おうばく通信
BUCきょうと機関誌『ばっくる』連載エッセイ
2017年7月 1日 (土)
月刊きょうと/「日がな一日」(2017年7月)
今回はメンバーのぽぽさん(男性)が、とある日の喫茶店での鬼気迫るひとときを軽妙なタッチで描いてくださいました(笑)。
今日も暑い日だ。また熱中症警報が出るのだろう。
私は喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら、たばこをくゆらせている。窓向こうの交差点では、会社員であろう人たちが汗をぬぐいながら行き来している。
私は今、休職中だ。心の病で働くことを止められている。
仕事のない1日は長いものだ。1日が30時間、40時間にも感じてしまう。時間つぶしは喫茶店や図書館で過ごすしかない。
そういえば、図書館では同じような顔ぶれをよく目にする。彼らも休職中なのだろうか。それとも作家かなにか、そのような職業の人なのだろうか。
そう思えば髪型や服装は意に介さないようだし、太宰治のような風体の人もいる。いや、もしかしたら資産家なのかもしれない。余裕のある時間で勉強し、一大イノベーションを狙っているのかもしれない。
この喫茶店にも不思議な人がいる。
窓辺でコーヒーを一杯頼んだきりで、雑誌も読まずスマホをいじるでもなくずっと外の景色を見ている。
刑事が誰かを張り込んでいるのだろうか。それとも、雑誌のグラビアモデルを探しているスカウトマンなのだろうか。もしかしたら、テロリストか。交差点を行きかう人を数えて、一番人通りの多い時間帯の統計を取っているのかもしれない。
そういえば、ときおり指でリズムを取っている。昔何かの映画で見たことがあるが、時計を持たずに時間の流れを体に刻みつけている、その動作なのかもしれない。
おっと、ウエイトレスが隣のテーブルを拭きに来た。
誰も使っていないテーブルのはずだが、私の様子を不審に思ったのか、やけにテーブルを磨いている。窓辺の彼の仲間か。そうなるとこの店自体が組織の隠れ家なのかもしれない。
私は意に介さずたばこに火をつけた。不自然な動きはしまい。何事もなくたばこをくゆらそう。
気が付けば、この喫茶店にいるのは私と窓辺の彼とウエイトレス、そしてカウンター内のマスターだけだ。2~3時間も続くこの状態は異常だろう。
マスターの目が私を捉えている気配がする。ここはおとなしく退散すべきだろうか。私は自然な動作でネクタイをしめなおした。
慌てず自然な動作で鞄を持ち、静かに店のドアを開けた。
すると、「ちょっと!」と、あのマスターの声が追いかけてきた。
―なんだ、私を巻き込むのはやめてくれ―
「コーヒー、400円ですよ」
この喫茶店も居心地が悪くなった。
次の喫茶店に出勤するとしよう。あと2~3時間もすれば「ただいま」と言って家に帰れるから。