おうばく通信
おうばく心理室コラム
2016年2月 5日 (金)
【おうばく心理室コラム/2016年2月】悪徳カウンセラーの見分けかた
「カウンセリング」という言葉には、なんとなく胡散くさい雰囲気というか、そのような先入観が世間的にあるような気がします。
なんといってもカウンセラーには法的な国家資格がないため(2016年2月現在)、どんな人でも自ら名乗れば「自称カウンセラー」になれてしまう実情があります。現在のところ、臨床心理士という資格が指定大学院の修了と学科試験および面接試験への合格という最もしっかりした基準を課している認定資格とされていますが、それ以外にもさまざまなカウンセラー関係の資格が存在し、中には通信教育のみで取得できるものもあるようです(なお、医師からの指示による心理臨床行為を主な想定とした「公認心理師」という国家資格が近年内に開始されることが先の国会で決議されました)。
その結果、スピリチュアル系や占い系などを含めてさまざまな人たちが「カウンセリング」を掲げる現状に至っており、このことが冒頭に述べた胡散くささの一端を担っているように感じています。スピリチュアルや占いを否定するわけではありませんが、これらの中には悪徳と思われるもの、反治療的と思われるものが一部あるのは事実だと思っています。
そこで今回は、悪徳なカウンセリングとそうではないカウンセリングとの見分け方についての私見を述べてみます。
……というわけでズバリ結論から言うと、それは「エンパワーメント」の視点があるかどうかです。
エンパワーメントというのは「本人を勇気づけて希望を与え、本人の活力や本来の能力を引き出そうとする関わり合い」を意味する言葉で、良識的なカウンセラーは必ずこの姿勢を持っています。一方、悪徳カウンセラーはエンパワーメントの姿勢を持たず、逆に来談者がカウンセラー無しでは暮らしていけなくなるような依存関係・支配関係へと持ち込もうとします。
どういうことか? 例に沿いながら説明してみます。
たとえばここに、仕事のうえで同僚との人間関係に悩んでいて、仕事を続けるべきか転職すべきか迷っている患者さんがいるとします。
エンパワーメントの姿勢を持つ良識的なカウンセラーであれば、このような患者さんが来談された場合、まずはしっかりと話をお聴きしてこれまでの経緯と現在の状況とを整理したうえで、「同僚との人間関係をうまくやっていけるスキルや、転職するかどうかを自己決定できる力を患者さん自身が会得すること」を治療目標として面接をすすめていくのが通例です。それがいい結果につながれば、患者さんに対して「あなたが努力して対処法を身につけたからこそ事態が好転したのです」と伝えることによって患者さんの自信と勇気につなげられますし、うまくいかなければ別のやり方を一緒に検討することで解決の糸口を探っていきます。そして最終的に目標が到達されれば、今後同じようなことが起きても患者さんはカウンセラーの力を借りずに自分ひとりの力で問題を解決できる――つまり良識的なカウンセラーは、患者さんをエンパワーメントしてカウンセリングを卒業していただくことを面接の第一目的としているのです。
一方、エンパワーメントの姿勢を持たない悪徳カウンセラーは、患者さんの話をしっかりお聴きするところまでは同じでしょうけれど(相手の話にちゃんと耳を傾けないようなカウンセラーは敬遠されますから)、そこから先の面接は、スピリチュアルであれば前世の因果、占いであれば占星術の結果といった外的要因を持ち出して、「この同僚とは前世での確執がありますから距離をおきましょう」「あなたの星のめぐりでは転職するが吉と出てきます」といった指示を患者さんに与えるのが通例です。そして、それがいい結果につながれば、悪徳カウンセラーは「私の言うことに従ったから成功したのです」「だから今後も私のところに通っていれば大丈夫」と念を押し、悪い結果につながれば「私の言うことに従ったからこのくらいの小さな不幸で済んだのです」「だから今後も私のところに通っていれば大丈夫」と念を押しする――つまり悪徳カウンセラーは、患者さんを自分の手元から離さずカウンセリングを卒業させないこと、それによって支配感と利益とを得続けることを面接の第一目的としているのです。
ただ、こういった悪徳カウンセラーが後を絶たないことにも理由があります。患者さん側としても、自分で考えたり努力したりする必要がなく、カウンセラーの指示に従ってさえいればいい状況というのは、ある意味「楽」なのです。しかしその短期的な「楽」さの代償として、自分の問題解決能力や自己決定能力がどんどん衰えたり、経済的出費がどんどんかさんだりするわけで、長期的には患者さん自身が損をすることになります。
これは身体面の治療でも同じです。たとえば足を骨折して歩けなくなった患者さんの場合、再び自分の足で歩けるようになることを目標として適切なリハビリ計画を立てながら関わっていくことが、治療者としてのエンパワーメントの視点です。逆に、現在歩けないからといって治療者が患者さんを抱っこして移動してしまうと、患者さんの歩行能力はどんどん退化し失われていくわけで、このような関わりを続けるのはエンパワーメントの視点が欠如している点で治療者失格と言えます。
患者さんにとっては、ずっと抱っこしてもらうほうが短期的には楽かもしれませんが、長期的には反治療的となってしまうのはカウンセリングと同じです。
ただし、エンパワーメントの姿勢を持つ良識的なカウンセラーであっても、カウンセラーが依存対象となって支えなければ日常生活すら送れないほど不安定な状態にある患者さんのケースでは、一時的にあえて依存関係を育むことでなんとか危機を持ちこたえて、それから先に進んでいくための力を取り戻していただくこともあります。また、患者さんの自己決定を待っていたら取り返しのつかない事態に陥るようなときは、カウンセラーが「これはすべきではありません!」「これをしましょう!」と直接的なアドバイスをくだす場合もあります。
つまり、「カウンセラーの支えがあって患者さんが安定していること」をゴールとするのではなく、「カウンセラーの支えがなくても患者さんが自力で安定できること」を最終的なゴールとしているのです。
したがって、依存や指示がすべて悪いわけではなくケース・バイ・ケースではあるのですが、こういった関わりによる支配-被支配関係を長引かせようとするカウンセラーは悪徳との誹りをまぬかれ得ないでしょう。
繰り返しになりますが、本稿はスピリチュアル系や占い系のカウンセリングをすべて否定したいわけではありません。これらの技法を用いて患者さんの気持ちを後押ししようとする良心的なカウンセリングを行っているところもあろうかと思います。
ただ、それらはたとえ良心的であろうとも、患者さんの問題解決能力や自己決定能力を高めようとしないならばエンパワーメントとは相反するものであり、患者さんのエンパワーメントを目的として臨床心理学や精神医学の理論に基づいて実施している私たちの心理カウンセリングとは別物であることはご理解いただければ幸いです。
当カウンセリングルームのカウンセラーも全員、エンパワーメントの視点からの面接を行う訓練を受けた「臨床心理士」有資格者です。スピリチュアルや占いはやっておりませんが、エビデンスに基づいたカウンセリング~認知行動療法や対人関係療法など~を中心とした心理療法を提供していますので、なにか行き詰まりがありましたらご相談いただければ幸いです(用いる技法は各カウンセラーによって異なります。詳しくはプロフィールをご参照ください)。
文責:臨床心理士・名倉