おうばく通信
おうばく心理室コラム
2018年10月 5日 (金)
【おうばく心理室コラム/2018年10月】「個人的に最も効果を感じているストレス解消法は…」
今年の夏は記録的な猛暑、疲れが残っている方も多いのではないでしょうか? 疲労回復やストレス解消に良い方法としては、さまざまなデータや意見が出されています。
アメリカ心理学会(APA)が健康的で優良なストレス対処法として挙げているものには、「運動(エクササイズや散歩)」「音楽鑑賞」「サポーティブな対人交流」「ヨガや瞑想」などがあります。
近年では『世界のエリートがやっている 最高の休息法』(ダイヤモンド社・刊)という著書のヒットが記憶に新しく、おもに脳科学の観点から、頭の疲れを効率よく軽減するためにマインドフルネスを中心とした技法が紹介されていました。
マインドフルネス瞑想にストレス解消効果があることはデータとしても実証されており、私自身も興味を持って継続しています。ただ、そのポイントの理解と習得には若干の手間と時間がかかりますし(私自身マインドフルネスは著書だけでなく講座や研修に何度か参加して、日常でも折を見て実践を続けているのですが、ちゃんと会得しているかどうか未だに疑問です…笑)。また、マインドフルネスの詳細を本欄で説明するのも難しいので、こちらについては世の良著を是非ご参照いただければと思います。
このあたりのトピックスについては、過去の接コラム「デフォルトモード・ネットワークと、脳を休ませる力」(2017年10月)で簡単に触れています(我ながら舌足らずで忸怩たる原稿ですが)。
個人的に心身の疲れに高い効果を発揮すると個人的に感じているのはズバリ、「緑(自然)が豊かな場所での軽い運動」です!!
あまりにも当たり前すぎて、なーんだと思われたかもしれませんが、心理学を通じて自分なりにさまざまなストレス解消学を勉強しながら実際に試行錯誤してみた結果、ここに行き着きました。
運動が脳内分泌を整えてストレス解消&気分改善につながることは、冒頭に述べたアメリカ心理学会の報告にもある通り、多くの研究によって実証されています。ただし、運動しすぎるのも逆効果で、過度の身体的負担や痛みからかえってストレスが増加したり、体内の活性酸素の増加や長時間の紫外線暴露によって身体的老化が加速したりといった弊害が現れるようになります。だからこそ、「軽い運動」が最も好ましいというわけです。
いくつかの文献の知見をふまえると、大きな持病のない一般的な人々に関して、日々の運動量の目安は次のようになりそうです。
・下限:最低でも1日30分のウォーキングを!
・上限:毎日のジョギングでは距離10km以内、平均速度5分30秒/kmまで!
同じ運動をするなら、コンクリートとアスファルトで固められた市街地よりも、緑が豊かで眺望のよい場所のほうが、大きなストレス改善効果が得られます。
私たちは植物などの自然に触れると安らぎを感じますし(植物が豊かな場所=生存に適した場所という遺伝子レベルの刷り込みがあるのでしょう)、見晴らしのよい場所は「あたりに外敵がひそんでおらず安全だ」という太古からの記憶によって、私たちを本能的なリラックス状態へと導いてくれます(眺望がよく人間にとって心地よい高台などは、イノシシや鹿といった動物たちにも人気のスポットだったりします)。さらに、植物から分泌されるフィトンチッドなどの健康成分よる効果も期待できます。科学的にも実証されつつある森林浴の効果には、こういった背景があるものと考えられます。
これらはおもに精神面のストレス解消効果ですが、身体面の疲れについても実は運動が効果的です。もちろん激しい運動は疲労を増幅させますが、私たちの身体はじっとしているよりも軽く運動するほうが疲労物質の代謝が促されるのです。マラソン選手などが「疲労抜きジョグ」といって、ハードな練習の後にゆっくり走るのはこのためです。
さらに言うなら、私たちは孤独なときよりも、仲間と過ごしているときのほうが、安心感を抱いてリラックスできる特性を持っています。一人で運動するのも決して悪くないですし、誰に気をつかうことなくマイペースでエクササイズできるのは利点でもあります。ただ、心理学的見地からすると、仲間と一緒にエクササイズすると一層のリラックス効果・ストレス解消効果が期待できそうです。気心知れた仲間と活動するのが一番ですが、サークルなどのグループへの参加や、あるいは他人同士であってもジョギング客やハイキング客が集まる場所に足を運ぶのもいいかもしれません。
そんなわけで、個人的に最強と感じているストレス解消法は、「自然が豊かな場所での軽い運動(できれば仲間と一緒に)」なのです。たとえば、ふだんは近所の緑地公園を20~30分ほどウォーキング or ジョギングして、休日は仲間とハイキングに出かけるというように、無理なく長く続けられるペースを習慣にしていただければ幸いです。
……といったことを申し上げると、反論をいただくことも多々あります(笑)。
「頭では分かっていても、なかなかできないんです」
「調子がすぐれない日は、外出するのもしんどいんです」
「運動なんて久しくやっていなので、少し歩いただけで身体が痛くなるんです」
「こういのうって、元気な人たちの論理なんじゃないですか」
たしかに一理ありますし、お気持ちは非常によく分かります。とくに心身のエネルギーが低下している患者さんは、一般論ではどうにもならない切実な状態におられることも事実です。
ただ、たとえば足の骨折とその後の静養生活によって低下した筋力を回復させるには歩行訓練が要されるのと同様に、心の不調や病とそれに伴う療養生活によって低下した心身の活動性を取り戻すには相応のリハビリが要されます。
リハビリは「服薬さえしていれば勝手に治る」という受動的なものではなく、無理のないペースで努力を積み重ねることでしか達成できない能動的なものです。若干キビシイ現実になるかもしれませんが、「休息期」の次には「回復期」がやってきて、受動的休養から能動的回復へのシフトチェンジが求められるのです。
調子がすぐれない日は外出するのもしんどいでしょう。長年の運動不足で30分のウォーキングも難しい人だっているでしょう。でも、「だから何もできない」というオール・オア・ナッシングではないはずで、5分だけ近所を歩いてみる等ならできるのではないでしょうか? これが一週間続けば、翌週は10分、翌々週は15分……という風に歩く時間を少しずつ長くしていけるでしょうし、半年後にはハイキングやジョギングだって可能になっているかもしれません。まさに「雨だれ石を穿つ」です。
「今できないことを探してきて、無理だと言って何もしない」ことは短期的には楽ですが、本当は「今できることを探してきて、無理のないペースで続行する」ことが長期的には大切です。これは行動活性化療法やアドラー心理学にも通じる考え方です。
そんなわけで、まずは初めの一歩から。私の場合は、近所の河川敷での亀のように遅いジョギングから始めました。皆さまはどんなことからなら始められそうですか?
文責:臨床心理士・名倉