おうばく通信
おうばく心理室コラム
2017年3月 5日 (日)
【おうばく心理室コラム/2017年3月】タバコをやめた7つの秘訣??
まったくの私事でまことに恐縮ですが、二十年余りにわたって吸っていたタバコを昨年でやめました。それがどうしたという話ですが、「でも禁煙外来は精神科でも扱っているし……依存症についてはカウンセリングで扱うこともあるし……少しでも参考になったらいいなあ」と我ながら見苦しい言い訳を並べつつ、今回は禁煙についての私見を連ねさせていただきたく思います。
私がタバコを吸い始めたのは大学に進学する少し前で(苦笑)、このように言うと少し驚かれることもあります。私自身どちらかというと真面目でおとなしいタイプなので、「若い時分から喫煙していたようには見えないのにねえ」と思われやすいようです。
実際のところ、子どもの頃からどちらかといえば「イイ子」で育ってきたんですが、高校生くらいになると周りからそういう風に見られるのが苦痛になってきて、ちょうど当時傾倒していた筒井康隆や中島らも、養老孟司といった文筆家たちがみな喫煙者だったこともあって、憧憬と好奇心からタバコに手を出してしまったというのがコトの次第です。まァ、非常に単純で分かりやすい反動形成といいましょうか。
ちなみに近隣のもっさりしたオジサンなども立派な愛煙家でしたが、彼らはあくまで例外的存在。「例」より「例外」のほうが多くてもなんら疑問を抱かないのが、若さの素晴らしいところです。
当初はスタイルから手を出したタバコでしたが、毎日吸っているうちに習慣性、依存性が形成されていきました。それほどヘビーなスモーカーではなく一日に4~5本程度ではあったものの、気がつけば半日くらい吸っていないとソワソワしてくる、いつも吸っている時間に吸えないとイライラしてくるといった感覚になっていました。
ここ何年かは世間的にも嫌煙ブームが広まり、喫煙できる場所がどんどん少なくなったり、タバコを持っているだけで白い目で見られたりで、非常に肩身の狭い思いを味わうようになってきました。それと同時に、周りから「体に悪いよ」「早く禁煙しなよ」等と言われる機会も増えましたが、元来のアマノジャクな性格ゆえ、なかば片意地を通すようにして喫煙を続けてきました。
とはいえ、愛煙家だった恩師が肺ガンを患われたと聞くと「やっぱりタバコがよくなかったのか……」と不安になったり、ときおり咳き込んだりすると肺ガンという文字が脳裏をよぎったりしたのですが、長いものに巻かれたくない反発心も手伝って、昨年までは禁煙しようとは一度たりとも考えませんでした(目先の喫煙欲求を満たすための言い訳として、反発心という言葉を都合よく使っていただけな気もしますが……)。
こんな私が突然タバコをやめたのは、自分の中での次のような葛藤の結果でした。
・ここ数年で食事と運動、睡眠の向上を心がけたところ驚くほど調子が良くなった。
・でも喫煙していると、やっぱり喉や胸がいがらっぽくて不快感がある。
・だったら禁煙すればさらに調子が良くなるのでは?
・それに最近では喫煙場所を求めてさまようストレスも相当なものだよなァ。
・そうそう、趣味の自転車をバージョンアップしたいと考えているんだった。
・禁煙すれば調子が良くなり、自転車も速く走れるようになるかもしれない。
・よし、新しい自転車を買うのと引きかえに、禁煙することにしよう!
このような背景から禁煙に踏み切ったわけですが、その際に意識した心理学的なポイントに触れながら前後の経緯を書いてみます。
まず、誰から言われたわけでもなく、ある日突然思い立って自分からタバコをやめました(←ポイント1)。そして翌日から、さっそく周りに「タバコやめることにしたよ」と吹聴しました。(←ポイント2)。
禁煙後の数日間はちょっとツラい状態を味わいました。とくに、いつも喫煙している時間になったり、いつも喫煙している場所に来たりすると、吸いたくてたまらなくなってきます。しかしここで、「長年吸ってきたタバコを突然やめたんだから禁断症状の感覚が出てくるのも当然だよなァ」とあるがままを受け入ながら(←ポイント3)、「絶対に吸っちゃダメだ!」と自分を抑えるのではなく「今は吸わずにおいて、どうしても吸わないといられなくなったら今度また吸おう」と先延ばしにして(←ポイント4)、散歩や映画鑑賞など別のことを行いました(←ポイント5) 。
禁煙して一週間ほどすると、禁断症状の感覚がふっと軽くなりずいぶんと楽になりました。喉や胸のいがらっぽさがほとんど消失し、運動したときも息があがりにくくなるなど好調を実感するようになりました(←ポイント6)。
禁煙して一ヶ月が経つと吸いたい欲求そのものをあまり感じなくなり、タバコのない生活が当たり前という感覚になってきました。そこで引き続いての禁煙を決断するとともに、それと引き換えに新しい自転車を奮発して購入しました(←ポイント7)。タバコ代をすべて貯金したとしても何年分もの出費でしたが、逆に言えばその何年間分はタバコを買えないなァと自分に言い聞かせながら、現在も気に入りの新しい自転車を人生の友としています。
というわけで以上、重要ポイントの1~7までを整理してみます。
【ポイント1】:誰かから命じられたのではなく自分から行う。
→誰かからの指示や命令でなにかを行うと、自分の意に反して従っているという不満感から長続きしにくくなります。そうではなく自分の意志で決めることが、物事を継続する原動力となります。また自分で決めたことを実行し続けること自体が、セルフコントロール力を高めるトレーニングにもなります。
【ポイント2】:自分の意志を周りに伝える。
→私たちは、周りの人から一貫性のある人物だと思われたい性質を持っています。なので、あらかじめ自分の意志を周りの人に伝えることが、有言実行を貫く原動力となります。
【ポイント3】禁断症状が出てくるのも当然、とあるがままを受け入れる。
→禁断症状を感じないようにしようとか、考えないようにしようとか意気込みすぎると、逆にタバコのことを四六時中考えてしまうことになり苦痛が増大します。ダイエットなども同様で、「ケーキのことは絶対考えないぞ!」などと思い詰めると、結果的にいつもケーキのことで頭がいっぱいで食べたくて仕方がなくなってしまいがちです。
【ポイント4】とりあえず今は吸わず今度にしよう、と先延ばしにする。
→「今後もうゼッタイに禁止!」と思うと、かえって枯渇感から希求が強まってしまうことがあります。それよりは、「今はやめておいて、また今度にしよう」と考えて先延ばしを繰り返すほうが、とくに禁煙やダイエットの初期は失敗しにくいと言われています。
【ポイント5】散歩や映画鑑賞など別のことを行う。
→これはアテンション・コントロールと呼ばれる基本的な技法です。じっと何かを我慢し続けていると我慢しているつらさにばかり意識が向いてますますつらくなりやすいので、意識的になにか別の作業などに集中したほうが楽に過ごせるというわけです。
【ポイント6】調子の改善などプラスの変化を実感する。
→本コラムで何度か取り上げていますが、「何か行動を起こしたらプラスの結果につながった」という感覚(=自己効力感)が、その後も行動を続ける大きなモチベーションになります。禁煙したらこれだけ呼吸器の調子が改善して、体力も向上するんだ! という感覚は常に自分自身に言い聞かせるようにしています。
【ポイント7】禁煙と引き換えに欲しいものを購入した。
→いわゆる自分へのご褒美というやつです。ある程度達成したタイミングで行うほうが効果的なので、1ヶ月程度の禁煙実績を出してからご褒美を購入しました。ロードバイクの自転車というと決して安くない買い物ですが、「これだけのモノを買ったのだから」と自分の中で釣り合いを取ろうとする心理も出てきますし、また「タバコを吸う代わりにサイクリングで気分転換しよう」という代替効果もあるので、私にとっては一層の抑止力(笑)になっている気がします。
……いかがだったでしょうか? もちろん私個人の経験ですので、これが万人に向いているとは言えないと思いますが、禁煙その他、依存症にお悩みのかたの参考に少しでもなれば幸いです。
文責:臨床心理士・名倉