おうばく通信
おうばく心理室コラム
2012年1月 4日 (水)
【おうばく心理室コラム/2012年1月】心理テストって何をするの?(その1)
当院および当カウンセリングルームでは、必要に応じて心理テストをおこなっています。
世の中には心理占い的なテストが氾濫していますが、それらの多くは根拠のないものだったり、どのように回答しても当たるように作ってあるものだったりします。それに対して、私たちが臨床現場で使っているのは、いわば「本チャン」の心理テストです。
そこで今回は、現場で実際に使っている心理テストについてご紹介してみたいと思います。
ひとくちに心理テストといってもさまざまな種類がありますが、検査方法としては、「質問紙法」「投影法」「作業検査法」の3つに大別されます。
「質問紙法」は、アンケート形式の設問に対して「はい・いいえ」や「大いに当てはまる・やや当てはまる・あまり当てはまらない」といった選択肢の中から回答し、その合計得点が全国平均値に比べて高いか低いかによって、性格傾向や症状の強さなどを判定しようとするものです。この方法を用いた検査としては、MMPIやTEG(東大式エゴグラム)などが挙げられます。
この方法のメリットとして、平均値に比べて自分の得点がどのあたりにあるのかを知ることができるため、ある程度客観的な結果が得られるという点があります。一方でデメリットとしては、比較的容易に結果を操作できるため、ウソをつこうと思えば実際より良いようにも悪いようにも自分のプロフィールを変えることができてしまう点があります(したがって質問紙法の心理テストの中には、ウソを書いているか正直に書いているかを同時に判定できるものもあります)。
また、質問紙法の限界として、検査結果が「自分で自分のことをこう思っている」というセルフイメージに偏りやすいことが挙げられます。そういえば私が学生時代に質問紙法の実習をしていたとき、「(私は)優柔不断なほうである」という設問に対して数分間沈思黙考したすえ、「いいえ」と回答した級友がいて唖然としたことがありますが、これなどは検査結果よりも行動観察のほうを重視すべき典型例だと言えるでしょう(よく似た例としては、「(私は)謙虚な人間である」という設問に対して迷わず「はい」と回答する人が本当に謙虚と言えるのか? というのもありますが…)。
「投影法」は、あいまいな刺激や設問に対する自由反応から、そこに投影された心理状態や性格傾向を読み解こうとするものです。この方法を用いた検査としてはロールシャッハテスト(インクの染みのような印刷がされた図版を見て、それが何に見えるかを答える)が有名ですが、それ以外にもバウムテスト(画用紙に描いた樹木の絵から性格を判定する)やTAT(絵画統覚テスト;さまざまな場面を描いた絵画を見て、連想されるストーリーから心理傾向を分析する)などがあります。
この方法のメリットとして、心の比較的深層の部分、すなわち自分で気づいていない自身の傾向が出てきやすい点や、一般の人々には結果の操作が難しいのでウソをつきにくい点があります。一方でデメリットとしては、統計的なバックボーンが乏しく偶発的要因や検査実施者の主観的解釈が入りやすい点、場合によっては患者さんへの侵襲性(心の深層部分に働きかけられることによる負担)が大きくなる点があります。
邦画の『39』という映画では、罪を犯した青年が実際には正常であるにもかかわらず、自らの罪を軽くしようと精神異常を演じる場面が出てきます。このシーンでも投影法の心理テストが用いられますが、その検査結果があまりにも教科書どおりな病的所見だったため逆に詐病がバレてしまうという、まるでコントのようにすっとこどっこいな展開がありました。
「作業検査法」は、計算問題やパズルなどの作業課題に取り組み、そのパフォーマンスによってさまざまな能力や性格傾向を調べようとするものです。この方法を用いた検査としては、内田クレペリン検査(単純な足し算を延々と実行して、そのスピードの変化や遂行量から性格傾向や能力を測定する)や種々の知能検査が広く知られていますが、現在はより科学的な神経心理検査(記憶力検査や前頭葉機能検査など)も数多く開発され、作業検査法の仲間入りをしています。
この方法のメリットとして、実際の能力以上の結果を出すことはできない点があります。実際よりも自分をよく見せられないわけですから、それだけ検査の結果が信頼できることになります(もちろん実際よりも能力が低いように演じることは可能ですが)。また、質問紙法と同じく全国平均値と自分の得点と比較できるので、ある程度客観的な結果が得られるというメリットもあります。一方でデメリットとしては、検査によって分かるのが能力や性格傾向の表層的な側面に限られる点が挙げられます。作業検査法では、その人の信念や深層心理などは調べようがありません。
このように心理テストは、方法によってそれぞれ一長一短があります。そのため、実際に検査をおこなう際にはいくつかの種類の方法を組み合わせて、お互いの短所を補い合うようにしています。
次回はさらに、心理テストの「内容」についてもご紹介していきたいと思います。
文責:臨床心理士・名倉