◆丸暗記的な勉強と体系的な勉強との両立
受験のためには、単語や数字を丸暗記しなければならない部分(法律や施設基準など)と、体系的な理解が重要な部分(行動理論やパーソナリティ理論の発展など)の両方を学ぶ必要があります。どちらかだけでは片手落ちになるので、両立することを心がけて勉強しました。
関係者向けの内容になってしまいますが、実際に私が用いたテキストは次の6冊です(個人的に役立ったと感じた順に上から並べています)。
『公認心理師現認者講習会テキスト(2018年度版)』
『公認心理師必携テキスト』
『公認心理師試験これ1冊で! 最後の肢別ドリル』
『臨床心理学頻出キーワード&キーパーソン事典』
『公認心理師エッセンシャルズ』
『ヒルガードの心理学(第16版)』
結果的には『公認心理師現認者講習会テキスト』だけでも大丈夫だったように思いますが、それ以外のテキストも目を通しておくことで体系的な理解が深まりました。
『ヒルガードの心理学(第16版)』はかなり分厚い書著で、私も全て読んだわけではなく、正直なところ読む必要もないと思います(笑)。個人的に大学院時代に敬愛していた故・Suzan Nolen-Hoeksema 先生が監修された著書ということもあって、趣味半分に読んでいただけなのですが、心理学に対する知的好奇心が満たされる概論書という点では非常に良著で、心理学全体を俯瞰しながら楽しく学び直すことができました。
◆手書きノートを作る
楽しく勉強するのも大切である一方、試験対策として丸暗記しなければいけない項目については手書きノートを作って覚えるようにしました。といっても大学ノート1冊に収まる分量ですが、主要な法律や理論について自分なりに手書きでまとめてみると、それだけで理解が深まりますし、後から思い出す際も「あのページにああいう風に手書きしたよなー」と映像として頭に浮かびやすくなります。
また、高校時代によく用いた「赤ペンマーカー+緑色の下敷き」で主要な部分を見えなくして、虫食い問題にしながら覚えたのも自分には効果的でした。知識が定着しているかどうかを確認するには問題形式が最も確実ですし、記憶に定着させる効率も高いように思います。
…というわけで、私がどのように公認心理師の試験勉強に取り組んだかをご紹介してみました。ただ、上記以外にも同僚によるサポートや勉強会などがありましたし、試験直前の1ヶ月間は模擬試験も解いてみたりと少し長めに時間を取りました。
試験問題と解答は一般にも公開されていますので、末尾にリンクを貼っておきます。全154問で、知識問題が1問1点、事例問題が1問3点、満点230点中138点以上が合格となっています。
私の場合は基準ラインから50点少々の余裕を持っての合格だったので、結論から言うと、ここまで勉強しなくてもよかったということにもなります。その一方で、今回の試験を機として心理学をもう一度勉強し直したことで、新たな発見や理解があったのも事実です。公認心理師の試験を受けることになった当初は正直、「勉強するのイヤだなあ…面倒だなあ」と思ったのが事実ですが、大局的にみると自分にとってプラスになったように感じています(というか、このように考えることで苦行を好機にすり替えようとする自分なりの工夫であり、合理化でもあったわけですが。笑)。
もちろん、今回の第1回公認心理師試験について手放しで喜べる状況ではありません。出題内容については、知識問題には単なる「心理学ものしりハカセ」的な内容も散見されましたし、事例問題は内容が浅く短絡的な判断が正答とされる傾向が見られましたし、これらの出題によって心理職としての質が本当に担保できるかどうかには疑問も残る内容でした。国家資格を取得してからもそれぞれが生涯研鑽を続ける必要があるという、至極当たり前のことを改めて痛感させられます。
今回の国家資格取得をひとつの節目として、新たな気持ちで襟を正して業務のさらなる充実につとめていきたいと思っています。末筆になりますが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
文責:臨床心理士・名倉
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公認心理師試験2018年9月9日実施問題(午前の部)PDFファイル