おうばく通信
おうばく心理室コラム
2016年4月 5日 (火)
【おうばく心理室コラム/2016年4月】カウンセラーをしていて悲しいこと
前回コラムでは「カウンセラーをしていて嬉しいこと」を書いたので、今回はカウンセラーという仕事をしていて悲しいことについて書いてみます。
まず筆頭にくるのは、「患者さんの症状が悪化したまま元気になってくださらないとき」です。私たちとしては、患者さんのつらさを少しでも軽くできればとの一心から、カウンセリングを通じてさまざまな関わりや提案をするわけですが、それらが一向に功を奏さず患者さんのつらさが続いたり、むしろ状態が悪化したりすると、病気の重さを嘆きたい気持ちや、それを軽減できない自分のカウンセラーとしての未熟さを責める気持ち、患者さんに対する申し訳ない気持ちなどが入り混じって募ってきます。
書きにくい事柄ではありますが、その極致が患者さんの死、とりわけ自死による終結でしょう。精神的に追い詰められている患者さんに対して、カウンセラーが手持ちのカードを精一杯使って関わり、それでも危なそうなときには精神科医にもつないだり、他の機関にも通っていただいたりしながら無事を祈るわけですが、そこで患者さんの自死という形で終わりが訪れたときの喪失感、無力感、自責感は非常に大きなものとなります。
筆者は外来・入院あわせて千人前後の患者さんのカウンセリングを今までに担当させていただいていますが、ほんとうに幸運なことに、担当中に自死された患者さんは現在のところおられません。ただ、おうばく病院に入院しておられるときにカウンセリングを担当させていただいた方で、退院された後に自死されたことを知ったケースは2件あります。あの頃は上向き調子であったのに、死を選ぶ前になぜもう一度相談してくださらなかったのかという悔しさと、でもそこで再び訪れてもらうだけの信頼とスキルが自分には無かったのかいう自責とが交錯しました。
ただ、患者さんが順調に改善しなければすぐ悲しくなるかというと決してそうではありません。症状の治りかたは本当にケース・バイ・ケースで、数ヶ月で良くなる人もいれば、数年単位を必要とする人もいます。もちろん、その期間を少しでも短くする意識と努力は大切だと思いますが、焦らずにゆっくり治療を進めることが結局は近道であることや、1年2年くらいの停滞で絶望するのはあまりにも早すぎることを、この仕事に携わっている経験から常々痛感しています。それでも、患者さんの苦痛が長期化するとこちらも焦ってしまうことがあり、ここは難しいところなのですが……。
10年近くにわたって担当させていただいた患者さんからの言葉が印象に残っています。
「つらくて何もできない時期が何年も続いていたとき、周りの友人も家族も初めのうちは心配して親切にしてくれたんですけど、だんだん離れていったり冷たく厳しい言葉を浴びせてくるようになってきたりして、それが余計にこたえました。そんな中でカウンセラーの先生だけがずっと変わらず、ありのままの私に耳を傾けて受け入れ続けてくださって、それが前に進むための力になっていった気がします」
この言葉は悲しいことでなく嬉しいことのほうですが、患者さんにとってつらい状態が長く続いてもカウンセラーが焦らず一緒に踏ん張ることの大切さを学ばせていただいたように感じています。
カウンセラーをしていて悲しいこととして次にくるのは、カウンセリングに来談された方はそれ以降、私生活ではお会いできなくなる点でしょうか。逆に、私生活での友人や知人は、たとえ相手が精神的にしんどくなっても、友人知人としての相談には乗りますが、それ以上の「カウンセリング」という治療場面では担当しません。
友人や知人という立場だと身近すぎて、相手に対して「こうあるべきだ」という価値判断や「こうあってほしい」という希望的観測が入りこんでしまい、冷静な判断、治療的な判断を下せなくなりやすいからです。だからこそ、患者さんとしてカウンセリングに来談された方は、私生活での友人や知人にはなれません。
症状がすっかり良くなったとしてもそれは同じです。なぜなら、今は状態が良いけれども、またいつか悪化してカウンセリングが必要となる可能性があるからです。いったん私生活での友人や知人になってしまうと、そうなったとき治療を担当できなくなるのです。
率直なところ、来談される患者さんの中には、とても興味深い話をされる方や、自分と共通する趣味を持っている方、話題が豊富な方などなど、実生活でもいっしょに遊びに行ったりしたら楽しいだろうなあと思うケースもあります。しかし、カウンセリングの場で出会ってしまえば友人にはなれない、友人として出会ってしまえばカウンセリングの場での相談には乗れない。これがカウンセラーという仕事の悲しいところでもあります。
ともあれ、悲しいことばかりとらわれ過ぎず、嬉しいことを糧としてこれからも仕事にのぞんでいきたいと改めて思う昨今です。
文責:臨床心理士・名倉