おうばく通信
おうばく心理室コラム
2016年1月 5日 (火)
【おうばく心理室コラム/2016年1月】失敗したときに「なぜ?」と考えるのは避けましょう
私たちは何かに失敗すると、「なぜ失敗したんだろう?」と考えがちです。
しかし、ここに落とし穴があります。なぜなら、失敗して落ち込んでいるときに「なぜ?」と考えると、必要以上に自分を責めるような考え方に陥りやすいからです。
カウンセリングの場でも、とりわけ解決志向アプローチなどでは、患者さんが失敗したり、症状を悪化させたりしたときに、「なぜ?」と訊くことはほぼ無いと断言できます。こういうときに「なぜ?」と原因を追及すると、患者さんは自分が責められていると感じやすいからです。
患者さん:「昨日また、過食嘔吐しちゃったんです」
スタッフ:「なんでそんなことしたの!?」
患者さん:「…私の意志が弱かったんです」
スタッフ:「もっとしっかりしなきゃダメじゃない!」
患者さん:「そうですよね、私ダメですよね(涙)」
このような会話になると、患者さんは一層自信をなくして、ますます病状が悪化してしまう可能性すらあります。
「なぜ?」という質問が禁句かと言えば、決してそんなことはありません。患者さんが何かに挑戦して成功したり、症状が改善したりしたときにこそ、「なぜ?」と訊いてみると、自信を取り戻すチャンスになるのです。
患者さん:「昨日は過食せずに済んだんです」
スタッフ:「へぇー、なんで過食せずに済んだの!?」
患者さん:「そうだなあ…。晩ごはんはちゃんと食べるように気を付けたのと、その後は旦那とテレビで映画観てたから、過食のこと忘れてました(笑)」
スタッフ:「晩ごはんをちゃんと食べるよう意識したことと、ご主人と映画を観て過ごしたことがよかったのかな」
患者さん:「確かにそうかも」
このような会話になれば患者さんは、自分の意識や努力によって症状を改善できたんだという自信(=自己効力感)を取り戻せますし、何が自分にとってよい行動なのかも再認識できるでしょう。
ただし、失敗した後なにもしないのがいいとは限りません。解決志向アプローチでは物事がうまくいかなかったら「Do Different」(それまでと違ったことをしましょう)という原則があり、今後同じような失敗を繰り返さないために、振り返りと今後の対策を具体的に考えることが大切となってきます。つまり、失敗に対して「なぜ?」と漠然と考えるのではなく、どの手順が非効果的だったのか? それに代わってどのような行動を取るほうがよさそうか? 等を具体的に考えるのです。
失敗に対して漠然と「なぜ?」と考えると、原因探求の焦点が知らず知らずのうちに内側(自分自身)に向かう結果、「自分が無能だからだ」といった極論に陥ってそれ以上前に進めなくなりがちです。そこでその焦点を、意識して外側(具体的な手順や行動など)に向けることによって、今後の再発防止策や改善策といった生産的な方向へと思考を進めやすくなるわけです。
ちなみに、何かに成功したときは逆に、「なぜ?」と漠然と考えたほうが良いと言われています。原因探求の焦点を外側(具体的な手順や行動など)よりも、内側(自分自身)に向けたほうが、「この手順が良かったから成功しただけだ」といった醒めた考え方ではなく、「自分が頑張ったから成功したんだ」といった自信(=自己効力感)につながりやすいからです。
そんなわけで皆さまも、失敗したら「どの手続きに問題があったのか?」と具体的に考え、成功したら「なぜ成功したのかな?」と漠然と考えるよう心がけてみてください。もしかすると、チョットだけかもしれませんが自分に自信がつくような物の見方になれるかもしれません。
文責:臨床心理士・名倉